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第五章 破滅を招くもの
371 神の企み
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ミシミシミシ……バキッ……。
壁や床から硬いものが引き裂かれるような音が連続して響く。
物音が多い方へと走っていた俺たちは、やっと人の姿を見つけた。
我を失って走り回っていたり、座り込んだりしている。
このまま先へ行くと確実に発見されるが、このまま隠れていても事態が好転するとは思えない。
「行くぞ」
「おう!」
俺はこそこそせずに人の間を堂々と突っ切ることにした。
「実験班は何をやってたんだ! 隔離障壁はどうした!」
「精神誘導が過剰に作用したようです。より強力な個体を作れとの要求があったので」
「破壊するのはこの研究所ではなくてドラゴンだ! 愚か者めが! 何をしたんだ?」
「なかなか成果が出せなかったので思い切った実験に手を出したのです。融合深度を上げて成長速度を加速しました」
それなりに立場がありそうな人間が三人ほど、さまざまな機械が並ぶ部屋に残っていた。
機械の間にガラス製らしい大きな窓があり、そこに異形の魔物、いやおそらくは合成魔獣らしき姿がちらりと見える。
ミシリミシリと周囲から響く破壊の音が近づいて来た。
「ヤバイ!」
俺と勇者は危険を感じて飛び退いた。
バリバリバリッ! と、まるで雷が落ちたような音と共に、壁を引き裂いて何かが姿を現した。
「ぎゃああああ!」
「なぜだ! ここには障壁がっ……」
部屋のなかにいた人間がやられたようだ。
「これは、植物の根か?」
壁を引き裂き、天井を這い、のたうち回るヘビのようにも見えるそれは、幾重にも分かれた植物の根だった。
あちこちで壁や天井が崩壊されたらしく、悲鳴が上がっている。
「く、くそっ、緊急用の致死毒が効果を発揮しない。これは、完全融合か? ハハハッ、やっと成功したと思えば、制御が出来ないとは!」
一人生き残ったらしい男がなにやら機械を操作していたが、やがて乾いた笑いを漏らしながら諦めてそこから離れようとしていた。
「よう、あんた事情に詳しそうだな」
俺はそいつの首根っこをがっちり掴んで伸し掛かった。
その男はヒィッ! と、情けない悲鳴を上げると、手足をばたつかせる。
「何をする離せ! ここはもう持たん! 緊急脱出の警報が聞こえないのか?」
言われて耳を澄ませると確かにうるさく何かをがなりたてている人間味のない声が聞こえた。
『生体汚染事故発生、これより当研究所は非常事態モードに移行します。所員は直ちに脱出を開始してください。リミットカウントは六百』
何か言ってはいるが、言っていることの半分ぐらいがわからない。
とりあえず逃げろってことだな。
「逃げる前に話を聞かせろ。お前たちはここで何の研究をしていたんだ?」
「はぁ?」
問われて、初めて気づいたようにその男は俺と勇者を見た。
「なんだ、貴様たちは! どこから入った!」
途端に高圧的に怒鳴り始める。
いや、今偉そうに出来る状態じゃないだろうに。
「聞いてるのはこっちだ。いいか、俺たちは非常に腹が立っている。急いで答えないと、指を一本ずつ切り落とすぐらい抵抗なく出来るぞ。というかむしろ切り刻んでやりたい気分だ」
俺の言葉に合わせるように勇者が美しいナイフを取り出した。
ドラゴンの鱗で作ったナイフだ。
それ、あまり脅し用に向いてないと思うぞ。
だが、捕まえた男にとっては、十分にそれは恐ろしいものだったらしい。
「わ、わかった。なんでも話す!」
「最初の質問に答えろ。ここで何の研究をしていたんだ」
「ここで行っている研究は、魔力と呼ばれる力を私たち人類のために使用出来るようにするためのものだ」
