王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号

文字の大きさ
44 / 47

第四十三話「旅立ちは突然に」

しおりを挟む


「という感じだ」

「何が、という感じなのかしらねぇ! そんなことがあったのに淡々と報告しないでちょうだい!!」


 あれからゴブリンの殲滅が完了したサダウィンたちは、洞窟内に散乱していたゴブリンの死骸から必要な素材を剥ぎ取り、生き残ったゴブリンがいないことを確認してロギストボーデンへと帰還した。


 さすがにゴブリンジェネラルは、ギルドの解体職員に任せた方がいいというゴリス達のアドバイスに従い、アイテムリングで持ち帰ってきた。


 依頼の報告を聞いたマルティナは、最初サダウィンが何を言っているのか理解できなかったが、ゴリス達の反応からそれが本当のことであると悟った瞬間、思わず叫び声を上げてしまったという寸法だ。


 指名依頼で小規模ゴブリンの群れの殲滅を頼んだら、その群れがゴブリンジェネラルがいる規模にまで拡大していたばかりか、それをとんでもない力技で倒してきましたなどと報告されては、聞く側としては堪ったものではない。


 しかも、それをあくまで起こった事実として淡々とした口調で聞かされたとあっては、尚のこと突っ込まずにはいられないだろう。


「はあ、とりあえず状況は大体わかったわ。ひとまず、持って帰ってきたゴブリンジェネラルを見せてちょうだい。解体場へ行きましょう」

「わかった」


 ころころと表情を変えるマルティナに対し、忙しい女性だなという感想を胸の内に抱くサダウィンだったが、それを直接彼女に言うほど空気が読めない男ではないため、肩を竦めてゴリス達と共に解体場へと向かった。


 ぞろぞろと雁首を揃えてやってきたサダウィン達に、解体職員が何事かと色めき立つが、事情をマルティナが説明すると、職員たちが驚きの声を上げる。


 彼らのほとんどが、プチラビットやファングボアといった駆け出し冒険者でも討伐が容易なモンスターばかりを解体している者たちなのだ。それが、いきなりCランクのゴブリンジェネラルを持ってこられたら、驚かない方がおかしいのだ。


「じゃあ、ここに出してくれ」

「ああ」


 解体職員の指示した場所に、アイテムリングからゴブリンジェネラルを取り出す。もちろんだが、魔法鞄に偽造して取り出すことを忘れない。


 半信半疑だった職員たちも、実際にゴブリンジェネラルを目の当たりにして、ようやく本当にゴブリンジェネラルを倒したことを理解する。


 だが、そこはプロの解体屋だけあって、驚いていたのは最初のうちで、すぐに真剣な表情で解体作業を開始する。


「まさか本当にゴブリンジェネラルを倒してくるなんて」

「倒してない。あれはあくまでも駆除しただけだ」

「どう違うのよ?」

「実際に直接戦って倒すのが殲滅。直接的に戦わずに搦め手を使うのが駆除だ」

「どっちにしても、ゴブリンジェネラルの死骸がここにあることに変わりないわ」


 サダウィンにとっては、殲滅と駆除は違うニュアンスであるらしく、マルティナの問いに律儀に答えたのだが、彼女からしたらゴブリンジェネラルの死骸があるということだけが重要であるため、彼の価値観は理解できなかったようである。


 その後、ゴブリンジェネラルの解体を職員に任せ、受付カウンターへと戻ってきたマルティナは、今回の報酬についての話をすることにした。


 だが、実際のところマルティナは困っていた。事前に確認していた依頼の内容と、実際に起こっていた事態があまりにもかけ離れ過ぎていたため、報酬についての正当な金額が算出できないでいた。


「あなたたちの報酬についてなんだけど、正直どう計算したらいいかわからないわ」

「だが、かといって事前に受けた依頼の報酬金では、割に合わないと思うが?」

「だから、ここはギルドマスターの判断を仰ごうと思うのだけれど、ちょっとついてきてくれるかしら?」

「わかった」


 できればギルドの上層部とはお近づきになることを避けたいサダウィンとしては、ギルドマスターに会うのはあまり良くないことであったが、状況が状況だけに仕方なくマルティナの提案を受けギルドマスターの元へと向かった。


