王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号

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第四十一話「指名依頼再び」

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「指名依頼だと?」

「はい」


 ロギストボーデンに到着し、初日に襲われそうになっていた女を助けてから二日が経過した。マルティナに宣言した通り、翌日は街を散策するために丸一日を費やし、大体の地形を把握することに努めた。


 この都市の外形は、王都と同じく円形をしており、各地から送られてくる物資に迅速に対応するためなのか、東西南北の四つの門とは別に北東、南東、南西、北西のちょうど方角と方角の間に荷物を都市に入れるための搬入門が存在する。


 これにより、街に入るための人間を四つの門で対応し、荷物を運んできた行商人とを分けることができ、それだけ街に入る手続きがスムーズになっている。


 街は主に四つの区画に分類され、それぞれ住居区、商業区、職人区、公共区と呼ばれている。住居区は文字通り街の人々が生活するための住居が建ち並び、商業区は職人区で作られた品や外から入ってきた品を売り捌く商人がひしめく商会が多く点在する。


 職人区は職人が生産活動に勤しむための工房が多く、残った公共区は冒険者ギルドなどの公共の機関やこの街の人間でない観光客や冒険者のための宿が主に設営されている。


 昨日のうちにすべての場所を回り切れなかったサダウィンだったが、街の住人に詳しく聞いてとりあえず必要最低限のロギストボーデンの概要は手に入れていた。


 そして、その翌日に冒険者ギルドへと顔を出した彼は、マルティナに指名依頼の打診を受けていた。依頼の内容は、片道二日ほどの距離にある洞窟にゴブリンが巣を作ったらしく、そのゴブリンの巣の規模を調査してくるというものだ。


「ただ見てくるだけでいいのか?」

「ゴブリンの数を見ていただいて、大した数がいなければそのまま殲滅していただいても問題ありません。サダウィンさん一人で対処できないと判断した場合は撤退を優先し、その後冒険者ギルドに詳細を報告してください」

「なるほど。依頼の概要は理解した。で、なんでその依頼を俺に持ってきたんだ?」

「……と言いますと?」


 サダウィンはあの後街の散策中にマルティナの違和感に気付いていた。なぜ、ギルドマスターであるゴードンの推薦状を、一般職員の彼女が誰の許可もなしに閲覧することができたのか。そして、その内容に従い、彼女の独断でサダウィンをFランクに昇級できたのかということに。


「調査だけなら他の冒険者でもいいはずだ。なのにこの街に来てまだ日が浅い俺をマルティナは指名した。ここから導き出される可能性は二つ」

「……」


 その可能性とは、彼女マルティナがこの冒険者ギルドにおいてある程度の権限を持つ人間で、ギルドマスターまたはサブギルドマスターの地位を持っている可能性だ。


 纏っている雰囲気から戦闘に秀でていないところを鑑みて、サダウィンはマルティナがサブギルドマスターではないかと当たりを付けていた。


 そして、もう一つの可能性がゴードンの推薦状からサダウィンがある程度の実力が示唆される様な内容が記載されており、半信半疑ながらもその実力を確かめるために手ごろな依頼で彼を試そうとしている可能性だ。


「これらの点から、マルティナはこのギルドである程度の地位を持っており、それこそ他の冒険者ギルドのギルドマスターの推薦状を誰の許可もなく勝手に閲覧できるくらいの地位……サブギルドマスター辺りが妥当と言える。それに加えて、これは推測の域を出ていないが、推薦状に俺の実力などを含めた情報が記載されており、その内容の真偽を確かめるべく今回の指名依頼を出してきた。……違うか?」

(なんなのこの子、たったそれだけのことで私がサブギルドマスターだって気付いたの? ゴードンの手紙の内容もあながち嘘じゃなかったってことね)


 彼の的を射た言葉に、思わず眉を潜め胡乱気な表情を浮かべてしまう。だが、彼女が気付いた時にはもうすでに遅かった。


「顔に出てしまったな。どうやら俺の推測は当たっていたようだ」

「参ったわ、私の負け。あなたの言う通り、私はここのナンバー2.サブギルドマスターをやっているわ」

「それで、推薦状に書かれていた内容はどうだったんだ?」

「それも正解よ。“Aランクの才能を秘めている原石”だと手放しで褒めていたわ」

「ふっ、誇張が過ぎるな。Fランク冒険者に言う台詞じゃない」

「……」


 ゴードンの推薦状の内容を聞いたサダウィンが、その評価を鼻で笑う。マルティナも同意見だったが、彼の優れた洞察力と強者特有の雰囲気を纏っている姿を見た今では、それを完全に否定する術を持たない。“彼ならば”という思いにさせる何か形容しがたい期待感がそうさせるのだが、具体的にそれが一体何なのかはマルティナも皆目見当がつかなかった。


「とにかくよ。指名依頼の意図がどうであれ、ゴブリンの規模を調査する必要があることには変わりないわ。できれば、受けて欲しいのだけれど?」

「本当にこの依頼がゴブリンの調査を目的としているのならば考えなくもないが、実際は違うんじゃないのか?」

「……どういう意味かしら?」


 もしこの依頼が、サダウィン自身の実力を測るための試験的な意味合いを含んでいるものであれば、ゴブリンがどの程度いるのか把握しておく必要がある。でなければ、彼の実力を測ることはできないからだ。


 ゴブリンの数を調査して、仮にゴブリンが三匹やそこらしかいなかったら、彼の実力を測るための戦力にすらならないからである。だからこそ、相手の実力を測る場合、ある程度の戦力が存在していると事前に知っておく必要があるのだ。


「以上の理由から、冒険者ギルドはこの洞窟にいるゴブリンの数を把握しており、ある程度の戦力があるということを知っている。その上で現状の戦力を調査するために冒険者を派遣するという形式を取り、俺の実力を測る相手として選んだのでは? というのが、俺の推測だ」

