王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号

文字の大きさ
22 / 47

第二十一話「説得と出撃」

しおりを挟む


「ダメよ! ダメダメ、絶対にダメ!!」


 会議室に悲鳴にも似た女性の声が響き渡る。その声の主は、言わずもがなサンドラである。物凄い剣幕で彼女が何を否定し続けているのかといえば、息子であるレイオールの初陣についてだ。


 モンスターの群れが襲来する情報がもたらされたのは先刻のことであるが、実際にモンスターが王都に接近するのには今しばしの時が掛かる。


 先行して偵察に出ていた斥候が持ち帰った情報によれば、現在モンスターは王都から一日ほど離れた距離をこちらに向かってきており、まだ少しばかり余裕がある。


 だが、一日といっても万単位のモンスターの群れを迎え撃つ準備をするのには時間が足らず、現場の兵士たちやそれを指揮する上層部の貴族たちは準備に追われているのが現状だ。


 そんな中、本来安全な場所に避難するべきはずのレイオールが、最前線である正門に向かい兵士たちの指揮を執るという話を聞かされたサンドラは、その内容を理解するや否や、それを止めようとわめき出したのである。


「レイオールちゃんが、危険なことをする必要がどこにあるというのよ!? そんなこと私が許しません!!」

「母さん、これはもう決まったことなんだ。我が儘を言わないで欲しい」

「だって、だってだってだって! モンスターよ? スタンピードなのよ!? そんなところにレイオールちゃんが行ったら死んでしまうわ!!」

「母さん」


 最愛の息子が命の危険のある場所へ赴くことに抵抗があるのだろう、サンドラが目に涙を溜めながらレイオールの前線行きに反対する。


 だが、これはすでにレイオールの中では決定事項であり、例え両親に反対されようとも彼は最前線へ行くことを決めていた。


「兄さま!」

「にぃ!」

「マーク。それにローラまで。一体何しに来たんだ?」


 サンドラが今も反対の声を上げる中、そこに現れたのは弟マークと一人の幼い少女だった。この少女は、レイオールが八歳の時にガゼルとサンドラの間に生まれた三人目の子供であり、彼にとっては妹ということになる。


 まだ二歳であるため、あまり複雑な会話はできないが、家族のことはわかるらしく拙い言葉で話すことはできる。桃色の髪にサファイアのような澄んだ瞳を持った愛らしい見た目をしている。


 ちなみにレイオールとマークはガゼルの遺伝子である金髪碧眼の見た目で、サンドラはローラと同じく桃色の髪だが、その瞳はエメラルドグリーンの淡い緑の色を持っている。


「ローラが突然どこかへ走り出してしまって。追いかけていたらここに来ていました」

「そうか」

「それよりも、途中からですが聞こえてました。スタンピードを迎え撃つ指揮を執るのですね」

「そうだ」


 どうやらこの場の状況と聞こえてきた単語で大体の事情を察したマーク。さすがは俺が教えてきただけあって察しがいいと、内心で弟の成長に笑みを浮かべるレイオールだったが、マークの次の言葉に彼は少々戸惑う。


「行ってらっしゃいませ。ご武運をお祈りしております」

「……止めないのか? それとも、この兄が嫌いになったか?」

「……るわけないじゃないですか」

「ん?」

「嫌いになるわけないじゃないですか!!」

「うおっ、びっくりした」


 マークの意外な言葉に、おどけた態度で応えるレイオールだったが、彼の何か触れてはいけない部分に触れてしまったようで、少し怒りを含んだ叫びが返ってくる。そんな声にレイオールが驚いていると、堰を切ったようにマークが捲し立てた。


「兄さまは世界一の兄さまです。僕が逆立ちしたって勝つことができない存在の兄さまは、僕の憧れです。僕が兄さまを嫌いになる? 冗談もそこまで行くと笑えませんよ。大体、死ぬかもしれない場所に兄さまを行かせるなんて反対です。大反対です。でも、王族としてそうしなければならないことも重々理解しているつもりです。そして、兄さまの覚悟も。だからこそ、僕のちっぽけな気持ちを押し殺して兄さまを戦場へ送り出そうとしたのに、なんでそんなこと言うんですかあああああああ!!」

「お、落ち着けマーク。落ち着くんだ」

「無理です! 僕が落ち着いたら兄さまが城に残るのなら落ち着きます」

「それはできない。王族の務めを果たさねばならないのだ。許せマーク」

「そんな兄さまもカッコいい……じゃなくて、行かないでください!!」


 マークのあまりの変わりようにレイオールは戸惑いを隠せなかった。まさか、ここまで弟が自分に依存していたとは気付いておらず、どこで育て方を間違えたのかと過去の記憶を手繰り寄せたが、特に間違ったことをした覚えはレイオールにはなかった。


 強いて言うならば、マークがわからないことを懇切丁寧に教えたり、彼が悩んでいることに的確にアドバイスした程度であって、ここまで依存される様な特別なことはしていない。


 だが、それがマークにとっては大きかったようで、自分の知らないことを教えてくれたり、悩んでいると話を聞いてアドバイスをくれたりする存在はたとえ家族でなくとも替え難い存在であり、彼でなくとも大なり小なり依存するのは不自然ではない。


 しかし、レイオールにとっての誤算は、マークが彼の予想以上に彼に懐いており、兄である彼の行うことはすべて正しいことであると曲解した価値観を持ってしまったことだ。


「マークちゃんもこう言っているのだし、レイオールちゃんは戦わなくてもいいじゃない」

「そうですよ兄さま。そんな危険な役目を兄さまがやる必要はないです」

「にぃ、どっかいくの?」

「そうだぞ。これからモンスターと戦ってくるんだ」

「にぃ、あぶなくない?」

「大丈夫だ。問題ない」


 マークの意見に便乗するかのようにサンドラの援護射撃が飛ぶが、それを黙殺するかのようにローラの質問にレイオールが答える。過去の経験上、まともに相手をすると余計にこじれることを知っているレイオールだからこそ取れる態度であり、この二人にそんな態度を取ることができるのは、王国内では彼だけであった。


 これ以上長引くとスタンピードの本番に間に合わないと判断し、レイオールはローラの頭をひと撫ですると、親バカとブラコン全開の二人の制止を振り切って城を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...