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第五章 破滅を招くもの
360 暗雲
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俺たちは気持ちの立て直しのために一日休息を取ることにして、メルリルの力で集めた森の幸と、聖騎士が木々の間からわずかに見えた鳥を投げ槍で落としたものとで、手間のかかる料理を作って舌鼓を打った。
ついでにドラゴンフルーツから作った竜酒を茶に混ぜて全員に振る舞う。
これで竜酒も手持ちの分はなくなったな。
その甲斐もあって、黒のドラゴンが通った直後は酷い顔色だった俺たちも、体力と気力を蘇らせることが出来た。
自分が思っていた以上に憔悴していたようだと気づいたのは、回復した後だった。
ものの考え方が後ろ向きになっていた気がする。
「今日の計画を立てよう。メルリルは精霊を使って警戒を優先してくれ。幸いしばらくは草の多い場所は通らないだろうからな」
「わかった」
メルリルがうなずく。
そうなんだよな。
よくよく考えてみればメルリルは精霊の声が聞こえるのだから索敵に意識を向けておいてもらうほうがいい。
草漕ぎなど単なる体力仕事であり、危険度は低いのだ。
もちろんスタミナの節約は大事だが、魔物との遭遇を回避出来ることと比べれば断然優先度は低い。
「アルフはパーティコントロールを頼む。仲間の特性を一番把握しているのはお前だ。自分だけでなく、仲間をどう動かすのが効果的かを考えながら行動すること」
「行動の基本方針は師匠が決めるんだよな」
「出来ればお前に決めて欲しいんだけどな」
「俺はまだこういう場所での正しい行動の判断が出来ないと思う」
正直なのはいいが、もうちょっと若者らしいやる気を見せてくれてもいいんだがな。
「そうだな。俺は王宮でどう行動すればいいかわからない代わりにこういう場所は慣れたものだ。適材適所という奴だな。まぁ任せておけ」
「おう!」
勇者は大変いい笑顔で返事をしてくれた。
まぁこういう人の力の及ばない場所での案内は、俺の本来の役割だからこれでいいと言えばいいんだよな。
さて、問題はフォルテを偵察に使えないということだ。
若葉がいる以上、唯一若葉を牽制出来るフォルテを単独行動させるのは危険であることをこのあいだの出来事で思い知った。
「さて、この崖の攻略だが、ここはすっぱり諦めて、別ルートを探そうと思う。少し遠回りになるが、先日休んだ滝を覚えているか?」
「きれいなところでしたね」
聖女がその場所を思い出したのかうれしそうに言った。
「ああそうだ。あのきれいな滝まで戻る」
「へ?」
勇者が間抜けな声を上げた。
「この先の山へ行くためには切り立った崖を越える必要がある。とは言え、俺たち全員で崖を攻略するのは無理だ。そこであの滝だ。あの滝は山の方向から流れて来ていた。通常川というのは岩肌を削って水の道を作って生まれるものだ。あの滝の先を辿れば川が削った道がある可能性が大きい」
「なるほど」
「とは言え、川の削った部分が深すぎて結局山の上に到達出来ない可能性もあるが、俺たちの目標は山に登ることではない。収容所を探すことだ。ついでに言えば、人が住むところは水場の近くである可能性が高いということもある」
「さすが師匠だ」
無邪気にうなずく勇者に気力を削がれるが、まぁ山やら森のことを勇者に判断させるのは無理がある。
ここは俺が頑張らなきゃな。
決めた方針に従って俺たちは行動に移った。
先日俺たちが休憩した場所は滝壺よりもかなり上の場所であり、少々足場が滑るものの、上まで登ることは可能だった。
登ってみると、底の浅い幅広い川が東の方向から流れている。
周囲はやや大きめの岩がごろごろしている河原だ。
俺たちは川沿いにその流れ出す方向へとさかのぼった。
「暑い」
河原は森のなかと違って上に張り出した木の枝がないため日光が直接降り注ぐ環境だ。
さすがに夏場に影のない場所を長時間歩くのは厳しかった。
傍らを涼しげに川の水が流れているのに全員汗だくだ。
「アルフ、ミュリアは大丈夫か?」
「そろそろ休憩したほうがいいと思う」
俺たちのなかではこの直射日光による熱線にもっとも弱いのが聖女だった。
なにせ日焼けなんかしたことがないような白い肌をしているし、勇者パーティに加わるまで、外で長時間活動したことなどないと聞いている。
こまめに休憩を入れなければ潰れてしまうだろう。
「もう少しがんばれます」
ふうふう言って、顔も真っ赤になっているのに強がりを言う聖女に、俺は首を横に振った。
「リーダー判断に異議を唱える場合は根拠を示せ。パーティの規範が成り立たなくなる」
「ごめんなさい」
う、ちょっとキツく言い過ぎたか。
