この愛を思い知れ

我利我利亡者

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おまけ1 攻め視点寄り

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「こちらの商品なんていかがでしょう? 少々年齢は重ねていますが、美しい奴隷を侍らせるのが好きだった、ある資産家の方の遺品整理で売られてきた出物です。見た目がよく物覚えも悪くない。教養はあまりありませんがその分変な仕込みもされていないので、何でも一から躾ていく楽しみがありますよ」
 奴隷商人に鞭を振り翳され促されるままに、エリックは足首に嵌められた鉄の枷に繋がった鎖をジャラジャラ言わせながら前に出る。不躾に伸びてきた手が彼の顎を掴み上向かせてきて、その手の主の男が臭い息を吐きかけながらエリックの顔をジロジロと不躾に検分した。
「ふむ……。成程。この顔ならあの性根が腐った強欲な家の人間も気に入りそうだ。おい、に簡単な知能テストをしていいか? それに合格できたら買いあげたい」
「ええ、勿論ですとも!」
 揉み手で男に媚びへつらう奴隷商人に、エリックは心の中で毒づく。さっきまで商品の奴隷達相手にあんなにも威張り腐って、やれ『食事を抜くぞ』だとか『体に痕が残らないように折檻する方法なんていくらでもあるんだからな』だとか凄んでいた癖に、金貨の詰まった重たそうな財布を持った客の前ではこの有様だ。何もかもが下らない、とできることならエリックは溜息をつきたい気分である。勿論、奴隷であり商品であるエリックには、そんな自由許されていなかったのだが。
 生まれた時からエリックにはというものがない。物心着いた時にはもう既に、顔のいい奴隷をかけあわせて産ませた将来有望な子供奴隷として売り飛ばされ、先物買いされた後だった。成長し美しく育っていってもその美しさは変態でスケベ爺な主人にベタベタ体を触られる理由になるだけで、自慢にもなりやしない。エリックの手足にはいつだって枷が嵌っていて、そこに繋がれた鎖の先には主人を名乗る厚かましい他人がぶら下がっていた。きっと年老いてセールスポイントの容姿が衰え価値がなくなるまでそんな生活が続くのだ。そして、価値が無くなったエリックに待っているのは自由などではなく、不用品の処分という名の死のみ。その事を知っているからこそ、エリックには全てが馬鹿馬鹿しくて堪らなかった。
「ふむ、成程。これなら使だ。おい、こいつを買い取らせてもらうぞ」
 エリックの知能テストの結果に満足したらしい男が奴隷商人に金の詰まった小袋を渡す。奴隷商人は念入りに袋の中の金貨の枚数を数え、その価格に満足するとようやく男にエリックの繋がれた鎖を差し出したのだった。
 それからはあっという間だ。エリックを買い上げた男は、彼を個人の屋敷ではなくもっと立派な公的機関の入った建物へと連れて行き、そこでエリックにをし始めた。この男が労働力を求めて普通の家内奴隷を買いに来た一般人などではなく、危険地帯に潜入させる使い捨ての手駒を求めていた政府機関の人間だという事は、買われて直ぐに伝えられている。お前はそれだけの為に買われたんだから命を捨ててでも任務を果たすんだ。当然のようにそう命じた今の主人である男に、エリックはどこまでも白けた思いしか抱けない。もっとも、そんな事相手に知られたらキツい折檻が待っている事は目に見えているので、表面上は澄ましたままだったが。奴隷が主人の言う事を聞かなかった場合は殴って分からせるしかない。世の大抵の人間がそう思っているし、きっとこの男だってそうだろうから。
 それから始まった数ヶ月の厳しい訓練という名の扱きは、辛いものだった。それはエリックの物覚えが悪いからではない。むしろエリックは賢い方だった。しかし、教育係を任された役人は自分より若く美しく、そして賢いエリックをやっかんでいたので、ことある事に躾という名の暴力を受けたのだ。エリックのは彼の体に商品価値を損ねるような傷を残さないように気をつけてはいたが、痕さえ残らなければその限りではない。その内教育係だけでなく鬱憤を貯めた下っ端役人まで、エリックのに関わるようになった。読み書きのできないエリックを彼等は文字を教えるでもなく詰って笑い、奴隷故の知識の足りなさを嘲って強めに小突き転ばせ、何かある度に押さえつけては布で窒息させ藻掻くのを見て馬鹿にする。エリックはそんな環境にこの上なくウンザリしていた。
