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第六章 その祈り、届かなくとも……
535 精霊の記憶
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「まずあの大巫女様が奉納舞いを捧げて」
なるほどあれば奉納舞いだったんだな。
「聖地を活性化させた」
聖地を活性化?
ちょっと巫女様方の感覚は俺のような普通の冒険者には掴みづらいな。
「そうしたらあの花々に宿っていた精霊が……少し成長したミャアの姿になった」
「っ!……そう、なのか」
つまりミャアの魂は輪に戻らずあの場に留まっていると?
「あ、うん、違うの。あれはミャアそのものじゃなくって、精霊の記憶だと思う」
メルリルが俺の顔を見て慌てて説明した。
俺、そんなショックを受けた顔をしていたのか。
「精霊の記憶……だが以前聞いた話では精霊は記憶を残さないと言っていたような」
「説明が難しいけれど、人間のような記憶じゃなくて、魔力がその形に焼きついたような感じ? たとえば木の枝を切るとしばらくはそのなくなった枝の形のままの木の魔力が残るの」
「それ、わかる気がします。実は人間もそうなんです」
メルリルの説明をなんとか自分なりに理解しようとしていると、聖女がメルリルの話を受けて自分なりの見解を話してくれた。
「腕とか足が切断された人間も、しばらくはその元の足や手の形が魔力的触感として残っているのです。わたくしたちが切断された手や足を繋げる場合、その元の手足の影のようなものに合わせて繋げます」
うん。
何かますます混乱して来たが、つまり記憶というのは知識的なものじゃなくて残像的な何かなんだな。
間違っているかもしれんが、俺の認識ではこのぐらいまでが精一杯だ。
「つまりミャアの形をしたものはミャアではないってことだな」
それだけわかればいい。
「……ええ、そのはずなんだけど。ミャアの場合は生まれつき精霊の種を体内に持っていたらしいから。少しは魂も混ざっているのかもしれない」
「そうだとしても、本人の核のようなものは魂の巡りに戻ったんだろう?」
「そう思う。ここでは精霊の野に行くと言われているけど」
まぁ一度入った精霊界は、とうてい人間の魂の留まれる場所じゃないから、もし大連合の人たちだけの場所があったとしても、あれとは別の場所なんだろう。
「とりあえずそれがわかればいい。で、その後の騒ぎはなんだったんだ?」
俺は肩に止まっていたフォルテをむんずと掴む。そしてギャーギャー騒ぐのを意に介せずに先を促した。
「精霊がフォルテを呼んだの。一緒に踊ろうって。精霊は踊りで命を巡らせるの。大地を滋養豊かに、花々を美しく、風は種子や命を運ぶ。全てが歌と踊りを得てさらに輝くわ」
おう、また巫女独特の感覚が来た。
まぁともかく、要するにフォルテはミャアに似た精霊に誘われてノコノコ出て行ったんだな。
俺はフォルテを握る手に力を込めた。
「グギャア!」
フォルテがじたばたするが気にしない。
お前どうせダメージなんか受けないからな。
「フォルテが加わったことで、そこに今まで見たことがないような濃度の精霊が誕生したわ。そしたら若葉がそれを食べに行ったの」
「ほうほう」
「貴様は食い気を我慢出来ない子どもか!」
勇者がチョロチョロ逃げ回る若葉をむんずと捕まえて説教を始める。
だが勇者よ、その説教はお前にそのまま返したいぞ。
「それでフォルテが若葉を取り押さえたということか。で、その後のあの宝石みたいな花はなんだ?」
「あれはミャアの姿の精霊が、若葉のために生み出したもの。お腹が空くのは仕方ない。かわいそうだって」
……そうか、やっぱりただの精霊じゃなくってミャアの魂が少し混ざっているんだろうな。
