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第六章 その祈り、届かなくとも……
508 不思議なことは連れ立って来るものだ
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※資料の地図に作者のお手製地図も加えました。
恥ずかしいですが、興味がある方は覗いてみてください。
==============================
次の日は一日使って買い出しをした。
大連合で取り引きされている食料は西部地域とも東部地域とも違っているが、実は保存食が最も発展しているのが大連合だと言われている。
そのため、買い込む食料に迷うことはあっても足りないということはなかった。
「干した野菜?」
「水で戻せる種類らしい」
「あ、こっちは知ってる。干しナツメ。美味しかった!」
「おお、種類がいっぱいあるな」
「甘い匂いが、します……」
メルリルと勇者と聖女が干しナツメに食いついた。
以前珍しくて買ったが、あのときも好評だったもんな。
「まぁ甘味もあったほうがいいだろう。すまないがこの革袋いっぱいでいくらだ?」
「ふふっ、そこのキラキラした目をしている坊やに免じて安くしておくわね」
「助かる」
「師匠、もうちょっと買えるだろ?」
「駄目だ。甘味は疲れたときに一つ。これ以上は保存出来ない」
「あら、意外と長持ちしますよ」
勇者の要求をはねのけているところに女店主がよけいなことを言う。
「長持ちするなら多めに買ってもいいだろ?」
「……仕方ないな」
「これからどちらへ?」
「オアシスの噂を聞いたので、立ち寄ろうかと思って」
「まぁ! それじゃあ本当に無駄になってしまうかもしれないわね」
「どういうことだ?」
女店主は含みのある笑みを見せると、ささやくような声で告げた。
「オアシスにはナツメの木がいっぱい植えられていて、誰でも実を取って食べていいんですよ。だから現地では干しナツメももっと安い値段で買えるんです」
「なるほどな。まぁ情報の分多めに買うさ」
「まぁまいど!」
「それで、という訳でもないんだが聞きたいことがある。ちょっと前にこっちに立ち寄ったときに聖地に滝が出来たという話を聞いたんだが、どうなっているかわかるか?」
俺がそう言うと、女店主は豪快な笑い声を上げた。
「お客さんが聞いた情報、古すぎるよ。平地の人だからきっと年寄りの噂話を伝え聞いたんじゃないかい? 聖地に精霊王さまが舞い降りて、争いを諌めて豊かな水をお与えくださったのは私のお祖父ちゃんの若い頃だね。それ以来三年に一度の大祭礼には、滝の下で宴を催して精霊王さまを称える儀式を執り行うようになったってお祖父ちゃんの口癖だったわ。大祭礼は丁度今年だから、そろそろオアシスにも各部族が集まっているんじゃないかしら? あ、でも、聖地は余所者はもちろん、祝福のない者は原則立ち入り禁止だからね」
俺は一瞬、彼女が何を言っているのかわからなかった。
お祖父ちゃんの時代? 精霊王? ……駄目だ頭がどうかなりそうだ。
「あ、ありがとう」
ようやく礼を口にして、代金を払い干しナツメを受け取る。
食料用の荷にその包みをしまいながら、どういうことかと考え続けた。
「ダスター……」
「メルリル、聞いていたか?」
「ええ。どういうこと?」
「さっぱりわからん」
ミャアに精霊王と呼ばれていたフォルテを見る。
俺の肩で我関せずといった風に頭を翼に突っ込んで寝ていた。
こいつめ。
しかし、あの女店主の祖父の若い頃ということは、少なくとも七十年は昔ということになる。
あの女店主が見た目よりも若いとしても、せいぜい五十年がいいところだろう。
いや、いくらなんでも三十より若くは見えない。
と言うことは最低でも六十年の昔の話ということだ。
もしかしたら精霊界に迷い込んだせいで何かが歪んでしまったのかもしれない。
精霊界は時間の経過がない世界ということだが、現世は当然連続した時間が続いている。
時間が多く経過するならわかるが、昔に迷い込むということが有り得るのか?
