後宮の右筆妃

つくも茄子

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第一章

52.新しい妃4

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「巽才人、本当にごめんなさいね」

「いえ……」

蘭児郭婕妤は一人娘として生まれたせいか我が儘がすぎる処があるのです。生来の負けん気も相まって他の妃達との諍いが絶えず……。それで貴女にも迷惑をかけてしまいました」

 私に頭を下げる貴妃を慌てて止める。
 
「郭貴妃様、どうか頭を上げて下さい。私は特に気にしておりません」

 そう言うと少しホッとした表情を浮かべてくれた。その姿はまるであどけない少女のようだった。とても四十歳を超えているとは思えない若々しさに見とれてしまう。しっとりとした美しさと慈愛溢れる笑みは美娘姉上に似ていると思ってしまった。
 容貌は全く似ていないのに何処か似ていると感じてしまう。今までなぜかと思っていたけど、恐らくこの雰囲気が似ていると思う所以だわ。
 
 貴妃は、困ったような申し訳なさそうな顔で話し始めた。
 
「…………蘭児郭婕妤があのように何かにつけて攻撃的なのにも訳があるのです。……入内してから一度も陛下の御渡りがないのです。そのせいで随分と周りから心無い言葉を投げかけられていたようなのです。私が気付いた時には既に手が付けられない状態になってしまって……本来は素直で天真爛漫な子なのですが……」

 私はそれを聞いて納得してしまった。だからかと。あんなに敵意を剥き出しの反応と威嚇する行動。その謎が解けた思いだった。けれど、彼女に同情する気持ちは一切湧かない。渡りの少ない妃など後宮にはごまんといる。なにも郭婕妤だけではない。過去に入内して数ヶ月後にやっと渡りがあった妃だっている位なのだから。
 
「そんな時に巽才人の話を聞いたものだから余計に許せなかったのでしょう。巽才人が自分と同じ年齢だということにも酷く憤っていたようなのです。ここ数日、陛下は後宮への出入りが少なくなっているのも関係していると思うのです。……巽才人は陛下から皇帝宮に部屋を賜っていますからね。邪推したのでしょう」

 あぁぁ……。つまり、彼女は私一人に寵愛が向いていると判断したと言う訳ね。
 貴妃の言葉を聞いて、何となくあの時の態度に合点がいった。それと共に、皇帝陛下の配慮が裏目にでてしまったことも。実を言うと、郭婕妤が入内する少し前に、私は陛下から皇帝宮に“自室”を与えられた。


 
『郭丞相が孫を入内させてくる。美しいと評判の姫君らしい。恐らく、そちの対抗馬にするつもりだろう。何かあるといけないので朕の寝室とは別に自室を与えようと思う』

 あの時は、郭家に配慮しての行動と思っていたけれど……まさか逆に捉えられるなんて……。そういえば、青と高力殿がやたらと渋い顔をしていたのはこういう事を予期していたせい?

 ……少し考えればコレが如何に特別なことなのか理解できた。皇后でさえ皇帝宮に部屋を持つ事は叶わない。後宮の者達はそれをよく知っている。私を快く思わない妃は更に多くなった事だろう。それを思うと感情をむき出しにしてきた郭婕妤は素直なのかもしれないわね。

 


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