ドラゴンの若葉にまで気を使うとか、とうてい普通の精霊では無理だろうし、人間だって出来ない。
だが見ず知らずの俺たちを助けてくれたミャアならやりそうだ。
「そうか。納得した。フォルテ、最初に飛び出したのはちょっといただけないが、ミャアの姿を写した精霊を守ってくれたのはありがとうな」
俺は手をゆっくりと開きフォルテに礼を言った。
フォルテはしばし羽繕いをしていたが、俺の顔を見て「当然のことだ」とひさびさにしゃべった。
そしてばさりと大きく羽ばたいて俺の頭に乗ると長い尾羽を垂らして座り込む。
目の前に長い尾羽がぶらぶらしているとうっとおしいが、今回は特別に我慢する。
「結局お前はご馳走を食って満足したんだな。今後こそこそ俺の髪を食うのをやめろ」
勇者がまだ若葉に説教をかましていた。
「ガウ」『ならば堂々と食するとしよう』
「教主の問答かよ! 堂々としても駄目だ!」
「グルル……」『よしわかった。それならば取り引きをしようではないか。僕はアルフレッドの髪をたまに食べる。アルフレッドは僕の力を借りる。公正な取り引きだ』
「いいかよく聞け。本人が望んでないことを取引材料には出来ない」
『ぬ? ドラゴンの助成を望まぬ者はいないだろう』
「俺は望まない」
『なんと!』
あれだな、本人たちは真剣なんだろうけど、出来の悪い喜劇の舞台を見ているような感じがするな。
「若葉。お前は段取りを間違えている。アルフと一緒にいたいなら友になれ。何かが欲しいならそのたびに頼め。それが人間のやり方だ」
「師匠、俺はこんなのを友にする気はないぞ」
「ガル?」『友?……しばし待て、貯蔵庫にアクセスする。……! よし、僕はアルフレッドの友になるぞ』
「は? いらん」
『友とは気軽に呼び合う仲というではないか。ならば僕はこれから貴様をダスターに倣ってアルフと呼ぼう』
「話を聞け!」
よしよし、俺はフォルテだけで手一杯だ。
若葉の制御は勇者たるお前の役目だからな。
がんばれよ。
なるほどあれば奉納舞いだったんだな。
「聖地を活性化させた」
聖地を活性化?
ちょっと巫女様方の感覚は俺のような普通の冒険者には掴みづらいな。
「そうしたらあの花々に宿っていた精霊が……少し成長したミャアの姿になった」
「っ!……そう、なのか」
つまりミャアの魂は輪に戻らずあの場に留まっていると?
「あ、うん、違うの。あれはミャアそのものじゃなくって、精霊の記憶だと思う」
メルリルが俺の顔を見て慌てて説明した。
俺、そんなショックを受けた顔をしていたのか。
「精霊の記憶……だが以前聞いた話では精霊は記憶を残さないと言っていたような」
「説明が難しいけれど、人間のような記憶じゃなくて、魔力がその形に焼きついたような感じ? たとえば木の枝を切るとしばらくはそのなくなった枝の形のままの木の魔力が残るの」
「それ、わかる気がします。実は人間もそうなんです」
メルリルの説明をなんとか自分なりに理解しようとしていると、聖女がメルリルの話を受けて自分なりの見解を話してくれた。
「腕とか足が切断された人間も、しばらくはその元の足や手の形が魔力的触感として残っているのです。わたくしたちが切断された手や足を繋げる場合、その元の手足の影のようなものに合わせて繋げます」
うん。
何かますます混乱して来たが、つまり記憶というのは知識的なものじゃなくて残像的な何かなんだな。
間違っているかもしれんが、俺の認識ではこのぐらいまでが精一杯だ。
「つまりミャアの形をしたものはミャアではないってことだな」
それだけわかればいい。
「……ええ、そのはずなんだけど。ミャアの場合は生まれつき精霊の種を体内に持っていたらしいから。少しは魂も混ざっているのかもしれない」
