後宮の右筆妃

つくも茄子

文字の大きさ
51 / 82
第一章

51.新しい妃3

しおりを挟む
 数日後――


「そこをどきなさい!!」

 目の前にいるのは郭婕妤。
 彼女は通り道を塞ぐようにして立っていた。
 
「お久しぶりです。謹慎は解けたのですね」
 
「ふん!ちょっとしたことなのに一々煩いのよ、あのおばさん!お陰で長いこと謹慎させられる羽目になったわ」

 それはそうでしょう。
 あの徳妃と揉め事を起こしてどうして何もない、と思えるのか何故だわ。しかも、自分の方が格上だと勝手に思い込んでいるらしく尊大な態度も相変わらずだった。何故か私を敵視しているのも謎だわ。こちらとしては迷惑極まりない。関わりたくないのでさっさと立ち去ろうとしたのだが腕を組んで阻まれる。
 
「なに勝手に立ち去ろうとしてるのよ!」

 え?
 何、この子?
 人の話を聞かないタイプなの?
 十六歳と聞いてはいるけれど、なんだか年齢よりも幼く感じてしまう。そして、どうして何時も喧嘩腰なのかしら……。はぁ、と心の中で溜息をつきつつ向き直った時だった。

 
「おやめなさい、郭婕妤」

 現れたのは郭貴妃。
 彼女の姿を見て郭婕妤は表情を変え、先ほどまでの威勢のいい態度は何処へ行ったのか借りてきた猫のように大人しくなってしまった。
 
「郭貴妃様……」
 
「巽才人、ごきげんよう。郭婕妤がごめんなさいね」
 
「いえ……」

 その通りです、とは言えない。相手は貴妃。にっこりと優しく微笑みかける郭貴妃に対し私も笑顔を浮かべて挨拶をする。
 
「郭婕妤、貴女はあれほど叱ったというのに、まだ懲りずに他の妃と醜い争いをしていると聞きましたよ」

 ああ……やっぱり。
 懲りていなかったのね。予想通りの展開に何も言えない。普通、格上の徳妃を怒らせたんだから反省して大人しくしておくものだけど、この郭婕妤は妙な処で反骨精神があった。
 それでも実の叔母である郭貴妃には逆らえないようで、彼女の言葉に郭家のドラ娘の顔色がみるみると青ざめていく。

「ち、違います!わ、私は何もしていません!」

 郭貴妃に反論しようとした瞬間――
 
「嘘を言うのではありません。貴女の行動は侍女たちから逐一報告を受けています。現に今も巽才人の腕を掴んでいるではないですか」
 
「こ、これは……その……」
 
「言い訳は許しません。巽才人に謝りなさい」

 厳しい声音で命じる郭貴妃に逆らえるはずもなく、けれど、よっぽど私に謝るのが嫌なのか口元をもごもごさせていた。
 
「わ、悪かったわ!!」

 叫ぶように言うと、そのまま走り去ってしまう。
 アレで謝罪したつもりなのだろうか?
 あれでは余計に相手を怒らせるのでは?と思ってしまう。それでも、これ以上関わるつもりはなかった。ただでさえ、忙しいのに後宮内でのいざこざに巻き込まれるのは御免である。私もこのまま立ち去ってしまおうかと考えていると、郭貴妃が私の方を見て微笑んでいた。


 

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...