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第一章
45.朝儀2
しおりを挟む「うむ……許婕妤は巽才人とも親しい間柄。早く良くなって欲しいと思うのも当然だ。他の妃達も同様。心労の身では到底子供を育てられないだろうとの意見が内侍省から出ておる。そこで、だ。子供達を一ヶ所にまとめて養育してはどうかと朕は考えたのだ。子供達が心身共に健やかに成長するにはその方が良いのではないかと思ってな」
成程、そうきましたか。
彼ら親族達が妃の次に狙いを定めるのはその子供達。子供を使って皇帝陛下に「オネダリ」させるかもしれない。そうならないために陛下は先手を打った。
それは理解できるのだけど、物凄く含みのある言い方は止めて欲しい。
私が何時、許婕妤と親しくなったんですか?
嫌がらせのような贈り物の数々はいただきましたけどね。もしかして、そのことを仰ってます? ……嫌味ですよ、陛下。可哀想に、許将軍が蒼白になっているわ。
「巽才人は、随分と妃や子供達を気に掛けてくれている。そこで内侍省との繋ぎを任せようと思う。巽才人ならば安心して任せられる故な。皆もそのつもりで居てくれ」
……陛下、 それは職権乱用過ぎます。下手をすれば後宮の勢力均衡が崩れる事になりかねません。私の心の中を読んだかのように、陛下は含みのある笑いを向ける。
この笑みはどういう意味ですか?
私に後宮を支配しろと!?
いえ、それはないでしょう。
そもそも四夫人が居ると言うのに新参者が後宮を掌握できるはずもないこと。今、後宮は郭貴妃が掌握しているも同然。しかも、郭貴妃に対抗している殷徳妃の存在もある以上、迂闊に手は出せないはず。
それは陛下も良く御存知のはず……一体……。
「!!……陛下……陛下におかれましては、後宮の規律を乱すような発言はお控えください」
「郭丞相、それはどういう意味だ?」
「後宮に新しく入られたばかりの方にそのような重責を与えるとは、あまりに酷というものです」
「ほう、朕が巽才人に重責を与えるように見えるのか? そう思うのであれば、丞相の目は曇っておるぞ。だが、朕の決定に不満があるというのなら……」
「めっ滅相も無いことでございます! ですが、ここ最近の陛下の巽才人に対する御寵愛は目に余るものがございます! 巽才人に掛ける情を他の妃方にも向けるべきでございます!」
「朕は、巽家の姫に皇子を産んで貰う為に入内させたのだ。他の妃には諦めてもらう他ない」
「「「「「!!!」」」」」
……陛下、それは言ってはいけないことだと思うわ。もしかして煽ってます?
案の定と言うべきか、内侍司のみならず、尚書省の文官達が色めき立った。中には立ち上がって顔を真っ赤にしている者もいる。他の官僚たちも愕然としていた。皆、驚きを隠す事が出来ない様子。
まさか、皇帝陛下がここまで言い切るとは思わなかったのだろう……。
そんな臣下達を、面白がっているようにしか見えない陛下は本当に質の悪い。
溜息がでそう。
きっと、この場に居る人達は勘違いしている。
陛下が私に皇子を生ませようとしていると。
考えて欲しい。
今、後宮に巽家の姫は二人いるということを――
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