勇者、ここはお前が締めるところだぞ。
俺は若葉がちょろちょろ顔を出す勇者の背中を小突いた。
「う、ごほん。いくら自分で体調を整えられるとは言え、消耗は埋められないだろ。限界まで頑張るよりもこまめに回復したほうが効率がいい」
「そうですね。わたくしが間違ってました」
勇者の言葉にますます聖女がしょんぼりと肩を落とす。
その様子を見て、モンクがハァーと大きく息を吐いた。
「ミュリアが頑張ると男共は休めないんだよ。男は見栄っ張りだからね。男を立ててやるために譲ってやるのは女の優しささ」
モンクは聖女にそう言って頭を撫でる。
聖女はびっくりしたようにモンクを見て、次いで俺たちを見た。
俺たちもまた汗びっしょりで顔が真っ赤なはずだ。
「わたくし、ちっとも気が回らなくて」
「大丈夫、これから学んでいけば十分間に合うよ。じゃ、ちょっと休憩しようか」
「はい」
うんまぁダシに使われたけど、落ち込まれるよりはずっといい。
勇者は複雑な顔をしているがな。
俺たちは木立のほうへと避難すると腰を下ろして休憩をした。
すると、勇者の背後から若葉がバタバタと飛び上がる。
「フォルテ」
「キュイ!」
具体的なことは言わずとも、すでに心得たもので、フォルテは若葉を追って飛び立った。
若葉は狩りだかなんだか知らんが、若葉が飛べばフォルテも一緒に飛ばすことが出来る。
ついでにその視界を借りて周囲の状況を確認するのだ。
俯瞰して見ると、俺たちがたどっている川沿いはしばらく進むとそのまま山の渓谷として山の間に入り込んでいた。どうやら方針としては間違ってなかったようだ。
俺はフォルテの視界を使ってまっすぐ山のほうを見る。
すると少し先のほうに真っ黒な雲のような塊がこびりついている場所が見えた。
『黒呪がいる』
若葉が告げる。
先日俺たちをいきなり行動不能にした黒のドラゴンがあそこにいるらしい。
目を凝らす。
黒い雲の合間に人工物がないかどうか。
「ダメか……」
ドラゴンの気配が強すぎて、そっちの方向に意識を向けるだけで疲労感が半端ない。
しかも段々嫌な気持ちが湧き上がって来るので、精神的な影響もあるのだろう。
だが、収容所からドラゴンに連れさらわれて亡命したという東国の魔力持ちの話が本当なら、あの方向が怪しいということだ。
「黒のドラゴンのいる方向を目指すとか、自滅を望むバカ者のたわごとだよな……」
すごく行きたくない。
だが、あそこで行われている恐ろしいことを確かめずにこの先生きて行くことも考えられない。
とにかく今は休憩だ。
水の魔具で湿らせた布を全員に回しながら、重い息を吐くのだった。
ついでにドラゴンフルーツから作った竜酒を茶に混ぜて全員に振る舞う。
これで竜酒も手持ちの分はなくなったな。
その甲斐もあって、黒のドラゴンが通った直後は酷い顔色だった俺たちも、体力と気力を蘇らせることが出来た。
自分が思っていた以上に憔悴していたようだと気づいたのは、回復した後だった。
ものの考え方が後ろ向きになっていた気がする。
「今日の計画を立てよう。メルリルは精霊を使って警戒を優先してくれ。幸いしばらくは草の多い場所は通らないだろうからな」
「わかった」
メルリルがうなずく。
そうなんだよな。
よくよく考えてみればメルリルは精霊の声が聞こえるのだから索敵に意識を向けておいてもらうほうがいい。
草漕ぎなど単なる体力仕事であり、危険度は低いのだ。
もちろんスタミナの節約は大事だが、魔物との遭遇を回避出来ることと比べれば断然優先度は低い。
「アルフはパーティコントロールを頼む。仲間の特性を一番把握しているのはお前だ。自分だけでなく、仲間をどう動かすのが効果的かを考えながら行動すること」
「行動の基本方針は師匠が決めるんだよな」
「出来ればお前に決めて欲しいんだけどな」
「俺はまだこういう場所での正しい行動の判断が出来ないと思う」
正直なのはいいが、もうちょっと若者らしいやる気を見せてくれてもいいんだがな。
「そうだな。俺は王宮でどう行動すればいいかわからない代わりにこういう場所は慣れたものだ。適材適所という奴だな。まぁ任せておけ」
「おう!」
勇者は大変いい笑顔で返事をしてくれた。
まぁこういう人の力の及ばない場所での案内は、俺の本来の役割だからこれでいいと言えばいいんだよな。
さて、問題はフォルテを偵察に使えないということだ。
若葉がいる以上、唯一若葉を牽制出来るフォルテを単独行動させるのは危険であることをこのあいだの出来事で思い知った。
「さて、この崖の攻略だが、ここはすっぱり諦めて、別ルートを探そうと思う。少し遠回りになるが、先日休んだ滝を覚えているか?」
「きれいなところでしたね」
聖女がその場所を思い出したのかうれしそうに言った。