 やれやれ、ヤニ下がった変態爺に視姦される生活から抜け出せたと思ったら、今度は憂さ晴らしの八つ当たりで虐められる毎日か。結局どこに行っても自分は搾取される側だ。仕事が上手く行けば褒美に市民権を与えられるかもしれないと言われたが、それよりも任務中にヘマをして殺されてしまう可能性の方が高くて全くやる気になれないな。そんな考えを頭の中で転がしつつ、教育という名のエリックにとって苦痛でしかない時間は過ぎていった。潜入で送り込まれる次の勤め先は、悪い噂しか聞かない一族の屋敷だ。きっと今まで以上に嫌な目に合わされるのだろうと思うと、エリックは暗澹たる気持ちにさせられた。
 しかし、そんなエリックの鬱屈は、悪逆の一族に迎え入れられ、こいつが今日からお前の仕える主人だとを紹介された瞬間に、一気に晴れる事になる。彼の人を初めて目にした瞬間の衝撃を、エリックは生涯決して忘れる事なんてできないだろう。日の光を浴びた事がないのかと疑ってしまう程白く傷一つない肌。緩く癖がついてカールした淡い焦げ茶の髪。物憂げで大きく黒目がちな青い目は全てを惹き付ける深みを持ってエリックに視線を注いでいる。愛らしい顔立ちはこの上なく甘やかで庇護欲を唆られた。あまりにも可愛らしく彼の立つ場所だけまるで後光が刺しているかのような神々しさだ。この夢のように美しい少年に、エリックは一目で心を奪われた。
 ガツンと強く頭を殴られたような気持ちになりながらも、それでも必死にここでヘマをしたら手足を、悪ければ命を奪われてしまう、と思ったエリックは何とか躾られたとおりに少年の目の前に跪く。ただ、目の前の少年の存在に打ちのめされ、浮ついた気持ちのまま儚げなその少年の目を恐る恐る見返し、おずおずと微笑み返す。本当は忠誠を示す意味を込めて手を取って指先にキスをするように躾られていたのだが、できなかった。少年は指先まで美しく、触れた傍から雪の結晶のように溶けてしまいやしないかと恐ろしい気持ちになってしまって、とてもじゃないが触れる事すらできなかったからだ。
 指先に忠誠の口付けをできなかった事で少年に嫌われてしまわないか不安を覚えたエリックだったが、それは杞憂に終わった。その少年はエリックが何とか浮べた微笑みを見て一瞬キョトンとしたかと思うと、直ぐに花の蕾が綻んで爛漫と咲き誇るかのように、楚々として美しい完璧な笑みを返してくれたのだ。たったそれだけの事で、エリックはここに至るまでの、これまで重ねた自分の苦労や苦しみが全部報われたような気持ちになった。これから先この家で一族の誰かの機嫌を損ね、拷問の限りを尽くされ惨たらしい最後を迎える事になってもいい。ただ、この美しい人の一生の何分の一、何十分の一、ほんの僅かでもいいから、傍に寄り添えるのならそれだけで満足だ。他の何もかもはもうどうでもいい、全て些末な事に違いない。エリックは夢見心地のまま、一瞬でそんな事まで考えたのだった。
「君、名前はなんて言うの?」
「……はい、エリックと申します」
「エリック……。いい名前だね。僕はユージーンだ。エリック、これからよろしくね」
 ああ、見た目が美しい人は声まで美しいのか。そんな馬鹿みたいなことを考えながら、心的衝撃に最早声も出せなくなったエリックは夢見心地で何とかコクリと大きく頷く。きっと少年とのこの邂逅の瞬間が自分の人生の幸福のピークなんだ。馬鹿になった頭でエリックはそう考えた。しかし、実際はそんな筈もない。エリックにとっては信じられない事に少年と一緒にいる限り、エリックの幸せの最高値はどんどんと更新されて行った。
「エリック。ほら、おいで。今日は父様の誕生日だから、僕なんかにもケーキが用意されたんだ。半分に分けて一緒に食べよう?」
「エリック。若しかして字が読めないの? ……それなら、僕が教えようか? そうしたら一緒に本が読めて楽しいよ」
「エリック。どこに行くの? 僕もついて行っていい? 絶対仕事の邪魔はしないからさ。君と片時も離れたくないんだ。ねえ、お願い」
