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第一章
44.朝儀1
しおりを挟む朝儀は随分と人数が少なくなったと感じる今日この頃。
「あぁ、許将軍。許婕妤が気鬱の病に罹ってしまっている。医官に診せた処、どうやら少し前から兆候らしきものがあったようだ。朕も許婕妤の不可思議な言動に気付いてはいたのだが、兄弟達も足繁く許婕妤の“御機嫌伺”に参っていたようでな。本人は出家を望んでいるようだが……朕としては皇子時代から仕えてくれた許婕妤に対して愛着もある。何といっても三人の公主の母だ。決して軽んじられる存在ではない。そうではないか?将軍」
「はっ……陛下の仰る通りでございます」
「だが、どうも最近、『家族だから』という理由で朕の妃に無理難題を言う不遜な輩が増えておる。妃たちも何やら精神的に危い者が増えておってな。近々、後宮に妃のための癒しの宮殿を開設する予定だ。そこで、許婕妤にはゆっくりと療養に当たってもらう」
許将軍は一瞬ギョッとした表情になった。
彼は知っているはず。
自分の息子や親族達が娘である許婕妤に進言していた内容を。
これに関しては何も許一族だけの話ではないけど……。
陛下も今まで特に注意してこなかった。
それに安心していたのね。まぁ、如何に妃に融通してもらおうと進言しても陛下が頷かれない限り問題は起きない。そこに妃が寵愛を失うかもしれない、と考えないあたり浅はかとしか言いようがないけれど。こういう人達は、例え娘に陛下の寵愛や影響力を失っても「本人の努力の問題で自分達は悪くない」と言うに違いないわ。
他にも後宮に縁者を送り込んでいる官僚たちの顔色は悪い。
きっと、今更こんなことを陛下が言い出すとは思わなかったに違いないわ。
「医官の話では、静かな環境で心穏やかに過ごせば回復も早いと聞いた。よほど心労が溜まっていたようだ。そのような妃は許婕妤の他にも大勢いる。朕は夫として妃たちを支えてやりたい。そち達は父親として息子達を支えてやってくれ」
流石は陛下。
許親子の問題を、後宮の妃全体の問題にすり替えている。
朝儀に参列している中には許将軍同様に唖然としている人が大勢いた。
陛下の仰った事は「妃の面倒は後宮でみる。だが、妃の兄弟と甥などの面倒はお前達で何とかしろ。静養中の妃に接触禁止にするから、妃に泣きついてくるな。自分達でどうにか解決しろ」と遠回しに言ったのだから。まぁ、それと同時に「静養中の妃は暫く妃休業だ。だから、寵愛を得る事はできない」とも宣言していたも同然だった。
「これに不服申し立てする者はおるか? …………ないようだな」
いえ、余りの事に皆さま絶句なさっているだけです。
「巽才人、そちは、どう思う?」
にこりと微笑みながら問いかけてくる陛下。
「素晴らしい案だと思います。気鬱の病に罹られた場合、回復するには数ヶ月の者もいれば数年かかる者もいるとお聞きしております。陛下の真心に触れられれば皆様の回復もすぐでしょう」
許将軍が私を睨みつけてくる。
本当に何で私を睨むのかしら?
皇帝陛下の言葉を肯定しただけだというのに……。心なしか、他の方々も恨めし気に見られている気がするわ。
恨むなら……陛下を恨むのが筋というものでしょう!!!
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