勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第五章 破滅を招くもの

370 破壊と救いと

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「ここはなんだろう?」
「物置じゃないか?」

 俺たちは自分たちのいる周辺を見回した。
 壁を這うパイプや金属の線のほかに巨大な金属の容器のようなものが何個か転がっている。
 ほかにもガラスの容器らしいものもあるが、大きさと形がいろいろおかしい。
 さすがは東の技術力といったところか。

「一度みんなと連絡を取っておく、何か伝えたいことはあるか?」

 魔力が動かせるようになったので、フォルテとの繋がりを確認する意味でもメルリルたちに連絡を取っておくことにした。
 勇者にも伝言があるかどうか確認する。

「いや、俺は特にない。ああいや、ここの連中は頭がおかしいから絶対にミュリアを近づけるなと言っておいてくれ」
「わかった」

 その点に関しては俺も同意だ。
 メルリルにも近づかないように言っておこう。
 フォルテと俺との繋がりは空間や場所といった障害に阻まれたりはしないが、魔力が動かせないと互いに認識が出来なくなるらしい。
 さっきは焦った。
 それは向こうもそうだったらしく、フォルテのパニックでメルリルが動こうとしたようだった。
 止めてくれたモンクに感謝しかない。

「連絡した。向こうも心配していたようだ」
「あっちだって安全って訳じゃないだろうしな」

 空白地帯の仕掛けもそうだが、この周辺は魔力の流れがおかしなことになっている。
 ドラゴンとは言わないが強力な魔物が突然襲って来てもおかしくない状態だ。
 外だから安全ということは全くないのだ。

「とにかく移動しよう。俺が先行する。音を立てないように着いて来てくれ」
「わかった」

 俺はこのごちゃごちゃした部屋をゆっくりと気配をさぐりながら移動した。
 この部屋にはネズミ一匹いない。
 だからと言って安心は出来ないだろう。
 東の技術なら何か覗き見出来るものが作れるかもしれない。魔力の流れに注意を払っておくべきだ。
 
「音も、か」

 これまで東の機械を見て来たが、全てなんらかの音を立てていた。
 注意を払えば気づけるだろう。

「ん?」

 そう思って耳に魔力を集中したのだが、その耳がおかしな音を拾った。

「ここ、声がしないか?」
「あ、本当だ何か聞こえるな」

 壁のなかに潜り込んでいるパイプから人の声が聞こえたのだ。
 音の響きからして、どこかこのパイプが通じている場所の音が伝わって聞こえて来ているようだった。
 その声に集中して聞き取ってみた。

『百二十五号が不安定らしいぞ』
『百二十四号が死んだと伝えたからじゃないか? たしか弟だったか?』
『はっ、魔人でも家族の情があるんだな。まぁいい。弟を殺した相手とあのブラックドラゴンを恨んでくれたら今度こそうまく行くかもしれないからな』
『ったく、早く結果を出さないといい加減神の寛容も失われかねんぞ』
『やはり魔人が少なすぎるのが問題だろう。年に数人しか見つからないんじゃ実験も進めようがない』
『そう言えば、我が国のどこぞの会社が西の蛮族の国から高い技術力を持つ奴隷を捕まえて来たという噂を聞いたが……同じように西から魔人を仕入れることは出来ないのかな?』
『西か。住民全員が魔人というのは本当なのか?』
『そこまでではないらしいが、支配階級はほとんどが魔人とのことだぞ』
『うへえ、魔人に支配された国か。そんな国に生まれなくてよかったよ。その点我が国は偉大なる国護りの天の主に護られ、正しき人のみの国だ。ありがたいことだ』
『それを言えば南海も、同じ神を戴きながら……』

 声が少しずつ遠ざかって行く。
 どうやらパイプの傍を離れたか部屋を出たようだ。

「師匠、やつら俺たちの国の人間も狙っているぞ。今のうちにぶっ潰しておこう」
「それは同感だが、話からするとここの連中は誰かの依頼を受けて実験を行っているようだ。請負業者を潰したところで依頼主がいる限り別に依頼を出すだけだ」
「もう東国全部ぶっ潰せばよくないか?」
「やめろ短絡になるな。何も知らずに暮らしている人のほうが多いはずだ。何もかもを壊してなかったことにするのは簡単だ。だが、一度失ったものはもう戻らない。間違いでしたじゃあ済まないんだ。破壊を第一に考えるな」
「わかった」

 言いながらゆっくりとこの物置らしき部屋の入り口から顔を出す。
 この部屋には扉がなく、入り口の外には廊下があった。

「……師匠、こっち、魔物の気配がする」
「確かに。それに、あの嫌な場所に似た臭いもするな」

 俺は合成魔獣キメラの檻を思い出して嫌な気分になった。
 あの子どもたち、果たして助けることが出来るのだろうか?
 断絶の先にある結び、師匠の言葉がずっと俺の胸の内で何かを急き立てているようだった。
 俺の到達出来たただ一つの剣技には先がある。
 師匠にすら届かなかった先が。
 それは、破壊の剣ではない。
 破壊でないのなら、もしかすると……。

 ──……ジリリリリリリィンン!

 いきなり響き渡った大きな音に文字通り飛び上がる。

「なんだ?」
「俺たちが逃げ出したんで警鐘を鳴らしたんじゃないか?」

 そんな言葉を交わした次の瞬間、ズゥウウウウウン! と、地面が揺れ動いた。
 そしてまるで巨大な手が建物を揺すっているかのように上下左右に振り回される。

「うわぁあああ!」
「百二十五号が暴れだしたぞ!」
「何をしている! 鎮静剤はどうした! 魔封じの障壁を下ろせ!」

 俺たちの向かっていた方向から悲鳴や慌てた風の指示が聞こえて来た。

「どうやら俺たち絡みじゃないようだぞ」
「百二十五号ってさっき言ってた奴じゃないか?」

 パイプから聞こえた話では弟がドラゴンに殺されたとか言っていたか。
 一昨日見た川を流れて来たあの手の持ち主がもしかしたら……。

「うあああああああああっ!」

 悲鳴のような嘆きのような怒りのような、入り混じった感情を抱えた魔力が放たれる。
 ひきつれかすれた血を吐く叫び声は、それでも、それが若い女性のものだと理解出来てしまう響きを帯びていた。
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