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4 取引をしよう
第60話「愉快・不愉快・居場所ない」
しおりを挟む「おや、そうですか?
お二人の仲睦まじい腕相撲が見えたのですが」
「えっ。
…………見られちゃいました?」
「ええ、しっかりと。
まるみえ。です」
「あらヤダおはずかしい~っ!
へへ、遊んでもらってましたっ」
「ふふっ、お茶目ですねえ」
言って一笑するスネークに、『バレました~』と言わんばかりに、ミリアは誤魔化すように笑ってみせた。
彼女は、知らない。
エリックとスネークが上下関係にあるということも。
エリックが、スネークを毛嫌いしていることも。
彼らが『知り合い』であることも。
知らぬミリアは、スネークに向かって話を続ける。
「あのですね、おねだりしたんです。
腕相撲、やってくれるひと居なくて。
そしたら、彼、付き合ってくれたんですよ~」
「ほう? そうなのですか?」
「そうそう、そうなんです!
このおにーさん、結構ノリが良いんですよ!」
「────そうですか」
「はい~♪」
にこにこ、ふふふ! と笑いながら、ミリアは『当たり障りのない回答』で場を乗り切った────つもりだった。
しかし────
その返答は、『彼』にとって
不都合な事この上ない返答だ。
────そう。
エリックにとっては。
(………………)
はっきり言って最悪である。
心の声すら殺して考えるほど。
本当なら、ミリアに『それ』も言ってほしくはなかったのだが、彼女はエリックとスネークの関係を知らないのだ。
彼女の行動を責められはしない。
────動くのなら、自分の方。
対応するのは、こちらの仕事。
彼は椅子の上で考える。
右手を拳に握りながら考える。
ここでいきなり立ち上がっては、ミリアが不思議に思うだろうし。スネークに声をかけるなんてもっての他である。
エリックは1人、眉根を寄せた。
あの時、あの瞬間。
スネークの声を認識した時から、表情を殺した。
まるで貝のように黙り込み、ひたすら密かな圧をかけた。
『速やかに立ち去れ』
『なんの用だ』
『帰れ。わかっているんだろうな』と。
もちろん自分の部下である、スネーク・ケラーに対してである。しかしスネークは、それをさらりと無視して入ってきやがったのだ。
ビジネスパートナーとしてはとても優秀。
しかし、こういうところが気に食わない。
エリックにとって『今』は
言うまでもなく 最 悪 な 状 況 である。
(…………しまった)
ミリアとスネークが
『オーナーはどこだ』とか
『外はどうだ』とか
『集金袋が、えーと』とか話をしているその隣で
エリックは静かに考えた。
(『油断していた』。
……それ以上に、言えることがないな。
……これじゃあ、スパイ失格だろう)
胸の内でつぶやきながら
ちらりと目で捕らえるのは談笑するスネークの顔。
その表情にイラつきを感じながら、素早く目を伏せ表情を固めて、奥歯を噛みしめる。
(……どこから見ていたのかはわからないが、そもそも視線に気づかないなんて。
……何やってるんだ、俺は。
……常日頃から、周囲に気は配っていたはずなのに。
ミリアに気を取られていたといえばそうだが、そんなものは、言い訳だ)
そう、内省しながら。
この男が声をかける前に見たであろう光景を想像し
────胸の内で舌を打った。
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