電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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5章 第3部 白神コンシェルンの秘密

213話 エデンの状態

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 レイジたちは引き続き、神殿しんでんのダンジョンを奥に進んでいた。
 ただここで気になるのは奥に進めば進むほど、ブラックゾーンで感じたあの得体のしれないヤバげな重圧がだんだん濃くなってきているのだ。このことをまもるに聞いたところ、とくに問題はないとのこと。気にせずに先に進んでほしいと、オーダーを受けていた。

「えへへぇ、これどう使っおうかなぁ。こっちはあれに使って、こっちはぁ……」

 ゆきは画面を見てニヤニヤしながら、独り言を。
 というのもここに来るまでの間、野良ガーディアンがいくつかのレア素材を落としていったのだ。そしてゆきは実際に実物を見て、これは想像以上に使えると判断。今ではオーパーツがかすむほど、レア素材に夢中になっていた。歩いているときは自身のアイテムストレージに入れた素材の用途を模索し、野良ガーディアンを見つけたら進んで狩りにいくと行った感じにだ。

「ゆきのやつご満悦だな」
「ここのガーディアンが落とす素材は、ほかにはない異質なものばかりですからね。ゆきみたいな装備を作るのが得意な電子のみちびき手には、まさに素材の宝庫。ああなるのも、無理はないですね」
「なるほど。おーい、ゆき、浮かれるのはいいが、ちゃんと周りを見て歩けよ。こけてもしらないぞ」
「まったくぅ、ゆきがそんな間抜けな真似、するはずが、ッ!? わぁぁ!?」

 ゆきは馬鹿馬鹿しいと首を振ろうとするが、その直後見事につまずいてしまう。そして顔面から地面にダイブ。盛大にこけてしまった。

「ほら、言わんこっちゃない」
「――ぐぬぬぅ、今のはたまたまなんだからなぁ! ちょっと集中しすぎてただけだもん!」

 悔しそうな表情で立ち上がるゆき。そして恥ずかしそうに顔を赤らめ、どんどん前に進んで行ってしまった。

「それにしてもレイジさんを見ていると、あなたの父親のことを思いだしますね。彼の面影があって、本当になつかしい気持ちになりますよ。性格の方はどちらかというと、荒っぽいウォードぎみですがね」

 ふと守が感慨深そうに話を振ってきた。

「え? まもるさん、父さんと知り合いなんですか? あと、ボスとも」

 レイジの父親だけでなく、狩猟兵団レイヴンのボスであるウォードとも面識があるとは。一体、三人はどんな関係だったのだろうか。

「フッ、学生時代はよく彼らと、つるんでいたんですよ。放課後とかみなでクリフォトエリアに行って、人助けを目的に裏家業の組織にちょっかいかけたりしていました。主に二人が暴れて、私が後方から改ざんのサポートをする形でね」

 守は瞳を閉じながら、なつかしそうに笑う。
 きっと当時のことを思い返しているのだろう。

「へー、そうだったんですか」
「――あ、外が見えてきたぁ! ゆきが一番乗りぃ!」

 そうこうしていると、神殿の出口が見えてきた。
 ゆきははしゃぎながら、外へと一目散に駆けていく。

「おっと、着いたみたいですね」
「じゃあ、この先が守さんの案内したかった場所なのか」
「わぁーーー!?」
「なっ!? どうしたゆき!?」

 ゆきの叫び声ガ聞こえたため、あわてて彼女のあとを追う。
 そしてレイジの目に飛び込んできた光景とは。

「――これは……」

 ゆきの驚愕きょうがくの声も納得がいくというもの。レイジも外の光景に唖然あぜんとしてしまう。
 たどり着いたのは断崖絶壁だんがいぜっぺき。ここまでなら特に驚きはしないだろうが、問題はその先に広がる光景だ。ここを一言で表すと、はるか上空というべきか。赤黒く染まった空が一面に広がっている。そして地面に向けてデータの粒子らしき小さな光が、無数に降りそそいでいるのだ。その様子は、まるで雪のごとく。ふわりふわりとゆっくり落ちており、幻想的な光景といっていい。
 ただキレイな光景に感動もあるが、それ以上に不安感が押し寄せてくるという。これはレイジが、アビスエリアのブラックゾーン内でずっと感じていた感覚と同じ。重度の損傷が発生し、このままではすべてが崩壊ほうかいしていくのではないかという危惧きぐ感が。まず間違いなく言えるのは、この状態は正常ではないということだろう。
 ちなみに下を見下ろしても赤黒い虚空こくうしか見えず、地面の様子は把握はあくできなかった。

「――この光ってぇ……」

 ゆきは手を伸ばし、降りそそいでいるデータの光をつかもうとする。

「ゆき、あまり手を伸ばさない方がいいですよ。この道沿いから離れると、またたく間に膨大なデータに飲まれ、強制ログアウトさせられますから」
「え!? それ早く言ってよぉ!?」

