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4 取引をしよう
第59話「あっあっ、んっんっ。」
しおりを挟む今だって、手を振り払おうとすればできるのだが、どうもそれができない。
体に触れられるのも好きではないし、握手をするのだって相手によっては警戒してきたのに
なぜか彼女のペースに巻き込まれてしまう。
カウンターの上、力無くひらいたミリアの手から、そっと自分の右手を引いて。
エリックは、自由になった右の拳をさすりながら、潰れたミリアの後ろ頭を眺めつつ考える。
コミュニケーションの密度から、彼女の負けん気の強さや、はねっかえりな部分。正義感の強さと臨機応変なところはだんだんと掴むことができてきたのだが。
それとは別に
エリックが気になっている点がひとつ。
彼女の特性なのか、マジェラの女の特徴なのかはわからないが──
(────距離が近いだろ、これ……)
これである。
繰り返すが、彼が知る限り、この国の女性にこんな距離感の女はいない。
たいていは
男性と一定の距離をとるか
それ以上に近寄らないか。
はたまた、好色全開でくるかのどれかである。
こんな
まるで『友達のような距離』で接してくるのは、彼女が初めてだった。
だからこそ、飛び抜けて使いやすそうだと目をつけたのであるが。
そして、連鎖的に
(────これ。
屋敷や組織の人間が見たら、なんて言うんだろうな)
彼の頭の中。
ひそかに過る『もし』の反応。
(…………屋敷は、……まあ、いいとして。
問題はラジアルの方だろ。
あそこのメンバーに見られでもしたら、体裁が)
「────もう一回!」
「……!」
エリックの思考を、ミリアの声がかき消した。
少し驚き目を向ける彼に、ミリアはカウンターを乗り出し、
「もう一回!
いざ! 尋常に! 勝負っ!」
「……もう十分だろ?
『尋常に』って、何度も使う言葉じゃないと思うし。なにより君の腕が壊れる」
「こんなことで壊れるわけないじゃん!」
「…………はあ……、どうしてそうなるんだ?
まさか他のところでもやってるんじゃないだろうな?」
「付き合ってくれる人などおらん!」
「…………だろうな」
「はい! っというわけで勝負!」
エリックが、ミリアのテンポのいい返しに
『はいはいわかりました』調の返事を返した、その時。
「────こんにちは、失礼します」
『…………!』
声は、突如耳に飛び込んできた。
聞き慣れたその声に、ミリアは立ち上がりエリックは僅かに震えて体を震わせた。
縫製工房ビスティーの入り口。
年季の入った扉を背に、こちらを向きながら微笑みを称える、その男。
「────お久しぶりです、ミリアさん」
「……スネークさん!」
胡散臭い微笑みに、澄ました表情。
糸のような目をゆみなりに弛ませ
ミリアとエリックに微笑む彼の名は
商工会組合組長 兼 調査機関ラジアルの窓口
スネーク・ケラー。
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