勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第四章 世界の片隅で生きる者たち

260 列車を楽しもう1

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 自分たちの個室がある箱に戻ると、どうやら勇者たちが起き出して、通路に出て体をほぐしているようだ。
 近くにほかの人がいる個室があるのだからあまりうるさくしないように言っておく。

「そうだ、師匠。ベッドが二つしかなくて寝るのに狭いと思っていたら、ちゃんと四人分ベッドが作れた。面白いな、この仕組み」

 俺の言葉を聞いて、軽く体を伸ばしただけでぞろぞろと部屋に戻ると、勇者がそんなことを言い出した。
 詳しく聞いてみると、書棚にこの列車の使い方の案内のようなものがあったらしい。
 俺は本とか読まないからなぁ。

「メルリル、ちょっといいか?」
「うん、大丈夫」

 俺が呼びかけると、向こうから扉を開けてくれる。
 そこで部屋の使い方を勇者たちが発見したらしいから教えてもらおうと誘った。

「使い方?」

 首をかしげるメルリルを伴い、勇者たちの個室へと入る。
 さすがに四人用の部屋に六人が入ると狭いが、扉を開けておけば閉塞感はそれほどではない。
 俺たちは勇者たちから収納の覆いとなっている板を外してテーブルにする方法や、ソファーをスライドして背もたれを広げて四人分のベッドにする方法を教わる。

「すごい、便利です。やっぱりこういうところは平野人には敵わないですね」

 メルリルが目を輝かせて説明に聞き入った。

「少ない物資で工夫して道具を作って来た歴史があるからな。こういうアイディアに関してはやっぱり平野人が一番かもしれないな」

 とは言え、この大神聖帝国の技術のほとんどは東国から入って来たものとのことだから、本当に凄いのは東国の技術者なのだろう。
 昨日の出来事や平野人以外への差別のせいで、一気に東国に対する不信感が高まったが、技術の高さにおいては、西国は全く太刀打ち出来ないことを認めざるを得ない。
 どさくさまぎれに勇者と聖女から本を読むようにと言われてしまい、おざなりにうなずいていると、個室のなかにあった本から一冊をぐいぐい押し付けられた。

「これ、読みやすいから」

 表紙を見るとどうやら勇者の冒険譚のようだ。

「勇者の冒険譚は村の教手からさんざん聞かされたぞ」
「これはそういう歴史を伝えるものじゃなくて、おもしろおかしい誇張した話を付け加えられたやつだ。吟遊詩人や芝居小屋なんかの物語をまとめたものだぞ」
「へえ」

 本なんていうものはお硬い記録を綴ったものという認識があった俺は、少しだけ興味を惹かれた。
 祭などで歌いがたりをする吟遊詩人の物語や、たまに巡業で訪れる芝居小屋などは、庶民の娯楽の一つだ。
 正直俺も楽しみにしていたりする。

「わかった読んでみる」
「メルリルにはこれ!」

 俺が勇者から本を受け取ったと見て、今度は聖女がメルリルに別の本を勧めた。

「え? あの、私、文字が……」

 メルリルは困ったように言う。
 そう、メルリルは言葉は覚えたものの、平野人の使う文字はまだあまり把握していなかった。
 宿とか食事処なんかの看板は読めるようになっていたが、さすがに文章は難しい。

「私が読んであげる!」
「ありがとう。うれしいです」

 聖女の言葉に、メルリルはパッと顔を輝かせた。
 あーそうか、そういう楽しみも大事だよな。
 俺は女性の好む物語など知らないし、今はそうとう時間に余裕がある。
 列車のなかで運動する訳にはいかないのだから空いた時間を過ごす方法を模索するのも大切だ。

「日中は二つの部屋を自由に使うことにすればいいだろ。そうすれば体も伸ばせるし。そうだ、案内の本によると、この列車にはサロンとして使える食堂があるらしいぞ。そこで時間を過ごすのもいいだろうし」

 勇者は俺にものを教えることが楽しいらしく、いろいろと提案して来る。
 実際なかなかいい案だと思う。

「それならさっき行って来た。あ、そうそうそれでいい情報を聞いたんだが、このレールの周りは壁に囲まれていて、その壁はドラゴンの排泄物をまぜた材料で作られているとのことだった」
「ドラゴンの?」

 不思議そうに聞いたのは聖騎士だ。

「ああ、そうすることで魔物が列車の通路に入り込まないらしい」
「なるほど。しかしドラゴンの排泄物を採取するのは大変でしょう」
「それが、ドラゴン学者がいて、ドラゴンは排泄場を巣から離れたところに作り、ある程度したら移動するらしい。つまり古くなって使われなくなった排泄場から採取すれば安全なのだそうだ」
「それはありがたい話ですね」

 聖騎士の声もうれしそうだ。
 実際、僻地を巡って魔物と連戦している勇者パーティだからこそ、魔物の入り込めない空間を確保することが出来るだけで民がどれほど助かるかということが実感として感じられるのだろう。
 世界のなかでも魔物とやり合いながら民が生活しているという点では、我がミホムはトップクラスの国のはずだ。
 まぁ見分け山に棲んでいる山岳民族連中には敵わないかもしれないが。

「確かにいい情報だな。しかし、親密にしている国にそんな技術があるのに、大聖堂の連中は何をしていたのやら」

 勇者は顔をしかめたが、俺はそこは仕方がない話だとは思う。
 技術は興味がない者はとことん興味がなく、ただ便利に使うだけでその原理を理解しようとはしないものだ。
 貴族連中なんか、魔法の専門家のはずなのに、魔道具の原理とか全く理解していない者も多いからな。
 あいつら魔道具が壊れたら修理せずに捨てたりするし。

「ギャア! キュウウウウ」

 突然フォルテがメルリルの肩から飛んで来て、俺の頭にボディアタックをかました。

「わかった。腹が減ったんだな? はいはい食堂に行こう」

 見れば、ほかの個室からもそろそろ人が出て来始めているようだ。
 俺たちは自分たちの個室に鍵をかけると、食堂へ移動して朝食を摂ったのだった。
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