*婚前なれそめファンタジー* 盟主は手綱を握りたい! ※ 猜疑心強めのいじわる盟主は、光の溺愛男に進化する ※

保志見祐花

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第60話「愉快・不愉快・居場所ない」

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「おや、そうですか?
 お二人の仲睦まじい腕相撲が見えたのですが」

「えっ。
 …………見られちゃいました?」
「ええ、しっかりと。
 まるみえ。です」
「あらヤダおはずかしい~っ!
 へへ、遊んでもらってましたっ」
「ふふっ、お茶目ですねえ」

 
 言って一笑するスネークに、『バレました~』と言わんばかりに、ミリアは誤魔化すように笑ってみせた。





 彼女は、知らない。
 エリックとスネークが上下関係にあるということも。
 エリックが、スネークを毛嫌いしていることも。



 彼らが『知り合い』であることも。




 知らぬミリアは、スネークに向かって話を続ける。


 
「あのですね、おねだりしたんです。
 腕相撲、やってくれるひと居なくて。
 そしたら、彼、付き合ってくれたんですよ~」
「ほう? そうなのですか?」

「そうそう、そうなんです!
 このおにーさん、結構ノリが良いんですよ!」
「────そうですか」
「はい~♪」



 にこにこ、ふふふ! と笑いながら、ミリアは『当たり障りのない回答』で場を乗り切った────つもりだった。



 しかし────
 その返答は、『彼』にとって

 
 不都合な事この上ない返答だ。



 ────そう。
 エリックにとっては。


(………………)

 はっきり言って最悪である。
 心の声すら殺して考えるほど。


 本当なら、ミリアに『それ』も言ってほしくはなかったのだが、彼女はエリックとスネークの関係を知らないのだ。

 彼女の行動を責められはしない。 



 ────動くのなら、自分の方。
 対応するのは、こちらの仕事。



 彼は椅子の上で考える。
 右手を拳に握りながら考える。


 ここでいきなり立ち上がっては、ミリアが不思議に思うだろうし。スネークに声をかけるなんてもっての他である。

 

 エリックは1人、眉根を寄せた。



 あの時、あの瞬間。
 スネークの声を認識した時から、表情を殺した。
 まるで貝のように黙り込み、ひたすら密かな圧をかけた。



 『速やかに立ち去れ』
 『なんの用だ』
 『帰れ。わかっているんだろうな』と。


 もちろん自分の部下である、スネーク・ケラーに対してである。しかしスネークは、それをさらりと無視して入ってきやがったのだ。
 



 ビジネスパートナーとしてはとても優秀。
 しかし、こういうところ気に食わない。 



 エリックにとって『今』は
 言うまでもなく 最 悪 な 状 況 である。




(…………しまった)
 

 ミリアとスネークが
 『オーナーはどこだ』とか
 『外はどうだ』とか
 『集金袋が、えーと』とか話をしているその隣で



 エリックは静かに考えた。



(『油断していた』。
 ……それ以上に、言えることがないな。
 ……これじゃあ、スパイ失格だろう)



 胸の内でつぶやきながら
 ちらりと目で捕らえるのは談笑するスネークの顔。


 その表情にイラつきを感じながら、素早く目を伏せ表情を固めて、奥歯を噛みしめる。



(……どこから見ていたのかはわからないが、そもそも視線に気づかないなんて。
 ……何やってるんだ、俺は。

 ……常日頃から、周囲に気は配っていたはずなのに。
 ミリアに気を取られていたといえばそうだが、そんなものは、言い訳だ)



 そう、内省ないせいしながら。
 この男スネークが声をかける前に見たであろう光景を想像し
 


 ────胸の内で舌を打った。





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