勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

506 バザールと見知らぬ川

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 大連合の市場バザールは、俺たちの街と違って、なんというかとりとめがなかった。
 巨大な天幕ゲルが立ち並び、一種異様な光景だ。
 驚いたのはこの市場バザールの中心に川が流れていたことだろう。
 人工の水路ではなく、見た感じ自然な川のようだった。
 川と岸とその上の土地の間に段差が少なく、溢れ出たら大きな水害になりそうだ。

 山岳馬リャマによく似た荒野馬ラクダを引いていた男に尋ねたところ、カラカラと笑いながら言った。

「この川は干上がることはあっても、溢れることはありゃあせんよ。まぁ溢れたら場所を移すだけの話さ」

 さすがは大連合の民というところか。
 そしてこの川はどうやら聖地が源流のようだが、下流のほうでは身分け山から流れ出ている大川に合流しているらしい。

「この川はいつごろからあるんだ?」
「さあなぁ。わしが生まれた頃にはもうあったような気がするな」
「……そうか」

 何かおかしいようなモヤモヤした気持ちになる。
 俺は今まで長年冒険者として過ごして来たが、大連合の聖地から大川に流れ込む川があるという話を聞いたことがなかった。
 これが大連合の奥深くの話ならまだわかるが、市場バザールは、唯一大連合の民が他国の人間と取引を行う場所だ。
 話が伝わらないはずがないのだ。

「師匠、どうした?」
「いや、俺も年かなと思って」
「師匠、考えすぎじゃないか? 俺と師匠の体力だと師匠のほうが上だと思うんだが」
「いや、俺は体力の配分をちゃんと考えているから長く歩けるんであって、お前は余計なところに体力を使うから早くバテるんだぞ? まぁしばらく旅が続けばそのうちうまく体力を持たせることが出来るようになるさ」
「早くそうなるといいな。あまりミュリアに面倒をかけたくないし」
「め、面倒なんかじゃ、ありませんよ?」

 長い間歩くときにどうしても聖女の疲労を抑える魔法に頼ってしまいがちになる。
 素の体力をつけるためにあまり頼らないようにしたいという気持ちもあるんだが、せっかく持っている魔法を使わないのも意味がないという気もするので一日の後半だけ使ってもらっているのだ。

 どうも聖女は頼られるのがうれしいらしく、魔法を使うときは活き活きしている。
 人を助けるのが心から好きという聖女は貴重な存在だと思う。
 魔法を使うと自分の体内の気力のようなものを消費する感じがするので、あまり他人のためには使いたくないという者もいるからな。

 それはともかくとして、人がたくさん出入りしている天幕ゲルの一つを覗いてみた。

「おおっ!」
「これは、すごいな」

 巨大な天幕ゲルの中身はなんと小さな街だった。
 本来天幕ゲルというのはいわゆるテントのことで、大連合では家として使われているものだ。
 頑丈だが軽い骨組みと、その上にかけるカバーから出来ていて、バラして簡単に持ち運ぶことが出来るので、定住しない大連合の民にとって便利なのだろう。

 だが、この天幕ゲルは規模が違った。
 大きさは小さな砦ほどはあるのではないだろうか?
 なかにはいくつもの柱とそれに沿った枠組みが作られていて、地上だけでなく、二階もあった。
 天幕ゲルの入り口からまっすぐ進んだところに出口が見えているが、その間がまるで大通りのようになっていて、道の両端には屋台のような店が並んでいる。
 よく見ると、店と店の間に細い通路があり、奥に続いているようだった。

 天井にはどうやって吊るしているのか、ランプが並んでいて、天幕ゲル特有の閉じられた暗さを補っているようだ。

「いい匂いがするんだけど」

 モンクがそわそわと鼻をひくひくさせながら落ち着かない。
 天幕ゲルのなかには甘いような辛いような匂いが溢れ、空腹の俺たちを誘うようだった。

「まず何か食べるか」
「それがいいよ。今朝かじった燻製肉、変な臭いがしてたし、食欲が湧かなかったんだ」

 ああそれで今朝、モンクはあまり食が進まなかったんだな。
 虫やヘビが怖いし、モンクは意外とデリケートなところがある。
 むちゃくちゃ強いが、女の子なんだよな。
 気をつけてやるべきだろう。

 今まで強い女と言えばがさつな冒険者ばかりだった俺は、少し反省した。
 メルリルや聖女には気を配っていたのだが、どうもモンクにはそういう配慮が足りなかったようだ。

「じゃあ、何を食べるかはテスタに選んでもらおう。何がいい?」
「やった! 私は当然肉! あとピリッとした味のものが食べたい!」

 うーん、繊細さが感じられない。
 いやいや、好みの問題なんだから、そこで判断するべきではないだろう。

「大連合にはほかの国にはない薬味スパイスがあることで知られているからな。好みの匂いを追ってみたらどうだ?」
「私は猟犬じゃないからね?」

 む、マズい。やはり扱いが雑になっているようだ。
 どうしてなんだろうな?
 
 なんだかんだと言いながらも、モンクは自分の鼻で好みの店を見つけ出した。
 そこは店頭にいくつもの木のベンチを置いてそこで食べる店のようだ。

「ダスター、ここには宿があるのかな?」

 メルリルはすっかり市場バザールの喧騒に疲れ果てたようで、薬味スパイスで真っ黒になった鳥の丸焼きを切り取って口に運びながらため息をつくように聞いて来た。

「あっ、ピリッとするから驚いたけど、見た目より美味しい」

 そして口にした鳥の意外なうまさに驚く。

「だろ? ここの薬味スパイスの匂いを嗅いでピンと来たんだ」

 と、隣でモンクが自慢している。
 猟犬として立派にやっていけそうだという感想は口にしない。

「さっき店の人に聞いたんだが、別の宿専用の天幕ゲルがあるらしい」
「ああ、外にあるんだ。なんだか変な感じ」

 ふふっとメルリルが笑う。
 今いる天幕ゲルがあまりに巨大で街のようになっているので、つい、このなかに宿もあるように思ってしまうが、この天幕ゲル市場バザール専用の天幕ゲルらしい。

 外から見れば大中小さまざまな大きさの天幕ゲルが不思議な形の岩のようにただ並んでいる光景だ。
 ほかの国では考えられない街の構造だろう。
 いや、そもそも街ですらないんだったな。
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