「合成魔獣がか?」
「っ……」
「とりあえず一本いっとくか?」
勇者がナイフを鞘から抜き放つ。
青銀の美しい輝きがナイフの刃をきらめかせた。
「ま、待て! 言う、言うからやめろ! 私たちは我らが神、国護りの天の主を本物の神にするための研究をしているのだ。ほ、誇り高き研究だ!」
「ごたくはいいから内容を話せ!」
「ひっ、……我らが神は強大であり長命ではあれど不滅ではない。だが、この世には不滅の存在の実例がある。そ、それが魔王だ」
「どっからそんな話を引っ張り出したか知らんが、まぁいい続けろ」
「魔王が不滅の存在に至った理由を探っていくうちに判明したのが、魔王ただ一人が成し遂げたドラゴン殺しだ。つまりドラゴンを殺せばその者は不滅の存在になれるということだ」
「お前らはお前らが魔人と呼ぶ魔力を持った人間を魔物と混ぜ合わせてドラゴンと戦わせていた。そうだな?」
「そ、そうだ」
「それはおかしくないか? お前たちの理屈だと魔人から作った合成魔獣がドラゴンを倒したら、その魔人が魔王になるだけだ」
「そ、それでいいのだ。我らが神は食らった相手の力を取り込む。魔王となった合成魔獣を食らえば、我らが神は完璧になり、我ら人類は真実の神の元、永遠の繁栄を手に入れるのだ!」
こいつの話が本当だとすると、東方の神は魔物か何かということになる。
いや、もしかすると魔物化した人間か?
そんなことを考えているときに、建物全体が再び大きく揺さぶられた。
バキバキバキッ! と、嫌な音が聞こえる。
足場が崩れ、激しい力に振り回されるように体が投げ出された。
「お、愚か者共め!」
同じように投げ出された男が倒れた勇者に飛びかかろうとした。
俺よりも若い勇者のほうがくみしやすしと見たのだろう。
まぁその判断は間違っているが。
しかし、その間違いを実感する前に一人立ち上がっていた男の体を巨大な根が貫いた。
「ガアアアアア!」
たちまち男の体が干からびる。
「ちっ!」
「えぐいな!」
俺と勇者は転がってその場を離れた。
「師匠、あの子たちが、閉じ込められていた人たちが心配だ」
「そうだな。どう考えてもここの連中があの子たちを連れて逃げるとは思えないからな」
俺たちは急いでその場を離れると、元のハシゴのある通路に戻ろうとしたが、天井が崩れて戻れない。
「とにかく上に出る階段か何かを探そう」
「わかった」
絶え間なく揺れと巨大な根が襲って来るなか、ジャンプしたり身をかわしたりしながら周囲を探る。
避難をしている所員についていこうと思ったのだが、出遅れたからか、周囲には生きた人間の姿は見当たらなかった。
『ガガガ……所員は、……リミットカウント四百……』
再びあの感情の見えない声が響く。
言っている数字が減っているということはその数字が終わる前に脱出しないと何かが起こるということか?
「くっ、まだ私がいるんだぞ! 誰だ、昇降機を止めた奴は!」
「おっ」
どうやら脱出に遅れた人間がまだいたらしい。
その理由もわかった。
初老のその男は、椅子のようなものに座って移動していたのだ。
「おいあんた、ここ以外に上に上がる道はないのか?」
「誰だ、貴様らは?」
「こんなときに誰だっていいだろ」
「うぬ、あることはあるが、非常用の階段だ。私には使えん」
「連れてってやるから教えろ」
「聞くだけ聞いて置いていくつもりだろう、その手には乗らんぞ」
「疑り深すぎるだろ、そんなことはしない」
「くっ、仕方ない。ならば取引をしよう。私を連れて逃げてくれるなら、一級市民に推薦してやろう。見たところ貴様ら三級市民だろう?」
「なんでもいいから急げ! 命がいらないのか?」
「……こっちだ」
グイイイイインと機械独特の音を立てて椅子のようなものが滑るように動く。
機械に乗っているのは、もしかして足が動かないからとかの理由だろうか?