「そうだとしても、本人の核のようなものは魂の巡りに戻ったんだろう?」
「そう思う。ここでは精霊の野に行くと言われているけど」
まぁ一度入った精霊界は、とうてい人間の魂の留まれる場所じゃないから、もし大連合の人たちだけの場所があったとしても、あれとは別の場所なんだろう。
「とりあえずそれがわかればいい。で、その後の騒ぎはなんだったんだ?」
俺は肩に止まっていたフォルテをむんずと掴む。そしてギャーギャー騒ぐのを意に介せずに先を促した。
「精霊がフォルテを呼んだの。一緒に踊ろうって。精霊は踊りで命を巡らせるの。大地を滋養豊かに、花々を美しく、風は種子や命を運ぶ。全てが歌と踊りを得てさらに輝くわ」
おう、また巫女独特の感覚が来た。
まぁともかく、要するにフォルテはミャアに似た精霊に誘われてノコノコ出て行ったんだな。
俺はフォルテを握る手に力を込めた。
「グギャア!」
フォルテがじたばたするが気にしない。
お前どうせダメージなんか受けないからな。
「フォルテが加わったことで、そこに今まで見たことがないような濃度の精霊が誕生したわ。そしたら若葉がそれを食べに行ったの」
「ほうほう」
「貴様は食い気を我慢出来ない子どもか!」
勇者がチョロチョロ逃げ回る若葉をむんずと捕まえて説教を始める。
だが勇者よ、その説教はお前にそのまま返したいぞ。
「それでフォルテが若葉を取り押さえたということか。で、その後のあの宝石みたいな花はなんだ?」
「あれはミャアの姿の精霊が、若葉のために生み出したもの。お腹が空くのは仕方ない。かわいそうだって」
……そうか、やっぱりただの精霊じゃなくってミャアの魂が少し混ざっているんだろうな。
ドラゴンの若葉にまで気を使うとか、とうてい普通の精霊では無理だろうし、人間だって出来ない。
だが見ず知らずの俺たちを助けてくれたミャアならやりそうだ。
「そうか。納得した。フォルテ、最初に飛び出したのはちょっといただけないが、ミャアの姿を写した精霊を守ってくれたのはありがとうな」
俺は手をゆっくりと開きフォルテに礼を言った。
フォルテはしばし羽繕いをしていたが、俺の顔を見て「当然のことだ」とひさびさにしゃべった。
そしてばさりと大きく羽ばたいて俺の頭に乗ると長い尾羽を垂らして座り込む。
目の前に長い尾羽がぶらぶらしているとうっとおしいが、今回は特別に我慢する。
「結局お前はご馳走を食って満足したんだな。今後こそこそ俺の髪を食うのをやめろ」
勇者がまだ若葉に説教をかましていた。
「ガウ」『ならば堂々と食するとしよう』
「教主の問答かよ! 堂々としても駄目だ!」
「グルル……」『よしわかった。それならば取り引きをしようではないか。僕はアルフレッドの髪をたまに食べる。アルフレッドは僕の力を借りる。公正な取り引きだ』
「いいかよく聞け。本人が望んでないことを取引材料には出来ない」
『ぬ? ドラゴンの助成を望まぬ者はいないだろう』
「俺は望まない」
『なんと!』
あれだな、本人たちは真剣なんだろうけど、出来の悪い喜劇の舞台を見ているような感じがするな。
「若葉。お前は段取りを間違えている。アルフと一緒にいたいなら友になれ。何かが欲しいならそのたびに頼め。それが人間のやり方だ」
「師匠、俺はこんなのを友にする気はないぞ」
「ガル?」『友?……しばし待て、貯蔵庫にアクセスする。……! よし、僕はアルフレッドの友になるぞ』
「は? いらん」
『友とは気軽に呼び合う仲というではないか。ならば僕はこれから貴様をダスターに倣ってアルフと呼ぼう』
「話を聞け!」
よしよし、俺はフォルテだけで手一杯だ。
若葉の制御は勇者たるお前の役目だからな。
がんばれよ。
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