勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

626 大公邸にて

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 メルリルはニコニコと笑顔だ。
 俺といずれ夫婦になると宣言したのがよほどうれしいらしい。
 女心がさっぱりわからないぞ。

「ダスターはさ、頼りになるときにはどっしりとしているのに、油断しまくっているときはヘタレてるよね」
「どういう意味だ? テスタ」
「どうもこうも、自分の女に余計な気を使わせちゃダメだってことさ」

 そう言って、思いっきりすねを蹴とばして行った。
 お前、近接格闘の達人に蹴られるというのがどういうことか絶対わかってないだろ!
 涙目になりながら崩れ落ちるように座り込んだ俺に、慌てたようにメルリルが寄り添う。

「大丈夫? ミュリアを呼ぶ?」
「いや、そこまで大げさな話じゃないから大丈夫だ。あー、その、メルリルさん」
「む? なんですか、他人行儀です」
「ピャウ!」
「フォルテは少し黙っているように」
「ギャーギャー!」

 俺は無言でフォルテを掴むと、背負い袋に突っ込んだ。
 こんなことでケガするようなやわな奴じゃないからな。

「だいぶ待たせてしまって。すまない。その、戻ったら必ず式を挙げるから」
「はい!」

 にっこりと微笑まれる。
 うん、毛一筋の邪気も感じられない、純粋な喜びの笑顔だ。
 おかげで俺のほうにひどい罪悪感が……。

「ピギャッ! グギャッ!」
「いてっ! いてぇっ! 悪かった、悪かったよ!」

 男としての情けなさを感じる暇もあればこそ、背負い袋から飛び出したフォルテに頭をかじられる。
 やめろ! ここは偉いさんの家なんだぞ! 怒られるだろうが!

「あら? その子、飾りじゃなくて生きていらしたのですね。挨拶が遅れてごめんなさい。何ちゃんって言うのかな? それとも何くん?」

 ファラリア嬢が騒ぎを聞きつけて戻って来た。
 そしてフォルテに視線を合わせて挨拶をしようとする。

「いや、こいつ。俺の使役獣なんですが、狂暴な奴なんで、近づかないほうがいいですよ」
「ギャッ! クエッ!」

 俺とフォルテが見苦しく争っていると、ファラリア嬢が楽しそうに笑った。

「ふふっ、仲がいいのね。あのね、もしよろしければ、旅の間のエンデのことを教えてくださる?」
「エンデというと、サーサム卿のことですか?」
「ええ。あの人ったらこの家に滅多に寄り付かないで仕事仕事で外を飛び回っているの。私達がどんなに心配しているかわかってないのよ」
「英雄殿はお強いですからね。大恩ある大公陛下のお役に立ちたいのでしょう」
「違うわ! 大恩があるのは私達のほうなの。あの身分だって、お父様がエンデが自分の思う通りに生きられるようにって任命したのよ。それなのに、その身分を自分の生涯の使命みたいに感じて、危ないことばっかり!」

 このファラリア嬢という人は、どうやら英雄殿を心から心配しているようだ。
 それに俺が身分の低い冒険者だということを知ったのに、まるで対等な相手のように話をする。
 なかなか面白いお嬢さんだと思った。

「ファラリアさま。ダスター殿を困らせてはなりません。お客人なのですから。さ、お客人をいつまでも玄関先に立たせておくなど、主の恥ですぞ」
「まぁ、本当ね。私ったらはしゃいじゃって。ごめんなさい」

 英雄殿の言葉に、ファラリア嬢はさっと表情を変化させた。
 先ほどまでの無邪気な少女の顔はなりを潜めて、貴族の女性らしい凛とした態度で勇者達を屋敷へと案内し始める。
 聖女とはよほど気が合ったのか、視線を交わして微笑み合っていた。

 屋敷に入ると、老齢の男女の使用人が出迎えてくれる。
 荷物をさっと受け取ると、先に立って案内してくれた。
 その後はスムーズに客室らしきところへと導かれ、荷物もそれぞれ収めるべき場所の手前に並べて置かれる。
 なによりも、使用人達が無駄口を叩かず、さりとて単に儀礼的ではない対応をしてくれて、かなりありがたかった。
 飲み物や食べ物の好みを聞かれ、部屋は個人個人に割り振るか、ベッドルームが別れている大部屋がいいかと丁寧に尋ねられ、過ごしやすそうな大部屋に案内してもらえたのだ。
 広々と使えるソファーのある大部屋と、二人ずつくつろぐことの出来る鍵のかかる小部屋が五部屋もある、落ち着いた雰囲気の客室である。
 派手さはないが、かなり高級そうな家具が置かれていて、ちょっと緊張したが。
 靴を脱ぐことの出来る絨毯は、いろいろあった旅の後にくつろぐにはありがたい。

 しばらくして、乗り物に長く乗っていた後なので、ということで、軽食と暖かいスープとワインが出た。

「もっとお召し上がりになりたいときにはこちらのヒモを引いてお呼びください。また、何か御用がある場合にも遠慮なさらずに呼んでいただけますと、すぐに参ります」

 使用人達が去り、仲間内だけになると、さっそくゆったりとくつろぎながら軽食を摘まむ。
 正直言うと、俺としては茶を飲みたいところだったのだが、まぁ用意してくれた内容に茶は合わないと思ってあきらめたのだ。

「ふう。師匠。結界はどうする?」
「あー、うん。特に必要ないんじゃないか? 最近ミュリアを酷使しすぎだと思うし」
「わたくしは平気です!」
「いや、魔力を活性化し続けていると、神経が尖って来て、夜眠れなくなったりするし、たまにはゆったりするのもいいだろ。この家の人間に害されるような理由もないし」
「そうだな。ミュリア、師匠の言う通りだ」
「わかりました。常に体調を万全にして備えておくのも大切ですものね」

 なんにでも生真面目な聖女が妙に気負いながら休むことを宣言した。
 もう少し肩の力を抜いてもいいと思うんだがな。
 とりあえず今はそれでいいか。

「それで、アルフ。その、トカゲの飾り・・・・・・はどんな感じだ?」

 俺は暗に若葉の状態を尋ねる。
 化け物のような魔物と、密閉されていたおぞましい何かをたらふく食った若葉は、トカゲの形をした宝石飾りに擬態したまま、その後動きがない。

「変わりない。もし動き出しでもしたら教える」

 手のなかで若葉を転がした後、乱暴にマントの隠しに突っ込んだ。
 あれで文句が出ないということは、かなり深く眠っているのだろう。
 まぁ寝ていてくれるほうが面倒がなくていい。
 うちのフォルテのほうも、いつもの気まぐれぶりを発揮して、今は俺の頭上で寝ている。
 ほんと、人外連中は気楽でいいよな。

「それで、剣はどうなったんだ?」
「きれいさっぱり消えてなくなった」

 俺はハァとため息をついた。
 どうやら勇者の国宝ものの剣はこの世から失われてしまったらしい。
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