しばらく行った先の壁に男が手を触れると、そこに階段が姿を現した。
「この建物、仕掛けはすごいが不便すぎないか?」
激しい揺れのなか、俺たちは階段の入り口に飛び込んだ。
壁や床から硬いものが引き裂かれるような音が連続して響く。
物音が多い方へと走っていた俺たちは、やっと人の姿を見つけた。
我を失って走り回っていたり、座り込んだりしている。
このまま先へ行くと確実に発見されるが、このまま隠れていても事態が好転するとは思えない。
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「おう!」
俺はこそこそせずに人の間を堂々と突っ切ることにした。
「実験班は何をやってたんだ! 隔離障壁はどうした!」
「精神誘導が過剰に作用したようです。より強力な個体を作れとの要求があったので」
「破壊するのはこの研究所ではなくてドラゴンだ! 愚か者めが! 何をしたんだ?」
「なかなか成果が出せなかったので思い切った実験に手を出したのです。融合深度を上げて成長速度を加速しました」
それなりに立場がありそうな人間が三人ほど、さまざまな機械が並ぶ部屋に残っていた。
機械の間にガラス製らしい大きな窓があり、そこに異形の魔物、いやおそらくは合成魔獣らしき姿がちらりと見える。
ミシリミシリと周囲から響く破壊の音が近づいて来た。
「ヤバイ!」
俺と勇者は危険を感じて飛び退いた。
バリバリバリッ! と、まるで雷が落ちたような音と共に、壁を引き裂いて何かが姿を現した。
「ぎゃああああ!」
「なぜだ! ここには障壁がっ……」
部屋のなかにいた人間がやられたようだ。
「これは、植物の根か?」
壁を引き裂き、天井を這い、のたうち回るヘビのようにも見えるそれは、幾重にも分かれた植物の根だった。
あちこちで壁や天井が崩壊されたらしく、悲鳴が上がっている。
「く、くそっ、緊急用の致死毒が効果を発揮しない。これは、完全融合か? ハハハッ、やっと成功したと思えば、制御が出来ないとは!」
一人生き残ったらしい男がなにやら機械を操作していたが、やがて乾いた笑いを漏らしながら諦めてそこから離れようとしていた。
「よう、あんた事情に詳しそうだな」
俺はそいつの首根っこをがっちり掴んで伸し掛かった。
その男はヒィッ! と、情けない悲鳴を上げると、手足をばたつかせる。
「何をする離せ! ここはもう持たん! 緊急脱出の警報が聞こえないのか?」
言われて耳を澄ませると確かにうるさく何かをがなりたてている人間味のない声が聞こえた。
『生体汚染事故発生、これより当研究所は非常事態モードに移行します。所員は直ちに脱出を開始してください。リミットカウントは六百』
何か言ってはいるが、言っていることの半分ぐらいがわからない。
とりあえず逃げろってことだな。
「逃げる前に話を聞かせろ。お前たちはここで何の研究をしていたんだ?」
「はぁ?」
問われて、初めて気づいたようにその男は俺と勇者を見た。
「なんだ、貴様たちは! どこから入った!」
途端に高圧的に怒鳴り始める。
いや、今偉そうに出来る状態じゃないだろうに。
「聞いてるのはこっちだ。いいか、俺たちは非常に腹が立っている。急いで答えないと、指を一本ずつ切り落とすぐらい抵抗なく出来るぞ。というかむしろ切り刻んでやりたい気分だ」
俺の言葉に合わせるように勇者が美しいナイフを取り出した。
ドラゴンの鱗で作ったナイフだ。
それ、あまり脅し用に向いてないと思うぞ。
だが、捕まえた男にとっては、十分にそれは恐ろしいものだったらしい。
「わ、わかった。なんでも話す!」
「最初の質問に答えろ。ここで何の研究をしていたんだ」
「ここで行っている研究は、魔力と呼ばれる力を私たち人類のために使用出来るようにするためのものだ」
「合成魔獣がか?」
「っ……」
「とりあえず一本いっとくか?」
勇者がナイフを鞘から抜き放つ。
青銀の美しい輝きがナイフの刃をきらめかせた。
