52 / 82
第一章
52.新しい妃4
しおりを挟む
「巽才人、本当にごめんなさいね」
「いえ……」
「蘭児は一人娘として生まれたせいか我が儘がすぎる処があるのです。生来の負けん気も相まって他の妃達との諍いが絶えず……。それで貴女にも迷惑をかけてしまいました」
私に頭を下げる貴妃を慌てて止める。
「郭貴妃様、どうか頭を上げて下さい。私は特に気にしておりません」
そう言うと少しホッとした表情を浮かべてくれた。その姿はまるであどけない少女のようだった。とても四十歳を超えているとは思えない若々しさに見とれてしまう。しっとりとした美しさと慈愛溢れる笑みは美娘姉上に似ていると思ってしまった。
容貌は全く似ていないのに何処か似ていると感じてしまう。今までなぜかと思っていたけど、恐らくこの雰囲気が似ていると思う所以だわ。
貴妃は、困ったような申し訳なさそうな顔で話し始めた。
「…………蘭児があのように何かにつけて攻撃的なのにも訳があるのです。……入内してから一度も陛下の御渡りがないのです。そのせいで随分と周りから心無い言葉を投げかけられていたようなのです。私が気付いた時には既に手が付けられない状態になってしまって……本来は素直で天真爛漫な子なのですが……」
私はそれを聞いて納得してしまった。だからかと。あんなに敵意を剥き出しの反応と威嚇する行動。その謎が解けた思いだった。けれど、彼女に同情する気持ちは一切湧かない。渡りの少ない妃など後宮にはごまんといる。なにも郭婕妤だけではない。過去に入内して数ヶ月後にやっと渡りがあった妃だっている位なのだから。
「そんな時に巽才人の話を聞いたものだから余計に許せなかったのでしょう。巽才人が自分と同じ年齢だということにも酷く憤っていたようなのです。ここ数日、陛下は後宮への出入りが少なくなっているのも関係していると思うのです。……巽才人は陛下から皇帝宮に部屋を賜っていますからね。邪推したのでしょう」
あぁぁ……。つまり、彼女は私一人に寵愛が向いていると判断したと言う訳ね。
貴妃の言葉を聞いて、何となくあの時の態度に合点がいった。それと共に、皇帝陛下の配慮が裏目にでてしまったことも。実を言うと、郭婕妤が入内する少し前に、私は陛下から皇帝宮に“自室”を与えられた。
『郭丞相が孫を入内させてくる。美しいと評判の姫君らしい。恐らく、そちの対抗馬にするつもりだろう。何かあるといけないので朕の寝室とは別に自室を与えようと思う』
あの時は、郭家に配慮しての行動と思っていたけれど……まさか逆に捉えられるなんて……。そういえば、青と高力殿がやたらと渋い顔をしていたのはこういう事を予期していたせい?
……少し考えればコレが如何に特別なことなのか理解できた。皇后でさえ皇帝宮に部屋を持つ事は叶わない。後宮の者達はそれをよく知っている。私を快く思わない妃は更に多くなった事だろう。それを思うと感情をむき出しにしてきた郭婕妤は素直なのかもしれないわね。
「いえ……」
「蘭児は一人娘として生まれたせいか我が儘がすぎる処があるのです。生来の負けん気も相まって他の妃達との諍いが絶えず……。それで貴女にも迷惑をかけてしまいました」
私に頭を下げる貴妃を慌てて止める。
「郭貴妃様、どうか頭を上げて下さい。私は特に気にしておりません」
そう言うと少しホッとした表情を浮かべてくれた。その姿はまるであどけない少女のようだった。とても四十歳を超えているとは思えない若々しさに見とれてしまう。しっとりとした美しさと慈愛溢れる笑みは美娘姉上に似ていると思ってしまった。
容貌は全く似ていないのに何処か似ていると感じてしまう。今までなぜかと思っていたけど、恐らくこの雰囲気が似ていると思う所以だわ。
貴妃は、困ったような申し訳なさそうな顔で話し始めた。
「…………蘭児があのように何かにつけて攻撃的なのにも訳があるのです。……入内してから一度も陛下の御渡りがないのです。そのせいで随分と周りから心無い言葉を投げかけられていたようなのです。私が気付いた時には既に手が付けられない状態になってしまって……本来は素直で天真爛漫な子なのですが……」
私はそれを聞いて納得してしまった。だからかと。あんなに敵意を剥き出しの反応と威嚇する行動。その謎が解けた思いだった。けれど、彼女に同情する気持ちは一切湧かない。渡りの少ない妃など後宮にはごまんといる。なにも郭婕妤だけではない。過去に入内して数ヶ月後にやっと渡りがあった妃だっている位なのだから。
「そんな時に巽才人の話を聞いたものだから余計に許せなかったのでしょう。巽才人が自分と同じ年齢だということにも酷く憤っていたようなのです。ここ数日、陛下は後宮への出入りが少なくなっているのも関係していると思うのです。……巽才人は陛下から皇帝宮に部屋を賜っていますからね。邪推したのでしょう」
あぁぁ……。つまり、彼女は私一人に寵愛が向いていると判断したと言う訳ね。
貴妃の言葉を聞いて、何となくあの時の態度に合点がいった。それと共に、皇帝陛下の配慮が裏目にでてしまったことも。実を言うと、郭婕妤が入内する少し前に、私は陛下から皇帝宮に“自室”を与えられた。
『郭丞相が孫を入内させてくる。美しいと評判の姫君らしい。恐らく、そちの対抗馬にするつもりだろう。何かあるといけないので朕の寝室とは別に自室を与えようと思う』
あの時は、郭家に配慮しての行動と思っていたけれど……まさか逆に捉えられるなんて……。そういえば、青と高力殿がやたらと渋い顔をしていたのはこういう事を予期していたせい?
……少し考えればコレが如何に特別なことなのか理解できた。皇后でさえ皇帝宮に部屋を持つ事は叶わない。後宮の者達はそれをよく知っている。私を快く思わない妃は更に多くなった事だろう。それを思うと感情をむき出しにしてきた郭婕妤は素直なのかもしれないわね。
1
お気に入りに追加
930
あなたにおすすめの小説
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる