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4 取引をしよう
第60話「愉快・不愉快・居場所ない」(1P)
しおりを挟む────それは、毎月の業務。
会費回収とご機嫌伺いの時間。
総合服飾工房ビスティーの軋む扉をそっと引き 音を殺して声を聞く。
店の奥から聞こえる、男女の声。
「……他のところでもやってるんじゃないだろうな?」
「付き合ってくれる人などおらん!」
「…………だろうな」
いつもの店。
いつもの工房。
女性だけで穏やかに営む総合服飾工房。
しかし今日
そこで花開いていたのは
見慣れた男と、女店員の会話だった。
思わず目を見張る光景に、
「────こんにちは、失礼します」
スネークは、すまし顔をそのままに高らかに声をかける。
まるで『見ていますよ』と言わんばかりの、響く声で。
「……スネークさん!」
「こんにちは、ミリアさん」
「…………! …………」
その日 昼の3時を回った頃。
「商工会組合長」スネーク・ケラーが声をかけると
縫製服飾工房ビスティにいた男女は、全く違う反応を見せた。
自分の声掛けに立ち上がったミリアという女店員。
素早く表情を殺した様子の青年。
明と暗。
歓迎と拒絶。
はっきりと分かれた対応を、すました瞳で嘗め回すと
(…………ほう、これはこれは。
なるほど、そうですか)
”愉快”と言わんばかりに僅かに口元を緩ませ、呟いた。
商工ギルドと互いの利益のために連携を組んでいる
組織「ラジアル」のボスが
『お誂え向き』を見つけたのは知っていた。
しかし、どこの誰かまでは────
今までも、そして今回も
絶対に漏らすことはなかった。
のに。
スネークは、店の中。
順々に
────ミリア
────ボス
と 二人交互に視線を送る。
狙いを澄まして微笑みかけるのはミリアの方。
彼はにこにこと帽子をぬぐと、それを胸に置き口を開く。
「──ミリアさん。
お取り込み中、申し訳ありません。
集金に参りました」
しれっと。
言って退けてみせる糸目のスネーク。
彼の視界の外側
地味~~~……に感じる『圧』には、当然
気づかないふりをして。
「あ、はいはい集金ですね!
いつもお疲れ様です♪」
「いえいえ。ミリアさんこそ。
ドレスの見立てからクリーニングの修繕まで、ご苦労様です」
「ふふふ、仕事ですから~♡」
カウンターに手を突きながらくすくす笑うミリアに、まずはねぎらいの一言。
コツコツと床を鳴らして近づく自分に、店の奥
ボスはこちらを見向きもしない。
そんな二人をスネークは
様子を窺うように目で舐めると
「────お邪魔でしたか?」
気を使った風に問いかける。
「あ、いえいえ! ぜんぜん!」
その問いに、瞬間的に手と首を振るミリアと対照的に
「…………」
表情を動かさぬエリック。
その様子に、
(────それは、そうでしょうね)
愉快だと言わんばかりに呟いた。
ボスの性格は知っている。
スパイ組織のボスで
猜疑心も警戒心も強く、決して群れることのない男。
『一匹狼』と表現するのが適切な『隙のない男』。
組織のトップとして『配下』はいるが、群れて何かをすることはない。
余計な情報の一切を排除し
物事に対して、最適な答えを導き出す男だ。
盟主『エルヴィス』として接したこともあるのだが、これはこれで見事な仮面の被りっぷりだった。
盟主エルヴィスの
煌びやかでニコニコとした笑顔の下に滲ませる
”誰にも隙は見せない”
”本音など、見せてたまるか”
そう、言わんばかりの『壁』と『棘』。
だからこそ『今』・『この状況』は『愉快』で仕方ない。
ビスティ内をするりと見渡し、
先ほどまで喋っていたのが嘘のように、ただじっと黙りこくるボスをもう一度
その目線で舐め
スネークは
ミリアの言葉にわざとらしく目を丸くし小首を傾げると
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