 ユージーンと並んで同じ食事を摂る度に、ユージーンに根気よく勉強を教えてもらう度に、ちょこまかと後を着いてきて離れないユージーンを見る度に、エリックの胸中にえも言われぬ喜びが湧き起こる。事前に聞いていた情報を疑う程、ユージーンには悪逆の欠片も見られない。それどころか新しい主人であるユージーンは決してエリックを乱暴に扱わず、何か与える事はあっても何も奪わず、宝物を見るかのように愛しさのこもった目でエリックを見て、それはそれは大切にした。気持ちの悪い肥太った老人にベタベタ体を触られたり意地の悪い教育係に憂さ晴らしで当たられたり、以前はそんな思い出すのも嫌な事ばかりだったのに、今では愛らしい少年がまるで僕の世界にはあなただけだと言わんばかりに全身全霊で慕ってくれる。エリックにとっては毎日が夢のようだ。だから、いつの間にかエリックがユージーンをで想うようになったのも、自然な流れと言えよう。これが夢ならどうか永遠に覚めないでくれ。エリックは強く強く、そう願った。それ程までにエリックの新しい生活は満たされていたのだ。
 時折ユージーンの家族に無理矢理連れ出され、その度エリックはあんな出来損ないよりも俺に仕えろ。私の方がお前に相応しい。こちらに着けばなんでも与えてやるぞ。等と言われ自分のものにならないと承知しないと折檻を受けたが、とんでもない! どんなに豪華な食事も煌びやかな服も素晴らしい宝物でさえ、エリックからしてみれば受け取る代わりにユージーンの傍に居られなくなるという事実だけでただのガラクタに成り下がる。ユージーンの隣にさえ居られるのなら、エリックは例えどんなボロを着て泥水を啜り暴力を振るわれ続ける生活だろうとも、手放すつもりはサラサラなかった。だって、エリックにとってこの世で一番価値があるのは、ユージーンその人なのだから。それ程までに、エリックはユージーンという少年に夢中になっていた。
 そしてある日、エリックを益々幸福の絶頂に押し上げる出来事が起きる。エリックとユージーンは毎日同じベッドで一緒に寝ていた。普通なら考えられない事だ。主人と奴隷が同衾するなんて、性奴隷でもない限り全く有り得ない。しかし、その常識を知らない訳でもないのに、ユージーンはエリックと一緒の寝具で寝たがった。本人曰く、少しでも長く近い場所でエリックを感じていたいのだという。可愛らしく照れながら控えめにそう強請られると、元々ユージーンを甘やかしたくてその口実を探してばかりいるエリックに断れる筈もない。そんな訳で、ユージーンが眠りにつくまで優しく背中を叩いてやるのが、エリックの日課になっていた。
 その夜もエリックは無事ユージーンを寝かしつけ、柔らかい髪の毛を手櫛で何度か梳いてやってから、自分も眠りについたのだが……。ふと、隣でユージーンが何かゴソゴソと動く気配でまた目を覚ました。どうしたのだろう、具合でも悪くなったのだろうか? 心配したエリックは枕元のランプをつけてからユージーンの方を向く。
「ユージーン様。どうかしたのですか?」
「エ、エリック……。その……」
 矢張りおかしい。いつもはあんなにも一生懸命エリックの目を見詰め返すユージーンが、顔を伏せてこちらを向こうともしないのだ。不安を覚えたエリックは、優しくユージーンの背中を摩る。それにユージーンはモジモジと膝を擦り合わせて、ノロノロとゆっくりとではあるものの何とか顔を上げてこちらを向いてくれたのだが……。ああ、なんという事だろう。その瞳には、薄ら涙の膜が張っているではないか! エリックはそれにギョッとして酷く狼狽え、形振り構わずユージーンの不調をどうにかしようとして……そこでふと、気がついた。ランプのほの明かりの下でもハッキリと分かる程、ユージーンの顔が赤く火照っている。それもただ熱に浮かされているのではなく、明らかにで。恐る恐る、エリックはユージーンを抱き上げて自分の足の上に座らせてやった。その僅かな刺激にすら、ユージーンは肩を震わせ熱っぽい吐息を漏らす。
「エリック……。粗相をして下着を白い粘液で汚してしまったんだ。こんなの見た事ない。まさか、何か悪いことが起きてるんじゃ……。エリック。僕は病気なのか?」
 ああ、なんという事だろう。エリックは昂る感情に背筋を震わせた。どうやらエリックの宝物は、この度目出度く精通を迎えたらしい。しかし、可哀想に知識がなく脅えている。自分が病気なんじゃないかと疑って狼狽しているのだ。とんでもない、これはむしろ喜ぶべき事なのに!