「まったく、君の推測には脱帽だわ。そこまでの考えに至るなんて」


 すべてを見透かされたマルティナは、両手を挙げて降参のポーズを取った。だが、実際の依頼と異なるものを紹介され、自分を試すような真似をされては、当事者としてはあまり気持ちがいいとは言えない。


「この依頼にそういった意図がある以上、その内容で指名依頼を受けるつもりはない」

「わかったわ。じゃあ依頼の内容を変更します」

「ほう」


 サダウィンが不確定な内容の依頼は受けないときっぱり断ると、それならばと急遽依頼内容を変更して打診してきた。彼としては、嘘の依頼を出されたことでギルドとしての信頼がお落ちたことに問題があるのだが、その信頼を取り戻すためには嘘を吐かず真摯に対応するのも重要なことだと理解している。


「依頼内容はゴブリンの殲滅に変更。洞窟にいるゴブリンの群れを殲滅してください!」

「そうだな。依頼の内容を正直に変えたのはよかった。だが、Fランク冒険者一人で対処できる規模の群れなのか?」

「うっ」

「いくらゴブリンとはいえ、そこに上位種が混ざっていたら苦戦するだろうし、何よりモンスターの群れを殲滅すること自体が一人では荷が重い仕事だと思うが?」

「うぅ……」


 完全に正論である。ギルドの規定にも一人では達成が困難な依頼である場合、複数の冒険者または一組のパーティー単位での依頼の受注を推奨している。


 そして、今回のゴブリン殲滅の依頼は複数人での受注が推奨されている依頼に分類されるため、マルティナがサダウィン一人に指名依頼を出すのはギルドとしては規定に違反する行為なのだ。


「俺以外にもこの依頼を受ける冒険者がいれば話は変わってくるが、そんな冒険者が果たしているかどうか――」

「あれ? 先生じゃないですかっ」

「……」


 どうやらマルティナの願いが通じたのか、はたまたサダウィンの星の巡り会わせなのかはわからないが、ちょうどいいタイミングでゴリス達が現れたようだ。目聡く彼を見つけたのは、やはりというべきかサリィで、彼女の言葉で他の三人が彼にに気付きぞろぞろと集まってきてしまったようだ。


「お前たちも依頼を受けに来たのか?」

「はいっ! 先生に鍛えてもらったお陰で強くなりましたし、ここは全員で話し合って少し骨のある依頼を受けようということになりまして」

「サダウィンさん、この人たちは?」

「覚えてないか? 前受けていた依頼で一緒だった冒険者だ。俺と一緒に依頼の報告をしたと思うが?」

「……ああ、はいはいそうでしたそうでした」

「……」


 ゴリス達と話していると、マルティナが誰だと問い掛けてきたので、彼らのことを説明してやると、どうやら本当に忘れていたようで、誤魔化す様に取り繕っている。サダウィンの呆れるような視線を無視しようと、あさっての方向を向いていた顔が、突如何かいいことを思いついたような顔に変化し、ゴリス達にある提案をしてきた。


「皆さんも、依頼を探しているということでしたら。こちらのゴブリン殲滅の依頼などいかがでしょう?」

「ゴブリン殲滅?」

「ゴブリンかぁ」

「ゴブリンねぇ」

「ゴブリンだしねぇ」

「ちなみに、この依頼はここにいるサダウィンさんも受ける予定で――」

「「「「受けます!!」」」」

「おい」


 マルティナがゴリス達にゴブリン殲滅の依頼を勧めたが、全員が乗り気そうではなかった。ところが、その依頼をサダウィンが受けると知った途端、手のひらを返すようにしかも全員同時に依頼を受けることを即決した。


 そのあまりのあからさまな態度に、思わず突っ込まずにいられなかったサダウィンだったが、この時マルティナに視線を向けると、これ以上ないほどの得意気なドヤ顔を彼に向けていた。


「ふっふーん、サダウィンさんどうかしら? これでサダウィンさんの言っていた“一人じゃ荷が重い状態”じゃなくなったわよ」

「……」


 確かに彼女の言う通り、ゴリス達がこの依頼に加わればサダウィン一人で依頼を遂行するリスクが無くなり、一見すると丸く収まっているように見える。だからこそ、マルティナも勝ち誇った表情を浮かべているのだが、彼女は一つ致命的なことを忘れていた。


「マルティナ」

「なに?」

「お前は一つ大事なことを見落としている」

「なにかしら」

「それはなマルティナ。いくら冒険者の懸念材料が解消されたからといって、最終的にその依頼を受けるかどうかを決める選択権は、他でもない冒険者側にある」

「え?」


 そう、依頼を受けるかどうかはあくまでも冒険者が決めることであって、それを強制する術を冒険者ギルドは持たないのである。そして、マルティナはそれを忘れていた。


「そ、そんな……」

「残念だったな」


 マルティナが自分の失態に気付き、そのまま受付カウンターに突っ伏してしまった。だが、ここまで頑張った人間を無慈悲に見捨てるほどサダウィンも鬼ではない。


「おい、顔を上げろマルティナ」

「むー」

「何て顔をしてるんだ。まあ、今回はこいつらと会ったのも何かの巡り会わせだ。特別にその依頼受けてやる」

「ほ、本当!?」

「ただし、受けなくていい依頼を受けさせるんだ。報酬金は弾めよ」

「も、もちろん! 私の権限を全力で活用して報酬金に色を付けさせてもらうわ」

「こっちから振っておいてなんだが、それ職権乱用って言わないか?」


 こうして、いろいろとあったが結局サダウィンが折れる形で、冒険者になって二度目の指名依頼を受けることになったのであった。
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