「駄目だ! 俺の頭では考えても結論は出ない。こういうときに学者先生がいてくれたらな。……いや、あの人がいたらもう一度精霊界へ入るとか言い出すに違いない」
俺は想像してブルッと体が震えるのを感じた。
冗談ではない。
もう二度とゴメンだ。
そりゃあきれいな場所だったが、俺はこっちの現世のほうがいい。
「ダスター……」
おっと、メルリルが不安そうにしている。
俺が動揺しては駄目だな。
「噂で判断することは出来ないしな。とりあえず聖地近くまで行ってみよう。オアシスは聖地の裾野に広がっているということだから。とりあえずオアシスを目指すということは変えなくていいだろう」
「うん」
俺たちがそんな話を交わしていたときだった。
「あっ!」
子どもの甲高い声が響いたと思ったら、小さな体が駆け寄って来るのが見える。
一瞬、聖騎士が緊張した。
さりげなくナイフに手をかけている。
相手が子どもでも油断しないのはさすがだ。
「おじちゃんたち! アアォエイ!」
「急に走っては駄目! またさらわれてしまうわよ!」
その後をまだ若い女性が追いかけて来た。
見覚えがあるような……。
「あ、ダスター、あの人たち、ほら、幽霊さんの依頼の」
メルリルがベルトに手を触れながらそう言った。
「ああ、あの館に囚われていた!」
メルリルのベルトの隠しには、以前少女の幽霊から依頼の報酬としてもらったペンダントが入っている。
つけるつけないで揉めた挙げ句、そこに落ち着いたのだ。
それにしても、今日は思いがけないことばかり起きる日だな。
恥ずかしいですが、興味がある方は覗いてみてください。
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次の日は一日使って買い出しをした。
大連合で取り引きされている食料は西部地域とも東部地域とも違っているが、実は保存食が最も発展しているのが大連合だと言われている。
そのため、買い込む食料に迷うことはあっても足りないということはなかった。
「干した野菜?」
「水で戻せる種類らしい」
「あ、こっちは知ってる。干しナツメ。美味しかった!」
「おお、種類がいっぱいあるな」
「甘い匂いが、します……」
メルリルと勇者と聖女が干しナツメに食いついた。
以前珍しくて買ったが、あのときも好評だったもんな。
「まぁ甘味もあったほうがいいだろう。すまないがこの革袋いっぱいでいくらだ?」
「ふふっ、そこのキラキラした目をしている坊やに免じて安くしておくわね」
「助かる」
「師匠、もうちょっと買えるだろ?」
「駄目だ。甘味は疲れたときに一つ。これ以上は保存出来ない」
「あら、意外と長持ちしますよ」
勇者の要求をはねのけているところに女店主がよけいなことを言う。
「長持ちするなら多めに買ってもいいだろ?」
「……仕方ないな」
「これからどちらへ?」
「オアシスの噂を聞いたので、立ち寄ろうかと思って」
「まぁ! それじゃあ本当に無駄になってしまうかもしれないわね」
「どういうことだ?」
女店主は含みのある笑みを見せると、ささやくような声で告げた。
「オアシスにはナツメの木がいっぱい植えられていて、誰でも実を取って食べていいんですよ。だから現地では干しナツメももっと安い値段で買えるんです」
「なるほどな。まぁ情報の分多めに買うさ」
「まぁまいど!」
「それで、という訳でもないんだが聞きたいことがある。ちょっと前にこっちに立ち寄ったときに聖地に滝が出来たという話を聞いたんだが、どうなっているかわかるか?」
俺がそう言うと、女店主は豪快な笑い声を上げた。
「お客さんが聞いた情報、古すぎるよ。平地の人だからきっと年寄りの噂話を伝え聞いたんじゃないかい? 聖地に精霊王さまが舞い降りて、争いを諌めて豊かな水をお与えくださったのは私のお祖父ちゃんの若い頃だね。それ以来三年に一度の大祭礼には、滝の下で宴を催して精霊王さまを称える儀式を執り行うようになったってお祖父ちゃんの口癖だったわ。大祭礼は丁度今年だから、そろそろオアシスにも各部族が集まっているんじゃないかしら? あ、でも、聖地は余所者はもちろん、祝福のない者は原則立ち入り禁止だからね」
俺は一瞬、彼女が何を言っているのかわからなかった。
お祖父ちゃんの時代? 精霊王? ……駄目だ頭がどうかなりそうだ。
「あ、ありがとう」
ようやく礼を口にして、代金を払い干しナツメを受け取る。
食料用の荷にその包みをしまいながら、どういうことかと考え続けた。
「ダスター……」
「メルリル、聞いていたか?」
「ええ。どういうこと?」
「さっぱりわからん」
ミャアに精霊王と呼ばれていたフォルテを見る。
俺の肩で我関せずといった風に頭を翼に突っ込んで寝ていた。
こいつめ。
しかし、あの女店主の祖父の若い頃ということは、少なくとも七十年は昔ということになる。
あの女店主が見た目よりも若いとしても、せいぜい五十年がいいところだろう。
いや、いくらなんでも三十より若くは見えない。
と言うことは最低でも六十年の昔の話ということだ。
もしかしたら精霊界に迷い込んだせいで何かが歪んでしまったのかもしれない。
精霊界は時間の経過がない世界ということだが、現世は当然連続した時間が続いている。
時間が多く経過するならわかるが、昔に迷い込むということが有り得るのか?
「駄目だ! 俺の頭では考えても結論は出ない。こういうときに学者先生がいてくれたらな。……いや、あの人がいたらもう一度精霊界へ入るとか言い出すに違いない」
俺は想像してブルッと体が震えるのを感じた。
冗談ではない。
もう二度とゴメンだ。
そりゃあきれいな場所だったが、俺はこっちの現世のほうがいい。
「ダスター……」
おっと、メルリルが不安そうにしている。
俺が動揺しては駄目だな。
「噂で判断することは出来ないしな。とりあえず聖地近くまで行ってみよう。オアシスは聖地の裾野に広がっているということだから。とりあえずオアシスを目指すということは変えなくていいだろう」
「うん」
俺たちがそんな話を交わしていたときだった。
「あっ!」
子どもの甲高い声が響いたと思ったら、小さな体が駆け寄って来るのが見える。
一瞬、聖騎士が緊張した。
さりげなくナイフに手をかけている。
相手が子どもでも油断しないのはさすがだ。
「おじちゃんたち! アアォエイ!」
「急に走っては駄目! またさらわれてしまうわよ!」
その後をまだ若い女性が追いかけて来た。
見覚えがあるような……。
「あ、ダスター、あの人たち、ほら、幽霊さんの依頼の」
メルリルがベルトに手を触れながらそう言った。
「ああ、あの館に囚われていた!」
メルリルのベルトの隠しには、以前少女の幽霊から依頼の報酬としてもらったペンダントが入っている。
つけるつけないで揉めた挙げ句、そこに落ち着いたのだ。
それにしても、今日は思いがけないことばかり起きる日だな。
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