王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号

文字の大きさ
43 / 47

第四十二話「イレギュラー」

しおりを挟む


「ここが、目的の場所か?」


 マルティナから受けた指名依頼を達成すべく、サダウィンたちは翌日ロギストボーデンを出立した。できれば依頼を受けたその日に洞窟に向かいたかった彼だったが、彼もゴリス達も遠出をするための準備をしていなかったため、出発は翌日に延期されたのだ。


 洞窟までの道中は、低級モンスターとたまに出くわすものの、実に順調そのもので、特に問題は発生しなかった。特にサダウィンに鍛えられたゴリス達の活躍もあって、彼がモンスターたちと戦うことはほとんどなかったのである。


 そんなこんなで、目的地にまっすぐ進むこと二日でゴブリンの巣があるという洞窟に到着したのであった。


「そうです。どうしますか? このまま一気に殲滅します?」

「慌てるな。マルティナの話では、上位種が数匹とそれに付随するゴブリンが三十ほどいるということだっただろう? しかも、その情報は一週間ほど前のものだ」

「群れの規模が大きくなっているってことですか?」

「その確率の方が高いだろうだ。よく言うだろ? “ゴブリンを一匹見たら、三十匹はいると思え”って」


 ゴリス達がサダウィンに指示を仰ぎ、今後の行動をどうするかを聞いてくる。サダウィンは、マルティナからさらに依頼の詳しい情報を聞いており、特に重要な情報としてゴブリンの総数は余念なく聞いている。


 彼女の話では、冒険者ギルドが入手した情報によると、ゴブリンの上位種のゴブリンリーダー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンファイターを筆頭に、その下に通常のゴブリンがいるということだ。


 しかし、ゴブリンといえば、地球で言うところの薄い黒光りした高速で動く虫と同程度の生命力と繁殖力を秘めているモンスターで、この世界でも“一匹いたら三十匹いると思え”というような似たような格言が存在するほどだ。


 そして、その繁殖力の高いゴブリンが一週間何もしないでいるわけもなく、当然一週間前に入手したギルドの情報よりもその総数は増えている可能性が高いのだ。


 ゴブリンの繁殖は、他種族の雌を誘拐してその雌に子供を産ませる方法が主流で、この種族には人間も含まれており、毎年少なくない女性が犠牲となっている。


 だからこそ、聞いていたゴブリンの数よりも多いと考えるのは当然であり、その分慎重な調査をする必要がある。そのため、サダウィンは彼らの提案に待ったをかけたのだ。


「とりあえず、当初の依頼通り中にいるゴブリンの数を調査する」

「わかりました」


 慎重に洞窟に近づき、草陰から入り口の様子を窺っていると、数匹のゴブリンが見張りとして監視している様子が目に映った。


 低級モンスターであるゴブリンは、外敵から身を護るために拠点にしている入り口に見張りを置いておく習性があり、一説には上位種の指示によってそういった行動を取っているという。


 そのため見張りの規模を見れば、そのゴブリンの巣がどの程度の規模の巣なのかというのが大体把握でき、これは冒険者の間でも一つの常識として広く知られていた。


「見張り数多くないか?」

「そうね。十匹はいるわ」

「となると、少なくとも五十匹以上、上位種もゴブリンナイトクラスがいるかもしれないわね」

「そ、それってヤバくないか?」


 見張りの数を見てゴリス、ミネルバ、サリィ、ヴァンの順に口を開く、サダウィンも一応魔法を使って洞窟内の様子を確認してみたのだが、やはりというべきか、イレギュラーが発生していた。


「ゴブリンジェネラルが一、ゴブリンナイトが二、ゴブリンリーダー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンファイターが各五、そして通常のゴブリンが百以上ってところか……」

「「「「え?」」」」


 サダウィンの呟きに、ゴリス達が言葉を失う。彼が言った規模は、彼ら五人でどうにかできるものではなく、それこそCランク以上の冒険者パーティーが三つ以上で事に当たるレベルの難易度だ。


 だが、冒険者になってまだそれほど時間が経過していないサダウィンにとって、ゴブリン自体の強さはわかるが、どの程度の人材と規模で依頼を遂行すべきに関してはわからないため、彼はこの依頼を続行する体で話を進めた。


「幸い、洞窟内に人気はない。ゴブリンたちに襲われている人間はいなさそうだ」

「あ、あの先生?」

「となってくると、このまま殲滅のために動くわけだが……。さて、どうしたものか」

「せ、先生。ここは撤退するべきでは?」

「うん? なんでだ?」

「だって、ゴブリンロードがいるんですよね?」


 ゴリス達が狼狽えるのも当然なのだが、サダウィンは今一つ状況を把握できていない。彼が冒険者としてまだ駆け出しだということがここに来て響いていた。


 そもそも、ゴブリンはその数が増えれば増えるほど上位種が発生する確率が高く、その脅威度も跳ね上がっていく。


 ランクが低い順に挙げれば、Iランクの通常ゴブリン、Gランクのゴブリンリーダー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンファイター、Eランクのゴブリンナイト、Cランクのゴブリンジェネラル、Bランクのゴブリンロード、Aランクのゴブリンキング、そしてSランクのゴブリンエンペラーとなっている。


