勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第五章 破滅を招くもの

404 海王:利己的な商人として

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 列車の予知を頑張ったウルスだが、列車が来るということは予知出来ても、いつ来るかということを予知するのは難しいと弱音を吐いていた。

「予知というのは切り取られた場面だ。時間というのは前後が繋がって初めて認識出来る。予知だけでその場面がいつのものなのかを理解するのは難しい」
「なるほど」

 俺は魔力を使った予知というものは自分の現在を起点としてどのくらい遠い場面かということで時間を測れると思ったのだが、ウルスによると予知とはそういうものではないらしい。
 予知がいずれ起こることであることはわかるものの、それは前後の時間からは切り離された独立したものとして認識される。
 術者からの距離感を測ることが出来ないのだ。

「しかしそれは問題だぞ。いつか起こることだとわかってはいてもその場になるまでタイミングがわからないなら結局のところ知っている有利が消えてしまう」

 俺の言葉をウルスは呆れたように鼻で笑う。

「これだから戦いやら体を使うことにしか興味がない連中はバカだと言うんだ。予知が一番活きるのは物価の変動を知ることだよ。例えばどっかの商会の船が沈んだことを予知で知れば、その前に危ない商会から手を引くことが出来る。金持ち連中の間で流行る服装を知っていればその生地やデザイナーに投資をすればいい。俺の経験から言って予知は基本的に一年以内のことである場合が多い。すぐに動き出せばそれなりに利益を得られるという訳だ」
「うっわ、せこいな」
「せこいとはなんだ! 金儲けは正しい人類の在り方だ」
「なるほどな。つまりお前の予知は商売に使えそうなものを選び続けて来たんで、自分の危険に対して鈍感になってしまったということか」
「商人として正しい使い方をしたにすぎん」
「いや、それで収容所に放り込まれて斬り刻まれて怪物になるところだったんだぞ? せっかくの予知で危険をさぐらないとか、宝の持ち腐れにすぎない」
「けっ、脳筋が!」
「欲ボケ野郎!」

 俺とウルスがそうやって睨み合っている間に渦潮行きの列車が到着した。
 列車が到着したことを俺に知らせたメルリルが、延々悪口の言い合いをしている俺たちを見て、笑い出しそうな呆れたような奇妙な顔をしていたことはまぁ置いておいて。

「お前、何か身近に時間がわかるものを置くようにするべきだろ。お前の予知はお前自身を中心とした場面を見るものらしいから、常に時間がわかるものを身につけるとかすれば、多少は準備が出来るだろ?」
「時間……時間か」

 乗り換えた列車の係員が懐から取り出したものをウルスは目で追った。

「時計かな……バカ高いが、商人には必要だし。弟にはくれてやったんだよな」
「時計?」
「文字盤に数字を描いて、時間通り正確に動く針によって、現在の時間がわかるという時間の計測具だ」
「もっとけよ。お前に必要だろ」
「時計が必要なのは時間を定めて約束を交わす場合だ。普段は必要ない。だから俺は自分は時計を持たなかった」
「お前の予知にこそ必要だろ。買っとけ」
「あれは小型の自動馬車一台程度の値段がするんだぞ? 金持ちが権威付けに持っているぐらいだ」
「金はあるんじゃなかったのか? 自分の力を腐らせるよりはずっといいだろうが!」
「うぬぬ……」

 にらみ合う俺たちを他所に、メリルリとフォルテはまた窓際に席を取った。
 この列車はさっきまでの常用線の列車と違って、ちゃんと窓も入り口の扉もある。

「さっきの列車は遅かったけど、やっぱり列車は早いね。馬がトップスピードでずっと走っているような感じ。平野人って本当に凄い」

 メルリルの言葉に俺はうなずく。
 
「まぁ凄いが、別に平野人だけが凄い訳じゃないぞ。通信という技術は大地人のものだったらしいし」
「あ、それだ。さっき説明するとか言ってごまかしやがって、なんでお前が通信を知ってるんだよ。さっさと吐け!」

 ウルスが通信という言葉に食いついて来た。

「ちゃんと話すって言っただろ。お前がどっかに連絡を取ってたときにッエッチも通信で家に連絡してたんだよ。手紙よりも確実で早いって言って」
「なんだって? 金はどうした! 短時間なら一般の人間にも使える程度の値段とは言え、安くはないんだぞ?」
「チッ!」

 さすが商人、金にうるさいな。

「ッエッチが身につけていた装身具を売ったんだ」
「嘘だ。あいつの身なりはそう高級そうじゃなかったぞ」
「お前の目が節穴だったんだよ」
「なんだと!」

 まぁ実際はそう見えるように偽装していたんだろうな。
 服に縫い付けて隠していた宝石や普通のボタンに見せかけていた宝石とかを考えると、ッエッチの家族は金持ちとは見えないようにして彼を厄介事に巻き込まれないようにしていたと考えていいだろう。
 それでも何かあったときのために宝石とかは準備してあったんだ。

「まぁいい。先に家族に連絡しておいてくれたなら、南海の駐留大使にも話が通りやすいだろう。南海の人間はひどく用心深いから裏付けを取るまで子どもたちを引き受けてくれない可能性もある」
「おいおい、お前見積もりが甘くないか? そんなに手間取ってたらお前の問題に子どもたちが巻き込まれてもおかしくないぞ」
「うっさいな。俺だって予想外のことが続いて予定が狂いまくりなんだよ。本当なら他人の世話なんかするつもりはなかったんだ。だが、あんたには恩があるし、あの子どもたちだって可哀想だとは思う。だから譲歩しているんだぞ」

 ウルスは悪人じゃないんだろうが、間違いなく利己的な人間ではあるんだろうな。
 とは言えそれを責めるのも間違っているとは思う。
 何しろウルスはあくまでも被害者の一人であって、ほかの被害者に対してなんらかの義務がある訳じゃない。
 この点では俺のほうがわがままを言っているという自覚はある。
 しかし現時点では、ウルスに頼らないとこの国では動きが取れない。
 命を助けた恩を振りかざしてでも少々不利益を被ってもらって、少なくとも子どもたちに安心出来る場所を提供してやりたいと思うのだ。
 もちろんあの子たちにとって、真に安心出来る場所は親元であって、そこには帰れないのだとしても。

「そうだな。頼むよ」

 俺がそう口にすると、ウルスはギョッとしたように身を引いた。

「やめろ。そういう風に下手に出られると無理難題を押し付けられそうな気がする」
「まぁある意味無理難題ではあるからな」

 俺がそう言うと、ウルスは俺たちの反対側の座席に深く腰を下ろして天を仰いだ。

「くそが。高圧的に命令してりゃあ俺だって反発しようもあるのによ。……さっき見えたんだが、俺の商会の周辺に怪しい連中がうろうろしているっぽい。だから最初は他人には教えていない俺の生家のほうへ向かおうと思う」
「お、予知出来たのか」
「ああ。連中の船も見えた。やつらが我が物顔でのさばっていられるのも今のうちだけだと思い知らせてやる」

 そうして俺たちは渦潮の駅に到着したのだった。
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