 ゆきはあわてて手を引っ込める。
 この様子ではガーディアンなどを使って、降下していくみたいなことができそうになかった。

「では、ゆき、さっそくここら一帯を調べてもらえますか?」
「――あ、うん、わかったぁ……」

 守に言われるがままに、ゆきは改ざんで調査を開始。

「守さん、ここって?」
「いうなれば、セフィロトの中枢ちゅうすう付近ですかね。なのでこの下に向かえば、セフィロト本体とご対面というわけです」
「なっ、セフィロトと!?」

 まさかの答えに、度肝どぎもを抜かれてしまう。
 今のアポルオンが牛耳ぎゅうじる世界を作り、エデンを創造した存在、セフィロト。そんなこの世界の神にも等しいセフィロトが、この先にあるとは。

「フッ、とはいっても、そこまでの道筋は作られてはいないそうですがね」
「ははは、まあ、そりゃ、そうですよね。でも、なんでこんな大事な場所につながる道が、用意されてるんですか?」
「――それは、フッ、さすがにこれ以上は、私の口から言えませんよ。ただレイジさん。あなたなら、いつかその答えにたどり着く気がしますね。女神の導きによって……」

 守はおかしそうに笑いながら、意味ありげな言葉を告げてきた。

「え? それって……」
「ねぇ、父さん、これってどういうことなのぉ? システムのあちこちが壊れてて、やばいどころの話じゃないよねぇ? こんなの放置してたら、どんどんおかしくなって取り返しの付かないことになるよぉ! ただでさえここ中枢ちゅうすうに近いんだし、早く修理しないとぉ!」

 くわしく聞こうとするが、ゆきの必死な声にかき消されてしまった。
 もはや素人しろうとのレイジでもわかる、ここら一帯の壊れ具合。やはりよほどやばい状態だったらしい。

「ゆき、そんなにもやばいのか?」
「当たり前だろぉ! システムっていうのは、たった一つのバグでさえ命取りになるものぉ。それが大量に、しかも完全に虫食い状態なんだよぉ! 機械でいったら、部品がところどころない状態で動かしてるも同じなんだからぁ!」
「それは確かにヤバイな」

 普通の部分ならまだしも、中枢付近の部分がこうもやられているのだ。もはやセフィロトにとって、最悪の事態といっていいほど。事の深刻さがようやくわかってきた。

「ゆきの言う通り、すぐになんとかするべきでしょうね。ですが修理しようにも、我々ではどうすることもできないんですよ。なぜならここの惨状さんじょうは、ただ破損しているのではない。基盤のほとんどが、完全に消失してしまっているんですから」
「じゃあ、修復するにはまた一から、システム面を作り直さないといけないってことぉ?」

 ちょこんと首をかしげるゆき。

「そうです。もちろんそんな大がかりなこと、我々にとって不可能に近い。ここは中枢付近ということもあり、システム面が複雑すぎますからね」
「守さん、セフィロトの方では?」
「残念ながら、この件も不具合と認識していないのか、今のところノータッチみたいです」

 守は目を閉じ、首を横にふる
 まさかパラダイムリベリオンの影響と同じ状況とは。もしかすると中枢付近がこんな惨状ゆえ、不備を認識する機能がいかれてしまっているのかもしれない。

「――そんなぁ……」

 ゆきは手のほどこしようがない状況に、がっくり肩を落とす。

「えっと、これが守さんの見せたかったものなんですよね?」
「はい、今のエデンの状態がどうなっているのか、実際に見てもらった方が早いと思いまして。――では、一度もどりましょうか。話の続きは、エデンの巫女の間でするとしましょう」

 そう言って守はきびすを返し、来た道を戻ろうと。

「えー!? もう帰るのぉ!? せっかく来たんだから、もう少しぐらいー! というかオーパーツはぁ?」

 対してゆきは両腕ブンブン振りながら抗議する。

「それに関しては向こうに見える扉をくぐって、どんどん地下に進んで行けばいづれ見つかるでしょう。まあ、かなり最下層近くまでいかないと、無理だと思いますがね。ということでその件はまた今度にしてください」

 守が指さしたのは、崖沿がけぞいの道の先にある洞窟どうくつ。入り口は重々しい鉄の扉が付いており、あそこから中に入れるようだ。おそらく先ほどの神殿のダンジョンと同じような構造をしており、野良ガーディアンとかがわんさかいるのだろう。

「えー、じゃあ、せめて素材をもう少しー」
「フッ、次期当主候補の話を飲んでくれれば、いくらでも来させてあげますよ」

 ゆきのおねだりに、守は意地のわるそうな笑みを浮かべこたえる。

「それ、ずるくなーい!?」

 聞き捨てならない話の流れに、もはやゆきは抗議するしかないようだ。
 ここは電子の導き手の彼女にとって、まさに宝の山が眠る場所。もはやなんどでも訪れたい場所といっていい。それが条件を飲むまで封鎖されてしまうのだから、阻止したい気持ちはよくわかった。

「初めからこうしておけばよかったのかもしれませんね」
「ははは、このままじゃ、ずっとお預けをくらうことになるな、ゆき」
「――くぅ……、意義あーり! そんなの認めないんだからねぇ!」

 妙案だと納得しながら帰っていく守に、ゆきは追いかけながらくいかかっていく。
 そんな親子に続き、レイジもこの場を去るのであった。
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