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口から吐くのは嘘だらけ
しおりを挟む「けれどマークさま? 『王家ヴァルクレアの目に叶うか否か』、王家はどのように判断するのでしょう?」
「そこが『悪趣味な王子の企み』だ」
「どういうことです?」
少しばかり機嫌がよくなった。
彼は続ける。
「王子のレオポルド・ヴァルクレアは相当なひねくれものでなぁ、間者を送り込むらしい。薄汚い王家の屑め」
「……間者、ですか……」
「ああ。大方兵士かなにかを送り込むつもりなのだろう。まあ? その点ワタシは完璧だ! 女でなければワタシの周りには近づけない! 兵士や間者は皆男だ! なあ、そうだろう? サリア」
「……ええ」
サリアは短く答えた。
その言葉を確認したマークは、不機嫌そうに眉をひそめ、閉ざされた扉の向こうへ目をやると、べったりとした口調で述べるのである。
「欲を言うなら、サリア。お前の付き人。常に部屋の前に立ちお前に張り付いているあいつも外に追い出したいのだが?」
「……それは……」
そこを突かれて、サリアは返答に迷った。
マークは無類の色情魔だ。
本来ならばサリアのお付きの男を部屋の前に置いておくのも嫌なのだ。サリアに男の付き人がいること自体、耐え難い屈辱なのだろう。
だが、そこは譲れない。
譲るわけにいかなかった。
なぜなら、彼はサリアにとって、最後の砦であるから。
一瞬の逡巡の後、サリアはそう答えた。その声はかすかに震えているようにも聞こえたが、マークにはそれが恥じらいだとしか映らなかった。
「ハン! 気に食わん!」
マークは忌々しげに吐き捨てると、厭らしい目でサリアを睨みつけ、「恋心など抱いていないだろうな!?」
「まさかそんな」
サリアはすぐさま否定し、穏やかな微笑を浮かべると、
「出なければ、マーク様のもとに参りませんわ」
「……ほう?」
その言葉に、マークは、満足げに口角を上げた。
瞬時流れる、物欲しそうな空気。
彼のグラスを持つ手が止まり、視線は這うようにサリアに絡まる。その目つきは厭らしさ以外の何物でもなく、浮かべる笑いに、にじり寄る手に、ぴりりと警戒が噴き出していく。
「サリア? お前がワタシに奉仕してくれるというなら、機嫌を納めてやってもいいぞ?」
空気が一瞬凍りついた。
暗に体を捧げろと言っているのだ。
(……最低です)
そう内心で呟きながらも、サリアは、ゆっくりと息を整え、慎重に言葉を選んで答えた。
「困りますわ、マーク様」
一拍の間を置き、彼の目を見て。
サリアは緩やかにほほ笑むのである。
「私は、綺麗な身のままで、貴方の妻になりたいのです」
その言葉に、マークの顔に満足げな笑みが広がった。
彼は何かを言おうとしたが、その瞬間のサリアの瞳に宿る冷たい光には気づくことはなかった。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇
サリア・アルフェナ
マークの婚約者候補として名乗り出た女性。
北部のセヴェリア村の没落貴族の娘だと、マークは聞いている。
印象が変わるほどの化粧を施すのが得意。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇
ランデルス邸の一日は、マーク・ランデルスの一声で始まり、一声で終わる。
その支配下に置かれた者たちは、主が望むままに行動しなければならない。そして今、婚約者候補として屋敷に入ったサリア・アルフェナもまた、例外ではなかった。
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