75 / 78
4 取引をしよう
第60話「愉快・不愉快・居場所ない」(1P)
しおりを挟む────それは、毎月の業務。
会費回収とご機嫌伺いの時間。
総合服飾工房ビスティーの軋む扉をそっと引き 音を殺して声を聞く。
店の奥から聞こえる、男女の声。
「……他のところでもやってるんじゃないだろうな?」
「付き合ってくれる人などおらん!」
「…………だろうな」
いつもの店。
いつもの工房。
女性だけで穏やかに営む総合服飾工房。
しかし今日
そこで花開いていたのは
見慣れた男と、女店員の会話だった。
思わず目を見張る光景に、
「────こんにちは、失礼します」
スネークは、すまし顔をそのままに高らかに声をかける。
まるで『見ていますよ』と言わんばかりの、響く声で。
「……スネークさん!」
「こんにちは、ミリアさん」
「…………! …………」
その日 昼の3時を回った頃。
「商工会組合長」スネーク・ケラーが声をかけると
縫製服飾工房ビスティにいた男女は、全く違う反応を見せた。
自分の声掛けに立ち上がったミリアという女店員。
素早く表情を殺した様子の青年。
明と暗。
歓迎と拒絶。
はっきりと分かれた対応を、すました瞳で嘗め回すと
(…………ほう、これはこれは。
なるほど、そうですか)
”愉快”と言わんばかりに僅かに口元を緩ませ、呟いた。
商工ギルドと互いの利益のために連携を組んでいる
組織「ラジアル」のボスが
『お誂え向き』を見つけたのは知っていた。
しかし、どこの誰かまでは────
今までも、そして今回も
絶対に漏らすことはなかった。
のに。
スネークは、店の中。
順々に
────ミリア
────ボス
と 二人交互に視線を送る。
狙いを澄まして微笑みかけるのはミリアの方。
彼はにこにこと帽子をぬぐと、それを胸に置き口を開く。
「──ミリアさん。
お取り込み中、申し訳ありません。
集金に参りました」
しれっと。
言って退けてみせる糸目のスネーク。
彼の視界の外側
地味~~~……に感じる『圧』には、当然
気づかないふりをして。
「あ、はいはい集金ですね!
いつもお疲れ様です♪」
「いえいえ。ミリアさんこそ。
ドレスの見立てからクリーニングの修繕まで、ご苦労様です」
「ふふふ、仕事ですから~♡」
カウンターに手を突きながらくすくす笑うミリアに、まずはねぎらいの一言。
コツコツと床を鳴らして近づく自分に、店の奥
ボスはこちらを見向きもしない。
そんな二人をスネークは
様子を窺うように目で舐めると
「────お邪魔でしたか?」
気を使った風に問いかける。
「あ、いえいえ! ぜんぜん!」
その問いに、瞬間的に手と首を振るミリアと対照的に
「…………」
表情を動かさぬエリック。
その様子に、
(────それは、そうでしょうね)
愉快だと言わんばかりに呟いた。
ボスの性格は知っている。
スパイ組織のボスで
猜疑心も警戒心も強く、決して群れることのない男。
『一匹狼』と表現するのが適切な『隙のない男』。
組織のトップとして『配下』はいるが、群れて何かをすることはない。
余計な情報の一切を排除し
物事に対して、最適な答えを導き出す男だ。
盟主『エルヴィス』として接したこともあるのだが、これはこれで見事な仮面の被りっぷりだった。
盟主エルヴィスの
煌びやかでニコニコとした笑顔の下に滲ませる
”誰にも隙は見せない”
”本音など、見せてたまるか”
そう、言わんばかりの『壁』と『棘』。
だからこそ『今』・『この状況』は『愉快』で仕方ない。
ビスティ内をするりと見渡し、
先ほどまで喋っていたのが嘘のように、ただじっと黙りこくるボスをもう一度
その目線で舐め
スネークは
ミリアの言葉にわざとらしく目を丸くし小首を傾げると
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる