勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
430 / 885
第六章 その祈り、届かなくとも……

535 精霊の記憶

しおりを挟む
「まずあの大巫女様が奉納舞いを捧げて」

 なるほどあれば奉納舞いだったんだな。

「聖地を活性化させた」

 聖地を活性化?
 ちょっと巫女様方の感覚は俺のような普通の冒険者には掴みづらいな。

「そうしたらあの花々に宿っていた精霊メイスが……少し成長したミャアの姿になった」
「っ!……そう、なのか」

 つまりミャアの魂は輪に戻らずあの場に留まっていると?

「あ、うん、違うの。あれはミャアそのものじゃなくって、精霊の記憶だと思う」

 メルリルが俺の顔を見て慌てて説明した。
 俺、そんなショックを受けた顔をしていたのか。

「精霊の記憶……だが以前聞いた話では精霊は記憶を残さないと言っていたような」
「説明が難しいけれど、人間のような記憶じゃなくて、魔力がその形に焼きついたような感じ? たとえば木の枝を切るとしばらくはそのなくなった枝の形のままの木の魔力が残るの」
「それ、わかる気がします。実は人間もそうなんです」

 メルリルの説明をなんとか自分なりに理解しようとしていると、聖女がメルリルの話を受けて自分なりの見解を話してくれた。

「腕とか足が切断された人間も、しばらくはその元の足や手の形が魔力的触感として残っているのです。わたくしたちが切断された手や足を繋げる場合、その元の手足の影のようなものに合わせて繋げます」

 うん。
 何かますます混乱して来たが、つまり記憶というのは知識的なものじゃなくて残像的な何かなんだな。
 間違っているかもしれんが、俺の認識ではこのぐらいまでが精一杯だ。

「つまりミャアの形をしたものはミャアではないってことだな」

 それだけわかればいい。

「……ええ、そのはずなんだけど。ミャアの場合は生まれつき精霊の種を体内に持っていたらしいから。少しは魂も混ざっているのかもしれない」
「そうだとしても、本人の核のようなものは魂の巡りに戻ったんだろう?」
「そう思う。ここでは精霊の野に行くと言われているけど」

 まぁ一度入った精霊界は、とうてい人間の魂の留まれる場所じゃないから、もし大連合の人たちだけの場所があったとしても、あれとは別の場所なんだろう。

「とりあえずそれがわかればいい。で、その後の騒ぎはなんだったんだ?」

 俺は肩に止まっていたフォルテをむんずと掴む。そしてギャーギャー騒ぐのを意に介せずに先を促した。

精霊メイスがフォルテを呼んだの。一緒に踊ろうって。精霊は踊りで命を巡らせるの。大地を滋養豊かに、花々を美しく、風は種子や命を運ぶ。全てが歌と踊りを得てさらに輝くわ」

 おう、また巫女独特の感覚が来た。
 まぁともかく、要するにフォルテはミャアに似た精霊に誘われてノコノコ出て行ったんだな。
 俺はフォルテを握る手に力を込めた。

「グギャア!」

 フォルテがじたばたするが気にしない。
 お前どうせダメージなんか受けないからな。

「フォルテが加わったことで、そこに今まで見たことがないような濃度の精霊メイスが誕生したわ。そしたら若葉がそれを食べに行ったの」
「ほうほう」
「貴様は食い気を我慢出来ない子どもか!」

 勇者がチョロチョロ逃げ回る若葉をむんずと捕まえて説教を始める。
 だが勇者よ、その説教はお前にそのまま返したいぞ。

「それでフォルテが若葉を取り押さえたということか。で、その後のあの宝石みたいな花はなんだ?」
「あれはミャアの姿の精霊メイスが、若葉のために生み出したもの。お腹が空くのは仕方ない。かわいそうだって」

 ……そうか、やっぱりただの精霊じゃなくってミャアの魂が少し混ざっているんだろうな。
 ドラゴンの若葉にまで気を使うとか、とうてい普通の精霊では無理だろうし、人間だって出来ない。
 だが見ず知らずの俺たちを助けてくれたミャアならやりそうだ。

「そうか。納得した。フォルテ、最初に飛び出したのはちょっといただけないが、ミャアの姿を写した精霊を守ってくれたのはありがとうな」

 俺は手をゆっくりと開きフォルテに礼を言った。
 フォルテはしばし羽繕いをしていたが、俺の顔を見て「当然のことだ」とひさびさにしゃべった。
 そしてばさりと大きく羽ばたいて俺の頭に乗ると長い尾羽を垂らして座り込む。
 目の前に長い尾羽がぶらぶらしているとうっとおしいが、今回は特別に我慢する。

「結局お前はご馳走を食って満足したんだな。今後こそこそ俺の髪を食うのをやめろ」

 勇者がまだ若葉に説教をかましていた。

「ガウ」『ならば堂々と食するとしよう』
「教主の問答かよ! 堂々としても駄目だ!」
「グルル……」『よしわかった。それならば取り引きをしようではないか。僕はアルフレッドの髪をたまに食べる。アルフレッドは僕の力を借りる。公正な取り引きだ』
「いいかよく聞け。本人が望んでないことを取引材料には出来ない」
『ぬ? ドラゴンの助成を望まぬ者はいないだろう』
「俺は望まない」
『なんと!』

 あれだな、本人たちは真剣なんだろうけど、出来の悪い喜劇の舞台を見ているような感じがするな。

「若葉。お前は段取りを間違えている。アルフと一緒にいたいなら友になれ。何かが欲しいならそのたびに頼め。それが人間のやり方だ」
「師匠、俺はこんなのを友にする気はないぞ」
「ガル?」『友?……しばし待て、貯蔵庫プールにアクセスする。……! よし、僕はアルフレッドの友になるぞ』
「は? いらん」
『友とは気軽に呼び合う仲というではないか。ならば僕はこれから貴様をダスターに倣ってアルフと呼ぼう』
「話を聞け!」

 よしよし、俺はフォルテだけで手一杯だ。
 若葉の制御は勇者たるお前の役目だからな。
 がんばれよ。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です

たまごころ
ファンタジー
「攻撃力が皆無の生産職は、魔王戦では足手まといだ」 勇者パーティで武器や防具の管理をしていたルークは、ダンジョン攻略の最終局面を前に追放されてしまう。 しかし、勇者たちは知らなかった。伝説の聖剣も、鉄壁の鎧も、ルークのスキル『修復』によるメンテナンスがあったからこそ、性能を維持できていたことを。 一方、最果ての村にたどり着いたルークは、ボロボロの小屋を直して、小さな「修理屋」を開店する。 彼の『修復』スキルは、単に物を直すだけではない。錆びた剣は名刀に、古びたポーションは最高級エリクサーに、品質すらも「新品以上」に進化させる規格外の力だったのだ。 引退した老剣士の愛剣を蘇らせ、村の井戸を枯れない泉に直し、ついにはお忍びで来た王女様の不治の病まで『修理』してしまい――? ルークの店には、今日も世界中から依頼が殺到する。 「えっ、勇者たちが新品の剣をすぐに折ってしまって困ってる? 知りませんが、とりあえず最後尾に並んでいただけますか?」 これは、職人少年が辺境の村を世界一の都へと変えていく、ほのぼの逆転サクセスストーリー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。