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おっさんずイフ
23.神器
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「ごめんなさいね。この子には知らない人に声をかけられたらすぐに逃げなさいって教えてるものだから」
「いや、俺たちのほうこそ突然声をかけてしまって驚かせてしまったかもしれない。ごめんね、メイちゃん」
井戸の前で大きな布を洗濯していたのはメイちゃんと言い、グウェンの弟子なのだそうだ。
グウェンが借りている家の周りは空き家だらけで、あの井戸を使う人間は他にいない。
そのためグウェンもそこまで過保護にはならず、弟子のメイちゃんひとりで井戸まで行くことを許している。
メイちゃんはいつものようにグウェンの大きな服と自分の小さな服を上機嫌で洗濯していた。
そこに現れたのが得体のしれないおっさんだ。
びっくりしてしまうのも仕方がないだろう。
メイちゃんはいまだグウェンの大きな身体の後ろに隠れて目を合わせてくれない。
こっちはこっちでマルスとマルクルが警戒心マックスだし、子供たちが仲良くするにはなにかきっかけが必要かもしれない。
「メイ、あんたなに隠れてんのよ。出てきなさい」
「あうぅ」
グウェンは力技でメイちゃんを背中から引っ張り出す。
襟首をつままれてブランブランしている。
それでいいのかな、女の子の扱いとして。
まあグウェンは性別を超越した存在だし、いいのかもしれない。
俺も見習うとしよう。
「ほら、マルス、マルクル。君たちもメイちゃんにあいさつしないと」
「えぇ」
「でも、おじさん。人間だよ」
「人間とか獣人とか、そんなこと言ってたら冒険者になんてなれないでしょ」
2人の背中を押して前に追いやると、自然とぶらんぶらんしているメイちゃんと向き合う形になる。
グウェンはぱっと手を放してメイちゃんを地面に落とした。
一瞬なにすんだと思った俺だけれど、メイちゃんは足のバネを柔らかくして完璧に衝撃を殺し音も立てずに着地した。
グウェンの弟子というのはどうやら名目上だけではないようだ。
「…………」
「…………」
「…………」
お見合いのように無言の時間が過ぎる。
3人とも借りてきた猫のようにおとなしくなってしまって一言もしゃべらない。
人見知りを3人集めるとこうなってしまうのか。
「あんたたちなに固まってんのよ。言っておくけどあたしとシゲちゃんはこれから町外れまで修業に行ってくるから3人でお留守番するのよ」
「えぇ、グウェン先生ぇ……」
「そんな顔してもダメ。いい機会だからあんたたち仲良くしなさい。この2人も冒険者志望みたいだしね。あんた先輩なんだから色々教えてあげなさい」
「先輩……」
先輩という響きに少しだけ頬を緩ませるメイちゃん。
感情の起伏がわかりやすくて可愛らしい女の子だ。
「め、メイです。先輩です。よろしく」
「マルス」
「マルクルです」
ぶすっとした表情だがマルスとマルクルも自己紹介をする。
まあ子供なんて放っておけば勝手に仲良くなるだろう。
メイちゃんは優しそうな女の子だし、2人のことを任せてもよさそうだ。
「子供たちは大丈夫そうね。じゃああたしたちも行きましょうか」
「よろしくお願いします」
「やさしーく教えてあげるわ」
意味ありげな言い方をするのはやめてほしいな。
子供たちの教育に悪い。
「とりあえずシゲちゃんの神器を見せて欲しいんだけど、シゲちゃんだけ見せるのはフェアじゃないからまずあたしの神器を見せるわね」
「え、神器っていうのは異世界人だけが持っているものじゃあ?」
「そうね。まずはそこから説明しましょうか。まず、勇者として異世界人が神から直接与えられる神器とこの世界の人間が持っている神器は微妙に違うわ」
「神様から直接貰うかそうではないかの違いかな?」
「まあそうなんだけど、実は異世界人が持っている神器は異世界人を殺して奪ったところで消えてなくなってしまうのよ。つまりこの世界の人間にはあなたたちから神器を奪い取るということができないの」
なるほど、よく考えてみたら異世界人なんていう扱いづらい人間兵器を煽てていいように使うよりも神器を奪ってしまったほうが楽に力が手に入る。
しかし三国同盟はそうはしなかった。
金品や魅力的な異性、地位などを餌に異世界人を必死に勧誘していたな。
それがなぜなのか、今やっとわかった。
「逆に、この世界の人が持っている神器は奪える?」
「ええ、奪えるわ。だから神器を持つということはこの世界では覚悟がいることなの。何人かかってこようが返り討ちにするくらいの気概が無ければ神器を人前では使えないわ」
すごい世界だな。
まあ目の前のオネエには実際何百人かかってこようとびくともしない山のような雄大な気迫を感じるけどね。
「その前に神器というものは大体ダンジョンの奥深くに眠っているようなものだから、そこまで行って神器を手に入れた時点で十分強者なんだけどね」
「ダンジョンに潜れば、俺たち異世界人も新たな神器を手に入れることができるのかな」
「できると思うわ。でも新しく手に入れた神器は殺されれば奪われてしまうから気を付けたほうがいいわね」
そもそも俺が異世界人かどうかなんかはこの世界の人間にはわからないだろう。
グウェンのように異世界人の情報を詳しく知っている人というのは限られる。
神器を奪うために命を狙われるなんて嫌だな。
奪われた神器は消えてしまうそうなので少しざまあと思うかもしれないけれど、殺された俺にはそのざまあを実感することはできないだろう。