「ま、待て! 言う、言うからやめろ! 私たちは我らが神、国護りの天の主を本物の神にするための研究をしているのだ。ほ、誇り高き研究だ!」
「ごたくはいいから内容を話せ!」
「ひっ、……我らが神は強大であり長命ではあれど不滅ではない。だが、この世には不滅の存在の実例がある。そ、それが魔王だ」
「どっからそんな話を引っ張り出したか知らんが、まぁいい続けろ」
「魔王が不滅の存在に至った理由を探っていくうちに判明したのが、魔王ただ一人が成し遂げたドラゴン殺しだ。つまりドラゴンを殺せばその者は不滅の存在になれるということだ」
「お前らはお前らが魔人と呼ぶ魔力を持った人間を魔物と混ぜ合わせてドラゴンと戦わせていた。そうだな?」
「そ、そうだ」
「それはおかしくないか? お前たちの理屈だと魔人から作った合成魔獣がドラゴンを倒したら、その魔人が魔王になるだけだ」
「そ、それでいいのだ。我らが神は食らった相手の力を取り込む。魔王となった合成魔獣を食らえば、我らが神は完璧になり、我ら人類は真実の神の元、永遠の繁栄を手に入れるのだ!」
こいつの話が本当だとすると、東方の神は魔物か何かということになる。
いや、もしかすると魔物化した人間か?
そんなことを考えているときに、建物全体が再び大きく揺さぶられた。
バキバキバキッ! と、嫌な音が聞こえる。
足場が崩れ、激しい力に振り回されるように体が投げ出された。
「お、愚か者共め!」
同じように投げ出された男が倒れた勇者に飛びかかろうとした。
俺よりも若い勇者のほうがくみしやすしと見たのだろう。
まぁその判断は間違っているが。
しかし、その間違いを実感する前に一人立ち上がっていた男の体を巨大な根が貫いた。
「ガアアアアア!」
たちまち男の体が干からびる。
「ちっ!」
「えぐいな!」
俺と勇者は転がってその場を離れた。
「師匠、あの子たちが、閉じ込められていた人たちが心配だ」
「そうだな。どう考えてもここの連中があの子たちを連れて逃げるとは思えないからな」
俺たちは急いでその場を離れると、元のハシゴのある通路に戻ろうとしたが、天井が崩れて戻れない。
「とにかく上に出る階段か何かを探そう」
「わかった」
絶え間なく揺れと巨大な根が襲って来るなか、ジャンプしたり身をかわしたりしながら周囲を探る。
避難をしている所員についていこうと思ったのだが、出遅れたからか、周囲には生きた人間の姿は見当たらなかった。
『ガガガ……所員は、……リミットカウント四百……』
再びあの感情の見えない声が響く。
言っている数字が減っているということはその数字が終わる前に脱出しないと何かが起こるということか?
「くっ、まだ私がいるんだぞ! 誰だ、昇降機を止めた奴は!」
「おっ」
どうやら脱出に遅れた人間がまだいたらしい。
その理由もわかった。
初老のその男は、椅子のようなものに座って移動していたのだ。
「おいあんた、ここ以外に上に上がる道はないのか?」
「誰だ、貴様らは?」
「こんなときに誰だっていいだろ」
「うぬ、あることはあるが、非常用の階段だ。私には使えん」
「連れてってやるから教えろ」
「聞くだけ聞いて置いていくつもりだろう、その手には乗らんぞ」
「疑り深すぎるだろ、そんなことはしない」
「くっ、仕方ない。ならば取引をしよう。私を連れて逃げてくれるなら、一級市民に推薦してやろう。見たところ貴様ら三級市民だろう?」
「なんでもいいから急げ! 命がいらないのか?」
「……こっちだ」
グイイイイインと機械独特の音を立てて椅子のようなものが滑るように動く。
機械に乗っているのは、もしかして足が動かないからとかの理由だろうか?
しばらく行った先の壁に男が手を触れると、そこに階段が姿を現した。
「この建物、仕掛けはすごいが不便すぎないか?」
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