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織田信長の場合

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失礼な爆死男が私を献上した相手は奇抜な男だった。
服装から、住んでいる城に至るまで珍しい物で溢れていた。好奇心旺盛で、時に子供のように無邪気な一面がある西洋かぶれした男であったが、独特な風格漂う魅力的な人物でもあった。
だが、比叡山ひえいざん延暦寺えんりゃくじを焼き払った事で悪評が付いた事が残念だ。

第六天魔王だいろくてんまおう

それが新しいあるじの通り名になった。


「なぜ、儂が『第六天魔王だいろくてんまおう』やら『仏敵』など言われるのだ?松永など、奈良の大仏は焼き払っているではないか」

全く持ってその通り。
だから、爆死男が死んだ時は「神罰がおりた!」と騒がれた。
当時は、寺なのに神罰とは何だろう?と思ったものだ。
この国は政治体制も異様なら宗教観も独特だった。

神仏習合――。

他に類をみない独特の感性をしている。
神も仏も一緒……宗教の闇鍋とはこのことだろう。
しかも、仏教の宗派が多過ぎる!
異様に多いのは何故だ!?

なんだか、雑炊に具材を一杯入れたような宗教観だ。
元となる神道野菜や肉数多の仏教を煮詰めて出来たような感じだった。
そのせいで?そのお陰で?宣教師の言葉に惑わされない者が多かった。
昨日も一人絶望的な顔で自分の祖国に戻ると報告に来た宣教師がいました。
船に乗る前に挨拶にきましたが初めて会った時よりも窶れ果て「精魂尽き果てました」と一言洩らした。
大人だけでなく子供にも言い負かされてしまった事が自信喪失に繋がった模様。一度、祖国に帰って自分を見つめ直す必要がある、とも言っていた。
それにしても、子供にまで論破される宗教とは一体……?


「まったく!寺は焼いたが神社への参拝は欠かしておらんぞ?」

はっ!!!
いけない自分の思考の闇に入り込んでいました。
あるじの悩みを聞くのも重要なお役目。

そう、意外や意外。
あるじは信心深い一面がある。
いくさの前には必ず神社に必勝祈願に詣でる程に。


「俗世と縁を切った僧が武器を持って襲う方が悪いだろう!刀を持つなら還俗げんぞくして武士になればいいではないか!!!」


違うぞ!あるじ
武士は自分の命が掛かってるけど、僧兵は寺という安全地帯がある。
何時でも攻められる場所と、攻められない場所。
この違いは大きい。
僧も所詮は人間。命は惜しいのだ。


「だいたい、軍備には金が掛かるんだ。比叡山め、出し渋り処か、人の足元を見て物を言うのだ。商人や高利貸し以上にあくどいかったぞ!あの生臭坊主どもめ!!それに……」


いつ終わるんだろう…独り言が長いお人だ。
誰かあるじの愚痴に付き合ってあげる人はいないのか?
気に入りの側室はどうした!
最近入った寵童は何処いった!
毎晩、聞く私の身にもなれ!
そのうち、無理心中を図られそうで怖いぞ!


数年後、本能寺にて無理心中が起こった。
家臣からの謀反が発端だというから笑えない。
気を許した相手には言いたい放題のあるじだから、謀反を起こした人物はきっと生真面目で愚痴一つ洩らさないような性格の持ち主だろう。ため込んでいたのかもな……あるじの側近が務まるのは、あるじに心酔している人か、気の長い人か、要領の良い人か、だろう。



「人間五十年、下天げてんうちをくらぶれば、夢幻ゆめまぼろしごとくなり」

……この状況下炎に囲まれているで舞など舞っている場合か?あるじらしいといえば、らしいが。


是非ぜひも無し!」


あるじよ……私を懐に入れたまま自害するのはよせ!

ああああああああ!!!

傾国と謳われた私がまさか寺で死ぬとは……。


「儂の首……決して敵に渡すな!」


格好つけなあるじらしい言葉であった。

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