神器を持っていることはなるべく人に知られないようにしよう。
「いや、俺たちのほうこそ突然声をかけてしまって驚かせてしまったかもしれない。ごめんね、メイちゃん」
井戸の前で大きな布を洗濯していたのはメイちゃんと言い、グウェンの弟子なのだそうだ。
グウェンが借りている家の周りは空き家だらけで、あの井戸を使う人間は他にいない。
そのためグウェンもそこまで過保護にはならず、弟子のメイちゃんひとりで井戸まで行くことを許している。
メイちゃんはいつものようにグウェンの大きな服と自分の小さな服を上機嫌で洗濯していた。
そこに現れたのが得体のしれないおっさんだ。
びっくりしてしまうのも仕方がないだろう。
メイちゃんはいまだグウェンの大きな身体の後ろに隠れて目を合わせてくれない。
こっちはこっちでマルスとマルクルが警戒心マックスだし、子供たちが仲良くするにはなにかきっかけが必要かもしれない。
「メイ、あんたなに隠れてんのよ。出てきなさい」
「あうぅ」
グウェンは力技でメイちゃんを背中から引っ張り出す。
襟首をつままれてブランブランしている。
それでいいのかな、女の子の扱いとして。
まあグウェンは性別を超越した存在だし、いいのかもしれない。
俺も見習うとしよう。
「ほら、マルス、マルクル。君たちもメイちゃんにあいさつしないと」
「えぇ」
「でも、おじさん。人間だよ」
「人間とか獣人とか、そんなこと言ってたら冒険者になんてなれないでしょ」
2人の背中を押して前に追いやると、自然とぶらんぶらんしているメイちゃんと向き合う形になる。
グウェンはぱっと手を放してメイちゃんを地面に落とした。
一瞬なにすんだと思った俺だけれど、メイちゃんは足のバネを柔らかくして完璧に衝撃を殺し音も立てずに着地した。
グウェンの弟子というのはどうやら名目上だけではないようだ。
「…………」
「…………」
「…………」
お見合いのように無言の時間が過ぎる。
3人とも借りてきた猫のようにおとなしくなってしまって一言もしゃべらない。
人見知りを3人集めるとこうなってしまうのか。
「あんたたちなに固まってんのよ。言っておくけどあたしとシゲちゃんはこれから町外れまで修業に行ってくるから3人でお留守番するのよ」
「えぇ、グウェン先生ぇ……」
「そんな顔してもダメ。いい機会だからあんたたち仲良くしなさい。この2人も冒険者志望みたいだしね。あんた先輩なんだから色々教えてあげなさい」
「先輩……」
先輩という響きに少しだけ頬を緩ませるメイちゃん。
感情の起伏がわかりやすくて可愛らしい女の子だ。
「め、メイです。先輩です。よろしく」
「マルス」
「マルクルです」
ぶすっとした表情だがマルスとマルクルも自己紹介をする。
まあ子供なんて放っておけば勝手に仲良くなるだろう。
メイちゃんは優しそうな女の子だし、2人のことを任せてもよさそうだ。
「子供たちは大丈夫そうね。じゃああたしたちも行きましょうか」
「よろしくお願いします」
「やさしーく教えてあげるわ」
意味ありげな言い方をするのはやめてほしいな。
子供たちの教育に悪い。
「とりあえずシゲちゃんの神器を見せて欲しいんだけど、シゲちゃんだけ見せるのはフェアじゃないからまずあたしの神器を見せるわね」
「え、神器っていうのは異世界人だけが持っているものじゃあ?」
「そうね。まずはそこから説明しましょうか。まず、勇者として異世界人が神から直接与えられる神器とこの世界の人間が持っている神器は微妙に違うわ」
「神様から直接貰うかそうではないかの違いかな?」
「まあそうなんだけど、実は異世界人が持っている神器は異世界人を殺して奪ったところで消えてなくなってしまうのよ。つまりこの世界の人間にはあなたたちから神器を奪い取るということができないの」
なるほど、よく考えてみたら異世界人なんていう扱いづらい人間兵器を煽てていいように使うよりも神器を奪ってしまったほうが楽に力が手に入る。
しかし三国同盟はそうはしなかった。
金品や魅力的な異性、地位などを餌に異世界人を必死に勧誘していたな。
それがなぜなのか、今やっとわかった。
「逆に、この世界の人が持っている神器は奪える?」
「ええ、奪えるわ。だから神器を持つということはこの世界では覚悟がいることなの。何人かかってこようが返り討ちにするくらいの気概が無ければ神器を人前では使えないわ」
すごい世界だな。
まあ目の前のオネエには実際何百人かかってこようとびくともしない山のような雄大な気迫を感じるけどね。
「その前に神器というものは大体ダンジョンの奥深くに眠っているようなものだから、そこまで行って神器を手に入れた時点で十分強者なんだけどね」
「ダンジョンに潜れば、俺たち異世界人も新たな神器を手に入れることができるのかな」
「できると思うわ。でも新しく手に入れた神器は殺されれば奪われてしまうから気を付けたほうがいいわね」
そもそも俺が異世界人かどうかなんかはこの世界の人間にはわからないだろう。
グウェンのように異世界人の情報を詳しく知っている人というのは限られる。
神器を奪うために命を狙われるなんて嫌だな。
奪われた神器は消えてしまうそうなので少しざまあと思うかもしれないけれど、殺された俺にはそのざまあを実感することはできないだろう。
神器を持っていることはなるべく人に知られないようにしよう。
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