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第一章
21.地位2
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――“詔をくだす。
巽州公 三女を正二品とし「才人」の位を与える”――
目が覚めたら、皇帝の妃に一人になっていた。
意味が分からない。混乱する私に姉は朗らかに笑いかけたのだ。
「これでもう大丈夫よ」
なにも大丈夫ではないと思う。私が皇帝陛下の妃になった事を姉上は喜ばれているけれど、一体全体どうしてこんなことになったの?!
「部屋は四夫人と同様にしないといけないわね。私から陛下に掛け合っているのだけれど準備に時間が掛かりそうだから暫くは今まで通りでいいかしら?何しろ、急に決まったでしょう?後宮も支度に追われているらしいの。だからね、杏樹の部屋を私と陛下の両方ということになったのよ」
え?
姉上?
今なんと?
陛下の部屋ってどういうこと?
姉の言葉に頭がついていかない私は口をパクパクさせてしまった。そんな様子の姉は嬉々として言葉を続けた。
「そういえば詳細を話していなかったわね。杏樹の賜った『才人』の地位について」
私の頭を優しく撫でながら姉上は説明してくれた。それは私が想像していたよりもずっと良い待遇だった。
そもそも『才人』とは皇帝の妻に与えられる称号の一つであるらしい。ただ、その称号は廃れ果て、今では使用していないとのこと。確かに聞いた事がなかった。てっきり皇帝陛下が新たに設けた地位なのかと思ったけれど、何代か前の王朝には『才人』の地位があったらしい。
それがなぜ廃れたかのかは分かっていない。きっとロクでもない理由だろう。
「嘗てあった『才人』は正五品だったそうよ。本来は女官の称号だったそうだけど、時代によって妃としても機能していたらしいの。陛下はそこに目を付けられたんでしょうね」
「どういうことですか?」
「杏樹、貴女は妃でもあり女官でもあるという事よ。対外的には『妃』の身分に属するけれど、夜伽をする必要はないわ。飽く迄も、妃になる権利がある地位ということね」
要するに妃であるけれど、他の役職も兼ねているという事だ。妃であって妃ではない。なんとも都合の良い地位を考え付いたものだと感心してしまった。
「それに、これは杏樹の為でもあるわ」
「私の為……?」
「そうよ。杏樹が内侍省と協力関係にあるために危ない目にあったのだもの。もう少しで殺されるところだったのよ」
「それは……」
青から事の次第を聞き出した姉上による叱責。
私と青は何時間も正座させられた。
その間、私たちは説教され続ける事になった。
因みに皇帝陛下は何も言われていない。寧ろ、私たちが怒られている姿を肴にしてお茶をしていたのだ。皇帝陛下は助けてくれようと思えばいつでも出来た筈なのだけど、それをしなかった辺りこの人性格が悪いなぁと思ったのは秘密だ。それから暫くしてやっと解放される頃には日が暮れていたのだ。
巽州公 三女を正二品とし「才人」の位を与える”――
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「これでもう大丈夫よ」
なにも大丈夫ではないと思う。私が皇帝陛下の妃になった事を姉上は喜ばれているけれど、一体全体どうしてこんなことになったの?!
「部屋は四夫人と同様にしないといけないわね。私から陛下に掛け合っているのだけれど準備に時間が掛かりそうだから暫くは今まで通りでいいかしら?何しろ、急に決まったでしょう?後宮も支度に追われているらしいの。だからね、杏樹の部屋を私と陛下の両方ということになったのよ」
え?
姉上?
今なんと?
陛下の部屋ってどういうこと?
姉の言葉に頭がついていかない私は口をパクパクさせてしまった。そんな様子の姉は嬉々として言葉を続けた。
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私の頭を優しく撫でながら姉上は説明してくれた。それは私が想像していたよりもずっと良い待遇だった。
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それがなぜ廃れたかのかは分かっていない。きっとロクでもない理由だろう。
「嘗てあった『才人』は正五品だったそうよ。本来は女官の称号だったそうだけど、時代によって妃としても機能していたらしいの。陛下はそこに目を付けられたんでしょうね」
「どういうことですか?」
「杏樹、貴女は妃でもあり女官でもあるという事よ。対外的には『妃』の身分に属するけれど、夜伽をする必要はないわ。飽く迄も、妃になる権利がある地位ということね」
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「それに、これは杏樹の為でもあるわ」
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「それは……」
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因みに皇帝陛下は何も言われていない。寧ろ、私たちが怒られている姿を肴にしてお茶をしていたのだ。皇帝陛下は助けてくれようと思えばいつでも出来た筈なのだけど、それをしなかった辺りこの人性格が悪いなぁと思ったのは秘密だ。それから暫くしてやっと解放される頃には日が暮れていたのだ。
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