3 / 7
松永久秀の場合
しおりを挟む室町の世を生きた後に待っていたのは戦乱の世。
私の新しい主は裏切り上等の俗物でありました。
主家を乗っ取るは、将軍暗殺に加担するは、東大寺を焼き払うは……あら?思っていた以上の悪逆です。まぁ、動乱期はこのような事はさして珍しくはないでしょう。大陸なら日常茶飯事の出来事ですから。主はまだマシな部類だったのですが、この国では許されない行為の数々だったようで、主は孤立無援の状態に落ちてしまわれました。
人とは本当に難儀な生き物です。
主は、こよなく茶を愛する人物であったため、私の扱いは最上級でした。
私を見つめては「美しい」と褒めてくれるのです。
ただ、孤立状態から脱出するため、飛ぶ鳥を落とす勢いの武将に降ることを決断されました。
仕方ありません。
四方八方に敵を作っては味方欲しいと思うのが人間です。補給路を断たれてはどうしようもありません。皆が生き残るには、より強い者に尽き従うのも良策というもの。
その武将に恭順の意を示すために私を献上したことは遺憾ですが。
「くっそ~~~~~~~!!!信長の奴め~~~~!!!」
「久秀様、まだ言ってるんですか?」
「当たり前だ!いいか、あれはな、足利将軍家が家宝にしていたものの一品だぞ!足利義政公が茶道の師である村田珠光に譲り渡し、三好政長へと伝わったものだ!!!」
なにやら私を手放した事を悔やんでいるよう。
そうでしょうとも、私は天下一の名宝。
「いいではありませんか。茶入れなど、まだ他に沢山お持ちなんですから」
「あれは別格だ!千貫文を費やして買った代物だぞ!!!」
「ならば、この茶釜を献上すれば宜しかったのに。最初は茶釜を所望されていたのでしょう?」
「馬鹿もの!この茶釜を渡す位なら茶入れを渡すわ!!!」
カチン!
この男、私と茶釜風情を一緒にするとは…許し難し!
「この茶釜だけはぜ~~~~たいに渡さんぞ!」
「はいはい」
「もしもの時はこの茶釜と共に爆死してやる!!!!」
「はいはい」
この後、茶釜の代わりに私を差し出した見る目のない愚かな男は宣言通り茶釜と共に爆死した。
失礼極まりない男であったが有言実行のワイルドな男だった。
妙に慕う者が多かった理由が何となく理解出来た瞬間である。
因みに、一緒に爆死した茶釜の名前は『古天明平蜘蛛』という。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
狂乱の桜(表紙イラスト・挿絵あり)
東郷しのぶ
歴史・時代
戦国の世。十六歳の少女、万は築山御前の侍女となる。
御前は、三河の太守である徳川家康の正妻。万は、気高い貴婦人の御前を一心に慕うようになるのだが……?
※表紙イラスト・挿絵7枚を、ますこ様より頂きました! ありがとうございます!(各ページに掲載しています)
他サイトにも投稿中。
ナポレオンの妊活・立会い出産・子育て
せりもも
歴史・時代
帝国の皇子に必要なのは、高貴なる青き血。40歳を過ぎた皇帝ナポレオンは、早急に子宮と結婚する必要があった。だがその前に、彼は、既婚者だった……。ローマ王(ナポレオン2世 ライヒシュタット公)の両親の結婚から、彼がウィーンへ幽閉されるまでを、史実に忠実に描きます。
カクヨムから、一部転載

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
鬼を討つ〜徳川十六将・渡辺守綱記〜
八ケ代大輔
歴史・時代
徳川家康を天下に導いた十六人の家臣「徳川十六将」。そのうちの1人「槍の半蔵」と称され、服部半蔵と共に「両半蔵」と呼ばれた渡辺半蔵守綱の一代記。彼の祖先は酒天童子を倒した源頼光四天王の筆頭で鬼を斬ったとされる渡辺綱。徳川家康と同い歳の彼の人生は徳川家康と共に歩んだものでした。渡辺半蔵守綱の生涯を通して徳川家康が天下を取るまでの道のりを描く。表紙画像・すずき孔先生。

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~
川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる
…はずだった。
まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか?
敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。
文治系藩主は頼りなし?
暴れん坊藩主がまさかの活躍?
参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。
更新は週5~6予定です。
※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。
柳生十兵衛を斬る
伊賀谷
歴史・時代
徳川家の兵法指南役に二流派があった。
柳生新陰流と一刀流。
一刀流の小野忠常は、柳生新陰流の柳生十兵衛に御前試合で破れてしまう。
それから忠常は十兵衛を斬ることを生きがいとする。
そのころ島原で切支丹一揆が蜂起していた。
数奇な運命に翻弄される忠常は、再び不世出の天才剣士である柳生十兵衛と相まみえる。
一刀流と柳生新陰流の秘剣が激突する。
九州のイチモツ 立花宗茂
三井 寿
歴史・時代
豊臣秀吉が愛し、徳川家康が怖れた猛将“立花宗茂”。
義父“立花道雪”、父“高橋紹運”の凄まじい合戦と最期を目の当たりにし、男としての仁義を貫いた”立花宗茂“と“誾千代姫”との哀しい別れの物語です。
下剋上の戦国時代、九州では“大友・龍造寺・島津”三つ巴の戦いが続いている。
大友家を支えるのが、足が不自由にもかかわらず、輿に乗って戦い、37戦常勝無敗を誇った“九州一の勇将”立花道雪と高橋紹運である。立花道雪は1人娘の誾千代姫に家督を譲るが、勢力争いで凋落する大友宗麟を支える為に高橋紹運の跡継ぎ統虎(立花宗茂)を婿に迎えた。
女城主として育てられた誾千代姫と統虎は激しく反目しあうが、父立花道雪の死で2人は強く結ばれた。
だが、立花道雪の死を好機と捉えた島津家は、九州制覇を目指して出陣する。大友宗麟は豊臣秀吉に出陣を願ったが、島津軍は5万の大軍で筑前へ向かった。
その島津軍5万に挑んだのが、高橋紹運率いる岩屋城736名である。岩屋城に籠る高橋軍は14日間も島津軍を翻弄し、最期は全員が壮絶な討ち死にを遂げた。命を賭けた時間稼ぎにより、秀吉軍は筑前に到着し、立花宗茂と立花城を救った。
島津軍は撤退したが、立花宗茂は5万の島津軍を追撃し、筑前国領主としての意地を果たした。豊臣秀吉は立花宗茂の武勇を讃え、“九州之一物”と呼び、多くの大名の前で激賞した。その後、豊臣秀吉は九州征伐・天下統一へと突き進んでいく。
その後の朝鮮征伐、関ヶ原の合戦で“立花宗茂”は己の仁義と意地の為に戦うこととなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる