勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

534 そして勇者と若葉の約束はより固く結ばれる

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「今のは……」

 大巫女様がハッと我に返って俺の顔を見る。
 ……なんで俺の顔を見るんだ?
 フォルテ……後で覚えてろよ。

「こ、これは俺の使役獣だ。少々変わっているが、精霊王などではないぞ?」
「……そうで、あるか」

 俺とフォルテをじぃっと見た後、大巫女様はにこっと笑った。
 笑い顔はまだ若い少女のようだ。

「お名前をお教えいただけるであろうか?」
「こいつか? フォルテと言う」
「そうか。……フォルテ殿。なにやら窮屈な思いをさせてしもうたようで申し訳なかった。今後は好きなように振る舞うがいい。私から民には騒がないように申し渡しておくゆえ」
「ピ?」

 フォルテは普通の鳥のようにかわいらしく小首をかしげてみせた。
 お前、今更無駄だからな。
 だが聖地を降りたら普通の鳥のように振る舞ってくれよ。
 いくら大巫女様が言ってくれたとしても不安しかないぞ。

「ふふっ。今日は思いもかけぬものが見れたが、それはそうと、どうぞ大祖母様を詣っていただけるか?」
「あ、ああ」

 ふとメルリルを見ると、あの大騒動にも動じずに花々の上にずっと視線を向けていた。
 そこに、いるのだろうか?
 いや、ミャアはもう死んだのだ。
 もしいるとしても、それはミャアではないのだろう。

「偉大なる巫女殿よ、心安らかに。そして優しい少女であったあなたに告げるべきであった礼を今告げよう」

 正式に大連合式の礼をして亡きミャアを悼む。
 勇者たちも、それぞれ思うところはあるのだろうが、おとなしく盟約の民のやり方ではあるが、上位の礼をこの聖地に向けて行っていた。
 青く晴れた空に鳥が飛ぶ。
 もちろんそれはフォルテではない。
 淡い緑と茶色の混ざった、何の変哲もない小さな小鳥だ。
 
 ──……ツィー、チチチチ……。

「風舞う翼は我らと共に在る。我ら部族の守護たる風は鳥の翼に乗って高く昇るのだ」

 大巫女様がポツリと言った。
 部族の祈りだろうか? それは不思議と心に残る言葉だった。

 帰りは特に何もなく、順調に下った。
 戻りで印象に残ることと言えば、聖女が足を滑らせそうになって、ますます山岳馬リャマたちが過保護になったことぐらいだろう。

「ありがとうございました。とても稀有なものを拝見いたしました」
「こちらこそ、とても素晴らしい経験をさせていただいた。心より礼を言おう」

 礼を告げる俺に礼を返す大巫女様。
 その背後には何やらずっと興奮している戦士殿がいるが、まぁ気にすることはないだろう。
 ……大巫女様、必ず民に釘を刺しておいてくださいよ?

 一抹の不安を抱えながらも、この日はまた精霊王を迎えるための宿とやらに泊まることとなった。
 俺が用事が済んだので早々に戻りたいと言うと、今まで俺たちを世話してくれていた少女たちがこの世の終わりのような悲しげな顔をしたのである。
 なかには本当に泣き出した娘もいて、隣の仲間に慰められていた。

 何事かと大巫女様に尋ねると、どうやら風舞う翼の街は聖地への入り口という重要な場所であるため、他国人はもとより、ほかの部族の者も気軽に訪れることがなく、この宿に宿泊する者もほとんどいないようだ。
 つまり少女たちは久々にやりがいのある仕事が出来て嬉しかったということらしい。

「せめてあと一晩」

 という懇願に負ける形で、俺たちは一泊したのである。
 そして、案の定フォルテは大人気だった。
 大巫女様のお達しであるので、もう小さくなることなく、フォルテは堂々といつもの姿で俺の頭でふんぞり返った。
 すると部族の若い娘たちが花の蜜やら花冠やらをフォルテと、ついでに俺たちにひっきりなしに持って来るようになってしまったのだ。
 大巫女様によるとそれでもだいぶ自重しているらしい。

「大丈夫だ。部族の者にはよく言って聞かせてあるから」

 少女めいた笑顔ではなく、年経た老女のような笑顔でそう言った大巫女様の表情が忘れられない。
 絶対何か部族のみんなに言っただろ!

「クッ、クルゥ、ピピピ……」

 フォルテが俺の頭の上で勝利のさえずりをしている。
 なんに対して勝利したのかわからないがな。

 さて、その夜。
 全員集まって、青銀の祈りの野で起きたことを確認することにした。
 まずはなんと言っても若葉だ。

「貴様。約束が守れないなら今すぐ家に戻るか俺に斬られるかどちらかを選べ」

 勇者が背中を探ってやっと捕まえた若葉に凄む。

『僕は約束破ってない。人間食べない!』
「まぁ人間を襲った訳じゃないから約束を破ったとは言えないな」

 俺もさすがにとりなしてやる。
 だが、あのとき何か聖地の大切な存在を食べようとしていたのは間違いない。
 もしかすると、ミャアだった存在かもしれないのだ。

「だが若葉。人が大事にしているものを断りもなしに奪おうとしては駄目だ」
「ギャウッ!」『ニンゲンは文句が多い!』
「言っておくが俺たちにお前は必要ないんだぞ? お前が勝手について来てるんだ。わかってるのか? 自分の立場を」

 俺が言い聞かせても理解しようとしない若葉に、今度は勇者が脅しをかける。
 勇者はもともと若葉を帰したいので容赦がない。

『ぐうぅ、わかった。それも約束してやろう。その代わり、僕のいたいだけいるし、オマエの魔力ももらうぞ』
「貴様、まだ自分の立場がわかってないようだな」
「まてアルフ。ここで喧嘩は駄目だ。若葉とお前がその気になればこの街ぐらい吹き飛ぶ」
「師匠、いくらなんでも俺はそんなことしないぞ!」
『街ってナニ?』
「人が集まって住んでいる場所だ。お前達も家があるだろ」
『なるほど、ニンゲンは集まって社会を作って暮らす生き物だから。そういう単位の話だな』

 何か難しいことを言い出したが、無視する。
 とりあえず危険なことをしないと約束してくれればそれでいいのだ。

「まぁ若葉の言い分はともかくとして。客観的にあの場で起こったことを説明出来るか? メルリル」
「あ、はい。ええっと、私に見えていたものを説明すればいい?」
「頼む。俺たちには魔力は見えても精霊としては認識出来ない。詳しい状況を知らないままでいると次に同じことが起こったときに対処出来ない」
「わかった」

 そしてメルリルは、あのときに青銀の祈りの野で起こった出来事を話し始めたのだった。
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