「ここよ」


 マルティナはそう言ってドアをノックし、ギルドマスターの自室らしき部屋に入ると、そこには一人の男が椅子に座って頬杖をついていた。


 男は、三十代半ばの身長百七十センチ前半の細身の体格をしており、ぼさぼさの髪に無精髭を生やし、やる気のない虚ろな目をしている。


 そんな男の怠惰極まりない行為を見たマルティナは、明らかに呆れたようなため息を吐きながら、まるでゴミを見るような蔑んだ目で男を見ながら言い放った。


「またサボりですか? この穀潰し」

「相変わらずマルティナは手厳しいな」

「あなたがちゃんとギルドマスターとしての仕事をこなしていれば、私がサブギルドマスターになることもなかったでしょうからね」

「なに? まだそのこと根に持ってるの? それは何度も謝ってるじゃないか」

「世の中には、謝っても許されないことの一つや八つくらいあるものです」

「……なんか、数が具体的なのは俺の気のせいじゃないよね?」


 いきなり、そのようなやり取りを始めてしまったマルティナたちに戸惑いながらも、ようやく二人がサダウィン達の存在を思い出し、本題に入る。


 マルティナは、サダウィンが彼女に説明した内容をかなり大げさに話し、その内容に男が目を見開いて驚いている。


 そして、一通りの説明が終わったところで、本題のサダウィンたちの報酬についての判断を男に委ねたのだが、彼はあっさりとこう答えた。


「今回の依頼をCランクの依頼に格上げして、Cランクの報酬金に少し色を付けた金額を支払えばいい。もちろん、彼らが持ち帰ったモンスターの素材も別で買い取らせてもらおう」

「わかりました。それで手配いします」

「うん。ああ、そうだった。自己紹介がまだだったけど、ここでしがないギルドマスターをやっているマルコフっていうちんけな男だ。まあ、よろしく」

「こう見えても、彼は元Aランク冒険者で、強力な風属性魔法を操る魔法使いなのよね。普段は糞の役にも立たない穀潰しだけどね」


 マルコフの自己紹介を補足する形でサダウィンたちに説明するが、最後に暴言を吐くことを忘れていないのが、マルティナの彼に対する辛辣な態度が滲み出ている。


 あまりにも彼女の言葉が突き刺さったのか、マルコフが抗議するように彼女に反論する。


「それは酷いなマルティナ。俺だってギルドマスターとして役に――」

「提出された書類は誤字脱字だらけ、期限のある仕事は忘れてしまってできていない、工房に発注した冒険者関連の道具の数を間違える。まだありますけど、聞きたいですか?」

「ごめんなさい」


 そこからマルティナのマルコフの尻拭いをさせられた怨嗟の声が彼に襲い掛かり、さらに畳みかけられるかというところで、サダウィンが割って入った。


「ところで、今回の依頼で昇級とかはないのか?」

「そんなんだから、私があなたの尻拭いをする羽目に……え? あ、ああそうね。確かに、ゴブリンジェネラルを倒したとなれば昇級してもおかしくないわね」

「待ってくれ。その昇級俺たちは辞退させてもらう」


 サダウィンが気になったのは、今回の依頼で昇級することだ。別に催促したわけではないのだが、現在Fランクの彼がCランクのゴブリンジェネラルを討伐したというのは事実であり、それに対して昇級してもおかしくない。そう思ったから聞いてみたのだが、意外な人物から昇級の辞退の声が上がった。


「どうして? あなたたちも一緒に依頼に参加したんでしょ?」

「実際にゴブリンを殲滅したのは、他でもない先生だからだ」

「先生?」

「彼らもいろいろあるんですよ。あなたは黙っててください」

「俺一応君の上司なんだけど?」

「何か?」

「なんでもないです。続きをどうぞ」


 それから、ゴリス達は頑なに昇級の話を断っていたが、実際のところ彼らの言う通り、この依頼でゴブリンを殲滅したのはサダウィンであるということもまた事実であるため、昇級するための評価点をもらうだけということになった。


「だが、お前たちに言っておくが、今のお前らならEランクでも問題なくやっていけることだけは俺が保証しよう」

「本当ですか!?」

「ああ、お前ら一人一人に元々それくらいの力があった。俺はそのきっかけを与えてやっただけだからな」

「「「「……」」」」


 サダウィンの言葉に、ゴリス達四人が感動のあまり言葉を失っている。そんな様子を見ていたマルコフがぽつりと呟いた。


「そういえば、ゴードンの推薦状に書いてあった駆け出し冒険者って、この少年だったんだな。あいつめ、大げさにも王都のギルドマスターに話を持っていったと手紙にあったが、どうやら大げさじゃなかったってところか」

(な、なんだって!? ゴードンが王都のギルドマスターに話を……。まさか)


 その呟きは、サダウィンの耳にしっかりと届いており、そこから彼は今自分が置かれている状況に気付いた。


 ゴードンは、サダウィンが王家に連なる人間ではないかという疑いを持っていたことを彼自身は知っており、そんな人間が王家と関りのある王都のギルドマスターに話を持っていけば、当然それは彼の両親である国王と王妃にも伝わる。


 その情報を得た二人がこのまま黙っている訳もなく、当然サダウィンを連れ戻そうと動くのは必定なのだ。


(つまりは、もうすでに俺を連れ戻そうとしている追っ手が、このロギストボーデンに間違いなく向かっている……ということだな)


 この瞬間、サダウィンがロギストボーデンを旅立つことが決定したのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...