上 下
7 / 75

第7話:心の休息が必要な様です

しおりを挟む
「皆、ごめんね。私、アレックス様の事を諦めると決めたのに。それなのに、弱くて…」

「何を言っているの?ずっと好きだった相手ですもの。そんなに急に気持ちを切り替えられるような事ではないでしょう?私達こそ、ごめんなさい。もう少しユーリに配慮すべきだったわ」

「あなた達は悪くないわ。いずれ私の耳にも届く事ですもの。教えてくれてありがとう。ただ、まだ心が付いていかなくて…」

「そうよね。ユーリ、半期休みまでの間、学院をお休みしたら?学院に来ても、ユーリが苦しいだけでしょう?無理に苦しい思いをする必要はないと思うの。あなたの心は今、辛い現実から一旦離れ、休むことが大切だと思うの」

「そうよ、一旦アレックス様から、離れるべきだわ。これ以上学院に無理して通ったら、あなたの心が壊れてしまう。それにアレックス様を見ること自体、辛いのでしょう?ユーリ、お願い、自分を大切にして」

「皆…」

 確かに今の私にとって、アレックス様の姿を見る事も辛い。ましてや、セレナ様と仲睦まじく過ごしている姿を見せられたら…

「分かったわ、皆、ありがとう。半期休みまでの間、学院をお休みするわ。両親にもそう伝える事にする」

「それがいいわ、先生には私たちから伝えておくから、あなたはもう、屋敷に戻って」

「ありがとう、それじゃあ、今日は帰るわね」

 友人たちに見送られ、馬車に乗り込んだ。ただ…

 お父様とお母様には、どう説明しようか?アレックス様に会いたくないから、貴族学院をお休みしたいだなんて、そんな事を言ったら怒られそうな気がする。

 でも、友人たちの気持ちを無にしたくないし、何より私が今、アレックス様に会うのが無理なのだ。こうなったら、体調が悪いですアピールをするしかないわね。

 屋敷に着くと、早速お母様がやって来た。

「ユーリ、どうしたの?こんな時間に帰って来て。体調でも悪いの?」

「ええ、ちょっと具合が悪くなってしまって…」

「そうだったの。すぐに医者を手配するわ。ゆっくり休みなさい」

「お母様、お医者様は…」

 そう言いかけたのだが、さっさと行ってしまったお母様。自室に戻り、仕方なく医者の診察を受けた。もちろん、どこも異常なしだ。とにかく今日は、ベッドで大人しくしていよう。

 ただ、明日からはどうしようかしら?ずっとベッドに入っている訳にもいかないし。

 でも、学院には行きたくない。あそこには、アレックス様とセレナ様がいるのだ。2人の仲睦まじい姿を見られるほど、まだ私の心は落ち着いていないのだ。

 2人の姿を思い出したら、また涙が込みあげてきた。やっぱりまだ無理だ。

 たとえお母様に怒られても、半期休みが始まるまでは屋敷にいよう。とにかく今日は、部屋から出ない様にしないと!

 そう思い、その日はほとんどベッドの中で過ごした。昼食もメイドたちが運んできてくれた。なんだか本当に病気になったみたいね…

 そんな風に過ごしているうちに、いつの間にか夜になっていた。夕食も部屋で済ませようと思っていたのだが、なぜかお母様が部屋にやって来たのだ。

「ユーリ、ちょっといいかしら?」

「ええ…構いませんが…」

 もしかして、仮病がバレたのかしら?そう思ったのだが…

「さっき、レーナ嬢・カリン嬢・マリアン嬢が家にいらしたわ。彼女たち、我が家に来るなり”どうか半期休みが始まるまでの間、ユーリに貴族学院をお休みさせてあげてください!“そう言って何度も何度も頭を下げて来たの。理由を聞いても”それは言えません。ただ、ユーリは今とても傷ついています。ユーリには心の休息が必要です”そう言って頭を下げるばかりで…」

「レーナたちが、わざわざ来てくれたの?どうしてすぐに教えて下さらなかったのですか?」

「彼女たちから、“自分たちが来た事は、ユーリに内緒にして欲しい”と強く言われて。ユーリ、いい友達を持ったわね。あの子たちの気持ちを汲んで、私は何も聞かないわ。ただ、貴族学院を休んでいる間、遊んでばかりいてはいけないわよ。しっかり勉強もしなさい。分かったわね」

「分かりましたわ、お母様、ありがとうございます」

「お礼なら、あの子たちに言いなさい。本当にユーリは、素敵なお友達に恵まれたわね」

 お母様の言う通りだ。わざわざ私の為に、お母様を説得してくれるだなんて。彼女たちの優しさが嬉しくてたまらない。

 もし彼女たちに何かあったら、真っ先に私が手を差し伸べよう。そう心に誓った。

 翌日、午前中は家庭教師と一緒にお勉強をし、午後はのんびり過ごす。貴族学院がある日に、こんな風にのんびりと過ごしているだなんて、なんだか贅沢ね。

 アレックス様に会わないお陰か、私の心も随分穏やかだ。このままアレックス様の事を、少しずつ忘れられたらいいな…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~

小倉みち
恋愛
 元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。  激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。  貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。  しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。  ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。  ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。  ――そこで見たものは。  ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。 「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」 「ティアナに悪いから」 「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」  そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。  ショックだった。  ずっと信じてきた夫と親友の不貞。  しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。  私さえいなければ。  私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。  ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。  だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。

振られたあとに優しくされても困ります

菜花
恋愛
男爵令嬢ミリーは親の縁で公爵家のアルフォンスと婚約を結ぶ。一目惚れしたミリーは好かれようと猛アタックしたものの、彼の氷のような心は解けず半年で婚約解消となった。それから半年後、貴族の通う学園に入学したミリーを待っていたのはアルフォンスからの溺愛だった。ええとごめんなさい。普通に迷惑なんですけど……。カクヨムにも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

たとえこの想いが届かなくても

白雲八鈴
恋愛
 恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。  王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。 *いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。 *主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

【本編完結】婚約を解消したいんじゃないの?!

as
恋愛
伯爵令嬢アーシアは公爵子息カルゼの婚約者。 しかし学園の食堂でカルゼが「アーシアのような性格悪い女とは結婚したくない。」と言っているのを聞き、その場に乗り込んで婚約を解消したつもりだったけどーーー

私は何も知らなかった

まるまる⭐️
恋愛
「ディアーナ、お前との婚約を解消する。恨むんならお前の存在を最後まで認めなかったお前の祖父シナールを恨むんだな」 母を失ったばかりの私は、突然王太子殿下から婚約の解消を告げられた。 失意の中屋敷に戻ると其処には、見知らぬ女性と父によく似た男の子…。「今日からお前の母親となるバーバラと弟のエクメットだ」父は女性の肩を抱きながら、嬉しそうに2人を紹介した。え?まだお母様が亡くなったばかりなのに?お父様とお母様は深く愛し合っていたんじゃ無かったの?だからこそお母様は家族も地位も全てを捨ててお父様と駆け落ちまでしたのに…。 弟の存在から、父が母の存命中から不貞を働いていたのは明らかだ。 生まれて初めて父に反抗し、屋敷を追い出された私は街を彷徨い、そこで見知らぬ男達に攫われる。部屋に閉じ込められ絶望した私の前に現れたのは、私に婚約解消を告げたはずの王太子殿下だった…。    

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

処理中です...