 サダウィンたちのランクで言うのなら、ぎりぎりゴブリンナイトの相手が可能といったレベルの戦力しかなく、ゴブリンジェネラルやゴブリンロードの相手などとてもできないというのが一般的な常識だ。


 だが、サダウィンをその常識の範囲内に入れるというのは酷であり、またいくら高ランクのモンスターであろうとも戦い方ひとつで殲滅は可能だと考えている彼が、今の状況で撤退するという選択肢すら浮かばないことは、無理もないことであった。


「なに、今回は袋小路の洞窟であるということと、一番強い個体のゴブリンジェネラルが一匹しかいない点を見れば、俺たちだけでも十分に対処は可能だと思ったんだが」

「だって、Cランクですよ!? Fランクのあたしたちじゃ、どうにもならないじゃないですかっ!」

「それは、真正面からぶつかった時という注釈がつく話だ。今回は殲滅というよりも駆除に近い作業になってしまうからな。あまり楽しくない作業だが」

「駆除って……」


 サダウィンのゴブリンジェネラルを駆除の対象として扱うあまりにもあまりな言葉に、ゴリス達は呆然と彼を見つめていた。そんな彼らの思いとは裏腹に、サダウィンは彼らに指示を飛ばす。


「とにかく、まずはあの見張りをどうにかしないといけないから、洞窟の奥にいる奴らに気付かれないように排除する。では、行こうか」

「え、ちょっと。もうですか!?」

「まだ来たばかりなのに」

「でも、あの見張りくらいならなんとかなるかも」

「仕方ないわね。行きましょ」


 サダウィンの指示に戸惑う彼らだったが、どのみち殲滅すると決めたからには、覚悟を決めなければならない。そう結論付けたゴリス達は、サダウィンに追従するように彼のあとをついていく。


「ふっ」

「ギィ」

「ていっ」

「グガッ」

「はっ」

「ギギィ」


 見張りのゴブリンたちに気付かれないように、大きな声を出されないよう瞬殺して回る。その手際は、かつての彼らとは比べ物にならないほど良くなっており、本来の実力が活かされていた。


 そんなゴリス達を横目で見ながらも、サダウィンもゴブリンの首をまとめて三匹刈り取り、すぐに見張りを始末することができた。


「で、先生。次はどうするんです?」

「この洞窟の入り口を土属性の魔法【アースウォール】を使って塞ぎ、その洞窟内に水属性の【ダイタルウェーブ】をぶち込む。それで終わりだ」

「「「「はぁ?」」」」


 サダウィンのあまりに大雑把な作戦に、ゴリス達は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。いろいろとツッコミどころの多い作戦だが、本当に彼が言った作戦が可能なのであれば、これ以上の作戦はない。


 洞窟の穴を塞ぎ水攻めにすることによって、ゴブリンと直接対決することはないため、例え格上の相手でも倒せてしまうという寸法だ。


 ただ、使用する魔法は中級魔法の中でも上位のストーンウォールと、水属性の上級魔法のダイタルウェーブという強力な魔法であるため、真似できる冒険者は少ないというのが欠点だろうか。


「ホントにそんなことできるんですか?」

「できたらすごいですけど」

「というよりも……」

「先生、上級魔法使えたんですか!? 先生剣士ですよね?」


 ゴリス、ヴァン、ミネルバ、サリィの順にそれぞれが口々に感想を述べる中、それをすべて黙殺するかのようにサダウィンが言い放つ。


「とりあえず、やってみせてみよう」


 百聞は一見に如かずとばかりに、実際に実践してみせようとするサダウィン。そんな彼に半信半疑ながらも、ゴリス達は成り行きを見守ることにする。


 まずは、土属性の魔法ストーンウォールで洞窟の入り口を地面から八割ほど塞ぎ、残った二割の隙間からダイタルウェーブを打ち込むように調節する。続いて、空いている隙間にダイタルウェーブを流し込み、しばらく様子を見守る。


 突如として、洞窟内に流れ込んでくる大量の水に慌てふためくゴブリンたちの声が漏れ聞こえてくるが、しばらく経つとその声も断端と鳴りを潜める。


 地上で活動するゴブリンは、その必要性がないため泳ぎができる個体は存在しない。AランクやSランクのゴブリンキングやゴブリンエンペラーはともかくとして、それ以下のゴブリン種が洞窟内に侵入する大量の水に対処できる可能性はゼロに等しい。


「ほ、本当にさっきの作戦をやってしまうなんて……」

「理不尽過ぎる」

「こんなこと先生にしかできませんよ」

「まさか、剣士の先生が魔法も凄腕だったなんて!」


 こうして、イレギュラーとして発生したゴブリンの群れだったが、そのイレギュラーはもう一つのイレギュラーな存在であるサダウィンの手によって解決したのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...