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5章 第3部 白神コンシェルンの秘密

214話 守の依頼

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 レイジたちはエデン中枢ちゅうすう付近から引き返し、再び巫女の間の入り口へと戻ってきていた。
 するとお留守番していたマナの姿が。

「レイジにいさま、ゆきねえさま、お帰りなさいですぅ!」

 彼女はレイジたちの方に駆け寄り、満面の笑顔で出迎えてくれた。

「ただいま、マナ」
「やっとついたぁ。もぉ、早く帰って休みたいよぉ」

 ゆきはさんざん歩いて疲れたのか、ぐったりうなだれる。

「お疲れさまですぅ。はい、これ、どうぞぉ」

 するとマナはスポーツドリンクの入ったペットボトルを、二つ手渡してくる。

「おっ、サンキュー」
「ありがとなぁ、まな」
「ええと、マナ、ワタシの分は……」

 ゆきと一緒に飲んでいると、守がおずおずたずねだす。
 するとマナは真顔でさぞ当然のように主張を。

「え? ご自分で買えばいいじゃないですかぁ」
「――あ、はい、すみません」

 このレイジたちとの扱いの差である。マナのなついている相手とそうでない相手との差は、相変わらず激しいようだ。

「――ごほん、なにはともあれ、二人ともお疲れ様でした。それではいよいよ本題に入らせてもらいますね」

 まもる咳払せきばらいをして、さっそく話を進めだした。

「――うわぁ、まだ話が残ってたんだったぁ……。手短にお願いねぇ」
「善処しますよ。まず、先ほど見ていただいた光景について。ご覧いただいた通り現在のエデンの中枢付近は、システムのあちこちが欠落していて悲惨な状況です。そしてその影響は、着々とエデンをむしばみつつあるんですよ」
「パラダイムリベリオンの影響とかも、その一つですよね?」

 エデンの異常となれば、まず一番に頭に浮かぶのはパラダイムリベリオン後の世界の形だろう。今まで不変の世界が、データを奪い合う混沌こんとんの世界になったのだ。ああなってしまったのもセフィロトのシステムが、おかしくなったからのはず。

「いえ、実を言うとこの件、パラダイムリベリオンのもろともとは別件なんですよ。そのあと起こったとある事件が、大きく関係しているといいますか」
「え? そうなんですか?」

 予想外の答えに驚きを隠せない。
 つまりセフィロトの中枢付近があんな惨状になったことや、そこから応じたであろう影響は、パラダイムリベリオンとは無関係ということ。では一体どうして今の状態になり、どんな影響がエデンを蝕んでいるのだろうか。

「はい、エデンの巫女の最重要機密事項にふれるため、くわしくは説明できないのですがね」
「じゃあ、壊れてることで、どんな影響が出てるのぉ?」
「クリフォトエリアなので、小規模ですがバグが発生しているんです。不可解な現象が起きたり、空間のゆがみができたり、野良ガーディアンが発生したりいろいろね」
「でもそんな話、あまり聞かないような」

 クリフォトエリアには入りぶたっているため、ある程度の情報は耳に入ってくるというもの。しかしそういったバグの話が話題になったことなど、今のところなかった気が。

「それは我々が事が大きくなる前に、対処しているからですよ。エデンの巫女は、エデンで起きている不具合を探知することができるんです。なのでマナが異変に気づきしだい、関係者が現地におもむき、事態を収束する。おかげで今のところ、なんとかバグの件を隠し通せているんですよ」
「なるほど」
「こういった不具合の対処はエデンの巫女と、内情を知っている白神当主に課せられた責務の一つなんです」
「レイジにいさま、ゆきねえさま、マナは常に目を光らせ、がんばってるんですよぉ!」
「そっか、偉いな、マナは」

 えっへんと胸を張るマナの頭を優しくなで、ほめてやる。
 すると彼女は気持ちよさそうに目を細めた。

「えへへぇ」
「ゆきもなでるぅ。よしよし」

 ゆきもレイジに負けじと、マナの頭をなで始める。
 結果、マナは二人からほめちぎられることに。

「あぁ、二人にナデナデされるなんて、マナ、今すごく幸せですぅ……」

 もはや夢心地と、両ほおに手を当てながらうっとりするマナ。

「この件に関しては、かえで恭一きょういちくんにも手伝ってもらっています。というのも最近、バグの発生率があがり、人手不足が深刻なんですよ。修正するにしても、相当のウデがなければ話になりませんから、なおさらにね」
「あー、かえでねえさんが言ってた手伝いの話って、それだったのかぁ」

 楓が次期当主の件を回避できたのは、守の手伝いをしまくっていたからだと言っていた。その主な内容が、このことだったらしい。

「この話をゆきにしたということは」
「はっ、まさかゆきにもバグ修正の手伝いをしろとぉ?」

 ゆきは大きく開けた口元に、手を当てる。

「できればお願いしたいですね。今はアポルオン側に、弱みを見せるわけにはいかない状況ですからね。この件に難クセをつけられ、介入されれば向こうの思うつぼ。一気に乗っ取られてしまうでしょう。それにバグが拡大するのは、エデンのダメージにもつながります。迅速に処理しないと、この世界が取り返しのつかないことになる恐れが」
「ぐぬぬぅ、そんなこと言われたら、強力するしかないよぉ。白神しらかみコンシェルンだってそうだし、なによりエデンがこれ以上傷つくのは嫌だもん」

 さすがに事情が事情だけに、ゆきはしぶしぶ了承を。
 家のことはもちろん、セフィロト中枢のあんな惨状をみてしまったからには、放っておくことができないみたいだ。

「助かります。あと、今のうちに慣れておけば、当主になったとき楽ですからね。決して無駄な経験にはならないはず」
「次期当主の件は、断固おおことわりだからねぇ!」

 ゆきは指をビシッと守に突き付け、必死にうったえる。

「それは残念ですね。ではゆき、今ちょうど発生のきざしがあるみたいなので、まずそちらの対処をお願いします」

 やれやれと肩をすくめる守。それからゆきにオーダーを投げかける。

「もしかして今からぁ?」
「いえ、まず正確な位置や、ほかのくわしい情報を集めてからですね。おそらく明日ぐらいには準備が整うと思うので、その時にお願いします。できればレイジさんも一緒にね」
「はーい」
「了解です」

 こうしてレイジたちは守から、バグ修正の依頼を引き受けたのであった。

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