「ああそうだ。あのきれいな滝まで戻る」
「へ?」
勇者が間抜けな声を上げた。
「この先の山へ行くためには切り立った崖を越える必要がある。とは言え、俺たち全員で崖を攻略するのは無理だ。そこであの滝だ。あの滝は山の方向から流れて来ていた。通常川というのは岩肌を削って水の道を作って生まれるものだ。あの滝の先を辿れば川が削った道がある可能性が大きい」
「なるほど」
「とは言え、川の削った部分が深すぎて結局山の上に到達出来ない可能性もあるが、俺たちの目標は山に登ることではない。収容所を探すことだ。ついでに言えば、人が住むところは水場の近くである可能性が高いということもある」
「さすが師匠だ」
無邪気にうなずく勇者に気力を削がれるが、まぁ山やら森のことを勇者に判断させるのは無理がある。
ここは俺が頑張らなきゃな。
決めた方針に従って俺たちは行動に移った。
先日俺たちが休憩した場所は滝壺よりもかなり上の場所であり、少々足場が滑るものの、上まで登ることは可能だった。
登ってみると、底の浅い幅広い川が東の方向から流れている。
周囲はやや大きめの岩がごろごろしている河原だ。
俺たちは川沿いにその流れ出す方向へとさかのぼった。
「暑い」
河原は森のなかと違って上に張り出した木の枝がないため日光が直接降り注ぐ環境だ。
さすがに夏場に影のない場所を長時間歩くのは厳しかった。
傍らを涼しげに川の水が流れているのに全員汗だくだ。
「アルフ、ミュリアは大丈夫か?」
「そろそろ休憩したほうがいいと思う」
俺たちのなかではこの直射日光による熱線にもっとも弱いのが聖女だった。
なにせ日焼けなんかしたことがないような白い肌をしているし、勇者パーティに加わるまで、外で長時間活動したことなどないと聞いている。
こまめに休憩を入れなければ潰れてしまうだろう。
「もう少しがんばれます」
ふうふう言って、顔も真っ赤になっているのに強がりを言う聖女に、俺は首を横に振った。
「リーダー判断に異議を唱える場合は根拠を示せ。パーティの規範が成り立たなくなる」
「ごめんなさい」
う、ちょっとキツく言い過ぎたか。
勇者、ここはお前が締めるところだぞ。
俺は若葉がちょろちょろ顔を出す勇者の背中を小突いた。
「う、ごほん。いくら自分で体調を整えられるとは言え、消耗は埋められないだろ。限界まで頑張るよりもこまめに回復したほうが効率がいい」
「そうですね。わたくしが間違ってました」
勇者の言葉にますます聖女がしょんぼりと肩を落とす。
その様子を見て、モンクがハァーと大きく息を吐いた。
「ミュリアが頑張ると男共は休めないんだよ。男は見栄っ張りだからね。男を立ててやるために譲ってやるのは女の優しささ」
モンクは聖女にそう言って頭を撫でる。
聖女はびっくりしたようにモンクを見て、次いで俺たちを見た。
俺たちもまた汗びっしょりで顔が真っ赤なはずだ。
「わたくし、ちっとも気が回らなくて」
「大丈夫、これから学んでいけば十分間に合うよ。じゃ、ちょっと休憩しようか」
「はい」
うんまぁダシに使われたけど、落ち込まれるよりはずっといい。
勇者は複雑な顔をしているがな。
俺たちは木立のほうへと避難すると腰を下ろして休憩をした。
すると、勇者の背後から若葉がバタバタと飛び上がる。
「フォルテ」
「キュイ!」
具体的なことは言わずとも、すでに心得たもので、フォルテは若葉を追って飛び立った。
若葉は狩りだかなんだか知らんが、若葉が飛べばフォルテも一緒に飛ばすことが出来る。
ついでにその視界を借りて周囲の状況を確認するのだ。
俯瞰して見ると、俺たちがたどっている川沿いはしばらく進むとそのまま山の渓谷として山の間に入り込んでいた。どうやら方針としては間違ってなかったようだ。
俺はフォルテの視界を使ってまっすぐ山のほうを見る。
すると少し先のほうに真っ黒な雲のような塊がこびりついている場所が見えた。
『黒呪がいる』
若葉が告げる。
先日俺たちをいきなり行動不能にした黒のドラゴンがあそこにいるらしい。
目を凝らす。
黒い雲の合間に人工物がないかどうか。
「ダメか……」
ドラゴンの気配が強すぎて、そっちの方向に意識を向けるだけで疲労感が半端ない。
しかも段々嫌な気持ちが湧き上がって来るので、精神的な影響もあるのだろう。
だが、収容所からドラゴンに連れさらわれて亡命したという東国の魔力持ちの話が本当なら、あの方向が怪しいということだ。
「黒のドラゴンのいる方向を目指すとか、自滅を望むバカ者のたわごとだよな……」
すごく行きたくない。
だが、あそこで行われている恐ろしいことを確かめずにこの先生きて行くことも考えられない。
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