4 / 6
従っているのも今のうち
しおりを挟む「その髪型、ワタシに合わない。明日までに変えてこい」
「はい、マークさま」
「お前の歩き方はぎこちないな。婚約者ならもっと堂々と歩けるようになれ」
「……ご指導ありがとうございます、マークさま」
このような「指導」は常で有り、サリアは完璧な婚約者候補でなければならなかった。 困るのはマークが、自室にまで乗り込んでくることである。
サリアには、《人の印象を変える化粧》をする趣味があるのだが、使用人のヴァルに付き合ってもらっている時にも入ってきた。そして開口一番、こう述べたのである。
「気色悪い趣味だな」「男に女の化粧をする暇があるのなら、ランデルスの一員として、ワタシの婚約者として、それ相応の振る舞いを身に就けろ!」と、化粧ブラシを踏みつけ鏡を叩き割った。
さすがにこれには、サリアも、付き人のヴァルも苛立ちを隠せなかった。そんな二人に、マークはまるで、その反応を楽しむように嗤い述べたのである。
「なんだ? 身請け同然でもらってやるというのに」「おいおい、婚約者候補が、旦那さまにそんな顔をしたら駄目だろう。そんな顔したら。なあ?」「婚約者なのだから。な? サリア。お前は妻になるのだ。旦那さまには『尽・く・し・ま・す』『ご・め・ん・な・さ・い』だ」
「……っ!」
「……ヴァル」
踏みつけるように、宣った瞬間。
サリアの奥に控えていたヴァルと呼ばれた付き人が殺気立つ。が、サリアは静かに首を振り、彼を目線で制していた。
──それがさらに気に入らない。
マークは胸を反らして顎を引く。
「おい! そこの使用人。お前。何様のつもりだ」
「マークさま、おやめください」
サリアが制止に入る。
しかしマークの怒りは収まらない。
ガツガツと音を立て、サリアの隣のヤツの胸倉を掴むと、
「……なんだぁ? 反抗的な目だなぁ、おい? サリアの付き人でなければお前なんてな、全て取り上げ藁で巻き、アストリア大河に沈めてやる!」
「……マークさま。いけません、もうすぐ男爵の資格を得るのでしょう?」
「……チッ! ただでさえ『成婚前の制約』のせいでむしゃくしゃしているというのに!」
「彼は私の指示に従って行動しております。どうかご容赦を」
マークは彼女の言葉を聞いて、一瞬眉をひそめたが、しばし沈黙した。彼の眉間に一瞬だけ皺が寄ったが、すぐに面倒を避けるように鼻を鳴らしただけだった。
機嫌の悪そうに踵を返し、荒く部屋から出ていくマークの背中を見送って。堪える思いを捻じりだす様に漏らしたのは、サリアの付き人・ヴァルだ。
彼は、サリアに近づきながら小声で訴える。
「…………サリア、耐えられない」
その、心底苦汁を舐めたような声色に、サリアは震える心を諫めるように唇に力を入れると、彼に振り返り
「……もう少し辛抱してください」
信念を乗せ、そう述べた。
次いで彼女は口にしたのである。
「鍵のありかは、わかりましたから。
もう少しです。ヴァル」
サリアの声には、どこか静かな敬意が滲んでいる。それに、ヴァルと呼ばれた彼は、苦汁を煮詰めた様子で、重々しく頷いたのであった。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇
ヴァル:サリアの付き人?
◇◇◇◇ ◇◇◇◇
──これは、彼と彼女の会話の一部始終である。
13
あなたにおすすめの小説
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる