勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

627 食事会

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 勇者の剣は繭の状態だった化け物に突き刺さり、糸に絡め取られて体内に入った。
 その後、半分溶けたような状態で羽化した化け物の体内に残った状態だったらしい。
 どうやらあの化け物の形が安定しなかったのは、勇者の剣に込められた魔力が内部から阻害していたためだったようだ。

 そして、その状態の化け物を若葉が魔力に分解して食った。
 後には勇者の剣は残っていなかったという訳だ。
 そもそも若葉の言い分を聞く限り、どっちかというと、あの化け物よりも勇者の魔力をメインで食べたらしいので、その時点で勇者の剣が残るのは無理だったと考えていいだろう。

「折れたとか、砕けたとかなら、多少は残るので事情を説明するのが楽なんだが、ドラゴンに分解されて食べられたというのを信じさせるのは骨だろうな」

 国宝と言うからには金銭に代えられないものだろう。
 勇者の立場が悪くなるのは必至に思える。

「うるさく言うようなら黙らせるから大丈夫だ」

 と、当人は堂々としているので、俺が心配するのはお門違いだとは思うが、庶民的な感覚からすると、国宝とか言われると、ものすごい罪悪感があるぞ。
 国の宝を失った訳だし。

「それよりも、武器がなくなったのが痛い」
「まぁ確かにそれが一番大きいか」

 勇者の役目は人々を守ることなので、そのための武器がないのでは、役目を果たすことが出来ない。
 大聖堂まで行けば何か代わる武器があるかもしれないが、そこまでの道中が不安だ。

「大聖堂にはほかに歴代の勇者さまがお使いになった剣が納められていると聞いておりますので、それをお借りするのが一番ではないでしょうか?」

 案の定、聖女がそう提案した。
 まぁそれしかないよな。
 なんとなく不服そうな表情の勇者は、自分のマントの裾のほうを乱暴に叩く。

「こいつの鱗や爪をはぎ取って、武器を作るという方法もあるぞ」
「そんな!」

 勇者の言いように、聖女が泣きそうな顔になった。

「若葉さんはわたくし達を助けてくださったのですから、そのような犠牲を強いるべきではありません」

 聖女の必死の訴えに、さすがの勇者も不服そうにしながらも自分の提案を引っ込める。
 と、言うか、それ本気だったのか? 冗談だと思ってたんだが。

「それにドラゴンの武器とか、作れる当ては一か所しかないからな」
「却下だ。しばらくはあそこには近づかない」

 俺が辺境領の魔王殿のことを暗に示すと、勇者が嫌そうに宣言した。
 逃げ出すように後にしたからな。
 今あそこに行ったら、少なくとも聖女はもう抜け出せないかもしれない。

 結局いい案が出ずに、その場では勇者の剣をどうやって調達するかという問題は保留となったのだった。
 その夜、大公陛下とその家族を交えた、気取らない夕食会をしたいとの申し出があった。
 公式のものではなく、あくまでも内々に食事を共にするというスタイルだ。
 どうやら英雄殿が、俺達が仰々しいことを嫌っているという話をしてくれたようだ。
 まぁたとえそうだとしても、本当に政治的な意味合いのないものになるかどうかはわからないが。
 とりあえず建前としては、気取らずに普段着でゆったり食事をしようということで、礼装をする必要はないと言われた。

 とは言うものの、俺達は旅装なので、せいぜいマントを脱ぐぐらいしか出来ないんだが、それでいいんだろうか?
 このデカい国で一番偉い人と会う訳だろ?

「本人がいいと言っている以上、それで咎められたり、不快になったりするのは相手が礼儀知らずということになる。大丈夫だ」

 最高クラスの儀式の場から場末の酒場までを網羅した勇者がそう言い切るので、信用することにする。
 一応、着替えがある分は着替えて、汚れたものは洗濯してもらうことにしたから、そう汚くはないと思うんだが、さすがに緊張するな。

 案内された食堂は、庭に面したテラスタイプの場所だった。
 夜なのでせっかくの庭も見えないと思っていたのだが、庭の目立つ彫刻や噴水、そして花々の周りに魔道具の灯りが配置してあり、昼とはまた違った風情のある庭が見渡せるようになっている。
 しゃれた演出だ。
 空には淡く輝く月も出ていて、降り注ぐ魔力光で世界がうっすらと青く輝いている。

 季節的にもこの辺の地域は春の嵐の時期がないとのことで、現在は雨が多い時期も過ぎて、花の季節となっていた。
 夜でもそう寒さを感じないいい季節だ。

 テーブルは大きな円卓で、身分差を気にさせない配慮がうかがえた。
 だいぶ気を使わせたんじゃないだろうか?

「初めまして、勇者さまと、共に世界を救う旅を続ける尊い方々。私はこのディスタス大公国の現大公で、イアヒム・ディゼ・ア・ディスタスです。彼女は我が妻、そしてその隣が長男、次男、長女、次女、三女となります。その隣に座っているのはもう皆さまご存じと思いますが、何度も私と家族の命を救ってくれた我が国の英雄である、親愛なるエンデイィ卿です。どうぞお見知りおきを」

 大公陛下の右隣から奥方とその子ども達、そして英雄殿という席順で、大公陛下の左隣から勇者とその一行という感じになっていた。
 英雄殿の隣は俺だ。
 本当に俺とメルリルの席も用意してあったので、ものすごく緊張している。
 それに、普段着というのも本当のようで、大公陛下もその家族も、裕福な平民程度の服装で食事に臨んでいた。

 給仕を行うのは男女の老人が二人。
 このお屋敷を訪れたときから気になっていたんだが、このお屋敷で働いているのは、ある程度の年齢以上の人間らしい。
 ファラリア嬢が周りに同じぐらいの年齢の者がいないと言っていたが、どうやら本当のようだ。
 何か事情があるのだろうか?
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