上 下
8 / 75

第8話:アレックス様が訪ねていらっしゃいました

しおりを挟む
 その日の午後

「ユーリ、元気そうでよかったわ。気持ちはどう?少しは落ち着いた?て、昨日の今日だものね、そう簡単には落ち着かないか」

 私を心配して、レーナたちが遊びに来てくれた。

「皆、来てくれたのね。今日は随分と心が落ち着いているわ。昨日お母様に、半期休みまでの間、貴族学院をお休みできるようにお願いしてくれたのですってね。本当にありがとう。そのお陰で私、心穏やかに過ごせているのよ。このままいけば、アレックス様を諦められる日もそう遠くないと思うわ」

 3人に改めてお礼を言った。本当に彼女たちには、感謝しているのだ。

「おば様ったら、黙っていてと伝えたのに。でも、ユーリが少し元気になってくれて、よかったわ」

「本当ね、このまま半期休みに突入すれば、気持ちも随分落ち着くかもしれないわね」

「私もそう出来る様に、領地では目いっぱい楽しもうと思って。さあ、せっかく来てくれたのですもの。お茶にしましょう。お菓子も沢山あるわよ」

 せっかく皆が来てくれたのだ。ゆっくりして行って欲しい。そんな思いで、沢山のお菓子を準備した。

「ありがとう、でも今日はもう帰るわ。ユーリの様子も見られたし。また今度、ゆっくりお茶をしましょう」

「あら、そうなのね。それは残念だわ。それなら、お菓子を持って帰って頂戴。すぐに包むわね」

「ありがとう、ユーリの家のお菓子、とても美味しいのよね。それじゃあ、また来るわね」

「ええ、今日はありがとう」

 3人を見送るため、門までやって来た。そして、皆の馬車が見えなくなるまで手を振った。

 その時だった。

 1台の馬車が、我が家に入って来たのだ。

 馬車が停まり、ゆっくり降りて来たのは…

「ユーリ、ちょうどよかった。今日ユーリが学院をお休みしたから、心配で様子を見に来たのだよ。昨日も途中で帰ってしまっただろう?一体どうしたのだい?体調でも悪いのかい?」

「アレックス様…どうしてこちらに?」

「ユーリが心配で、様子を見に来たのだよ。はい、お花。ユーリが好きそうなお花を、選んできたよ。随分と顔色もよさそうだね。よかったよ」

 どうしてアレックス様が?私の気持ちを知っていて、どうして私に優しくするの?お願い、もう私には関わらないで。

「アレックス様、どうかもう私には関わらないで下さい。私はあなた様を忘れ、前に進もうとしているのです。今はアレックス様のお顔を見るのも辛いのです。どうか、そっとしておいてもらえませんか?」

 アレックス様に向かって、頭を下げた。

「ユーリ、どうしてそんな寂しい事を言うのだい?僕たち、ずっと仲良くしてきたじゃないか。僕はこれからも、ユーリと仲良くしていきたいと思っているよ。そうだ、もうすぐ半期休みだね。去年と同じく、僕の家の領地に遊びに来るかい?ユーリは随分と、僕の家の領地が気に入っていたものね」

 そう言ってアレックス様が微笑んでいる。

「申し訳ございません。今年は我が家の領地に行く予定にしておりますので。それから、セレナ様とのご婚約が近々お決まりになるそうですね。いくらアレックス様が私の事を女として見ていなくても、セレナ様からしたら私と一緒に過ごしていては、面白くないでしょう。それでは失礼いたします」

 ペコリと頭を下げて、急いでその場を後にする。

「待って、ユーリ」


 後ろでアレックス様の声が聞こえるが、振り向く事なんてできない。

 どうしてあの人は、私の心をかき乱すのだろう。私がどんな思いで、アレックス様の事を諦めようとしているか…

 でも、アレックス様からしたら、今まで仲のよかった幼馴染が、急に距離を置いた事に対し、戸惑いを感じているのかもしれない。彼は私の事を、異性と認識していないのだから。きっと男友達と話す感覚なのだろう。

 申し訳ないが、とてもじゃないが今は、アレックス様の気持ちに応える事なんて出来ない。私はアレックス様の事を、異性として見ているのだから。

 もう私は、昔の様にアレックス様に接する事は出来ないのだ。アレックス様には申し訳ないが、彼とはしばらく距離を置こう。

 それにアレックス様には、最愛の人、セレナ様がいらっしゃるのだ。私なんかが居なくても、痛くもかゆくもないだろう。

 やっと少しだけ、心が落ち着いて来たのに…また振り出しに戻ってしまったわね。

 一刻も早く、領地に行きたい。領地に行って、気持ちを切り替えたい。

 半期休みまで、あと数日。もしまたアレックス様が訪ねていらしたら、その時は申し訳ないがお引き取り願おう。

 とてもじゃないが、今の私には彼に会えるほどまだ心が落ち着いていないのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~

小倉みち
恋愛
 元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。  激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。  貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。  しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。  ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。  ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。  ――そこで見たものは。  ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。 「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」 「ティアナに悪いから」 「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」  そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。  ショックだった。  ずっと信じてきた夫と親友の不貞。  しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。  私さえいなければ。  私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。  ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。  だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。

振られたあとに優しくされても困ります

菜花
恋愛
男爵令嬢ミリーは親の縁で公爵家のアルフォンスと婚約を結ぶ。一目惚れしたミリーは好かれようと猛アタックしたものの、彼の氷のような心は解けず半年で婚約解消となった。それから半年後、貴族の通う学園に入学したミリーを待っていたのはアルフォンスからの溺愛だった。ええとごめんなさい。普通に迷惑なんですけど……。カクヨムにも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

たとえこの想いが届かなくても

白雲八鈴
恋愛
 恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。  王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。 *いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。 *主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)

【本編完結】婚約を解消したいんじゃないの?!

as
恋愛
伯爵令嬢アーシアは公爵子息カルゼの婚約者。 しかし学園の食堂でカルゼが「アーシアのような性格悪い女とは結婚したくない。」と言っているのを聞き、その場に乗り込んで婚約を解消したつもりだったけどーーー

私は何も知らなかった

まるまる⭐️
恋愛
「ディアーナ、お前との婚約を解消する。恨むんならお前の存在を最後まで認めなかったお前の祖父シナールを恨むんだな」 母を失ったばかりの私は、突然王太子殿下から婚約の解消を告げられた。 失意の中屋敷に戻ると其処には、見知らぬ女性と父によく似た男の子…。「今日からお前の母親となるバーバラと弟のエクメットだ」父は女性の肩を抱きながら、嬉しそうに2人を紹介した。え?まだお母様が亡くなったばかりなのに?お父様とお母様は深く愛し合っていたんじゃ無かったの?だからこそお母様は家族も地位も全てを捨ててお父様と駆け落ちまでしたのに…。 弟の存在から、父が母の存命中から不貞を働いていたのは明らかだ。 生まれて初めて父に反抗し、屋敷を追い出された私は街を彷徨い、そこで見知らぬ男達に攫われる。部屋に閉じ込められ絶望した私の前に現れたのは、私に婚約解消を告げたはずの王太子殿下だった…。    

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

処理中です...