勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
206 / 885
第四章 世界の片隅で生きる者たち

311 帝都激震

しおりを挟む
 帝国の中心都市である帝都の、さらに中心である宮殿の近くに宮殿前衛兵詰所がある。
 本来は本部ではないのだが、実質的な衛兵隊の本部のような場所だ。
 衛兵隊にはいくつかの部隊があるが、そのなかでも過激なことで知られているのがオウガ隊長率いる部隊である。
 オウガ隊長は密かに『不死の獣王』と呼ばれていた。犯罪者から何度も刺されたり撃たれたりしていながらも、常に第一線に復帰することから誰言うとなくつけられた渾名だ。
 その『不死の獣王』ことオウガ隊長は、困惑していた。

 つい先日、大地人の技術者たちを誘拐監禁していた犯人として捕まえた東国貴族の二人が、本国からの抗議によって帝国からの追放と二度と入国させないという条件の下、外交筋に引き取られてしまった。
 さらに、街中で車を暴走させた第五皇女は、その罪を技術開発局の若手であった運転手になすりつけて罪を逃れ、あまつさえのうのうと被害者のような顔をしてみせた。
 これらのことはオウガ隊長にとって、実に腹立たしい、許しがたいことだったが、国の司法機関が決定したことなので、異を唱えることも出来ない。
 唯一よかったことと言えば、第五皇女のはかりごとに巻き込まれたらしい勇者たちに何のおとがめもなかったことだろう。
 本来ならとんでもない賠償額となるはずの開発局の最新の車の破壊だが、皇女の一声で事件そのものが伏せられることとなったのだ。

 オウガ隊長は、この日の前日の早朝に、報告があった勇者たちの宿に目立たないように直属の部下を使ってメッセージを届けさせた。自分が行けば目立ちすぎると思ったからだ。
 本当は直接不甲斐ない母国の司法担当に代わって謝りたかったのだが、未だ皇女が勇者を諦めていない可能性が高いため、危険を避けたのである。
 勇者たち一行に必要なものは情報だろうと考えたオウガ隊長は、勇者たちの足かせとなっている移動制限がなくなったことと、東国貴族の顛末を伝えたのだ。

 そこから明けて本日、なぜか帝都近くの村落の住人から、オウガ隊長名指しで当の勇者一行の従者と名乗っていたダスターからの手紙が届けられた。
 驚愕するような内容にオウガ隊長は速攻で隊を集め、報告の場所に走ることとなる。
 実のところ、本来は衛兵隊の管轄は帝都内のみなので、街道で起こった事件に関わることは管轄外の可能性が高かった。しかしぎりぎり街道も帝都内と言い張れないことはない。そのためにはすぐに動くことだとオウガ隊長は考えたのだ。

「これは……」

 そこにあったのは、見覚えのある作業用のローラー車の残骸と、ところどころ焦げたこれまた見覚えのある東国貴族の二人だった。
 この二人がここにいる事実は、外交筋が法を遵守しなかったということの証左でもあるのでそれは後に追求するとして、何をどうすればこのようなことになるのかがさっぱりわからないオウガ隊長である。

「すごいですね! さすがは勇者さまです!」

 オウガの隊でも若手の一人が頬を紅潮させて勇者を讃えた。
 彼は自国民を不当に拉致していた東国貴族が無罪放免に等しい判決となったことにひどく憤慨していた正義感の強い男だ。
 目前の状態の東国貴族たちを見て胸のすく思いをしたのだろう。
 ほかの衛兵たちも似たような感じだ。
 オウガ隊長はさすがにそのような態度をそのままにしておく訳にもいかず、浮ついた状態の隊員たちを鎮め、テキパキと指示を出して事態を収束させていく。

 オウガ隊長が真に仰天したのはその後だった。
 一応治療所に運び込んだ東国貴族二人は大した傷はなかったのだが、いつまでも目を覚まさない。
 不安になった医療関係者が急遽教会の聖人さまをお呼びしたのだが、その聖人さまが断言したのである。

「これは魔法による眠りです。それほど強くはかけられていないのでしばらくすれば目を覚ますでしょう」

 と。
 魔法は、決して知られていない技術ではなかったが、帝国ではごく一部の選ばれし者が扱う技術であり、何よりも勇者や教会の使う特別なものという認識が強かった。
 魔法が使われたということだけで一大センセーションなのだ。
 さらには発見者である村人からいつの間にか新聞などの報道機関に話が流れ、この騒動を引き起こしたのが勇者であると知られてしまったこともあり、東国貴族の二人は勇者によって裁かれたと教会が認定したという話が、医療関係者から流れたらしく一気に広まってしまった。
 その上、翌日東国貴族二人が目覚めると、彼らはスラスラと自分たちの行った全ての罪を白状した。
 病院から留置所に移す際に、嗅ぎつけた新聞記者が口々に行った質問に律儀に全て答えてしまったのだ。
 あろうことか、そのなかには第五皇女と東国から進出して来ていた大企業、東国技術との関係性まであった。
 その上後に、教会の聖人さまによって、この二人には禁忌魔法が使われていることが明らかになる。
 帝都は昼も夜もその話題でもちきりとなってしまった。

「とんでもねー置き土産をしてくれたもんだよ」

 しばらく前に負ったケガが完治する間もなく、衛兵隊のオウガ隊長は激務の日々を予感したのだった。

 ── ◇ ◇ ◇ ──

 帝都がとんでもない騒ぎになっているとは全く知らないダスターたちは、その頃徒歩で夕刻まで歩き、小さくてのどかな田舎町に到着していた。
 帝都に近い場所にあるのにそこが田舎であることには理由がある。
 帝都という巨大な都市を支えるためにその周辺は全てが農業地帯となっているのだ。
 煙と固い地面ばかりの帝都でしばらく過ごした一行にとって、その田舎町はどこか懐かしい空気を感じさせる場所だった。

「この辺にゃあ、宿屋はねえけど、町長さんの家なら客人を泊められるよ」

 そんな風に教えてもらった一行は、その町の町長を尋ねて宿を乞う。

「すみません、宿代は払うので一晩泊めていただけませんか?」
「ああ、かまわんよ。うちにはちょくちょく行商人も泊まるんでな。なんだあんたら歩きかい? それにしてもまた、大層な格好しているが、旅の修行者かなんかか?」
「いえ、冒険者でして」
「ほう! もしよければうちの依頼を請けちゃあもらえないかね?」
「お話をお聞きしてからでいいですか?」
「もちろんだ。おい、旅の冒険者さんだよ。六人分お泊りの用意をしてくれ」

 どうやらダスターたちはダスターたちで、何か厄介事に巻き込まれそうではあった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。