 エリックの腕の中で彼に身を任せハフハフと息をしながら涙目で見上げてくるユージーン。その姿は生来の美しさも相まって、まだ子供だとは思えない程扇情的だ。普段清純な人が性的に乱れるとこうまで魅力的になるのか。エリックはユージーンの色香にクラクラしながらそんな事を考えた。ユージーンを眺めているだけなのに、エリックの下半身に徐々に熱が溜まり始める。
 ここでエリックの中に、ある邪な考えが沸き起こった。この美しい人を俺の手で乱せたら……この手でこの人の汚れない心身に欲望を教えられたら、それはどんなに素晴らしい事なんだろうか、と。エリックはただの家内奴隷だ。ユージーンに対する性の手解きは許されていない。一族が役立たずのユージーンを今でも生かしておいているのは、将来的に身綺麗なままどこかに嫁がせ縁を繋ぐ役割を担わせる為だ。万が一にでもこんな奴隷に純潔を散らされては、その価値は半減するどころの騒ぎではない。エリックがでユージーンに指一本でも触れるのは許されず、実行してしまえば忽ち惨たらしい死がエリックを飲み込むだろう。
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「違いますよ、ユージーン様。それは精通と言って、あなたが大人の仲間入りをした証です。もうこんな風に寝ている間に下着を汚してしまわないよう、俺が対策を教えて差し上げます」
 抱き上げて足の上に乗せたユージーンをユラユラ揺らしてあやしていたエリックは、ユージーンの体を抱き直しその下履きに手を伸ばす。素早い動きでユージーンの下着の中に手を滑り込ませ、探り当てた彼の未成熟なペニスにエリックは指を絡めた。
「ぁっ……!? な、何……?」
「シー……。大丈夫。ほら、俺の指に意識を集中してください」
 驚きで暴れる体を優しく押え付ける。最初は溢れる粘液を塗り広げるように、先端を指先で優しくグリグリと。これにユージーンが甘い鳴き声を上げて身悶えすれば、巻き付けた残りの指で全体を擦り上げる。被った皮を丁寧に剥いてやって、剥き出しになった敏感な部分を柔らかく擽ってやれば、それだけでユージーンは子犬のような甲高い嬌声を上げて呆気なく果てた。
 ユージーンの吐き出した精液が、熱くエリックの手を汚す。しかし、エリックは全くそれを不快には思わなかった。むしろユージーンの熱を直に手で感じて、エリックは自らのペニスを完全に勃起させてしまっていたくらいだ。エリックのペニスが痛いくらいに張り詰めている。耳元に聞こえた荒いユージーンの息遣い。胸に凭れながら身悶えする小さな体の動き。手の中でビクビクと痙攣して熱を吐き出すペニスの脈動。その一つ一つに、エリックは堪らない程興奮したのだ。けれど、エリックは自らの欲をユージーンにぶつけようとは思っていなかった。エリックにとってユージーンは何より可愛く大切な守るべき主人だ。多少をする事はしても、決して好き勝手自らの獣欲をぶつけていい相手ではない。……そう思っていた。あの時までは。
「ユージーン様、よくできましたね。これからは定期的にこうやって欲を発散すれば、もう下着を汚す事はない筈です」
 体の内で暴れ狂う衝動を何とか押さえ込み、エリックはユージーンに彼の好きな蕩けるような笑みを向け、溢れる愛情を込めて恭しく額にキスをした。初体験で疲れているであろうユージーンを労りたかったのだ。張り詰めた己のペニスは気になったが、ユージーンの為を思えば何とか耐えられる。この子を寝かしつけたら、別室で適当に処理してしまおう。そう思って、エリックはユージーンを寝かしつけようとしたのだが……。
「エリックは? しなくていいの?」
「へ? ……ユージーン様、何を」
「だって、……。エリックもした方がいいんじゃない……?」
 、と言ってユージーンが手を伸ばす。その細くて美しい指が、信じられない事に布越しにエリックの固くなったペニスに触れた。まさか、気がついていたなんて。予想だにしなかったこの動きに、エリックはビクリと体を跳ねさせる。
「わっ。ご、ごめん。痛かった?」
「いえ、そういう訳では……」
「それなら……もっと触ってもいい?」
「ユ、ユージーン様。何を」
「さっきしてもらったの、凄く気持ちよかった。固くなったここを擦ると、気持ちいいんだよね? エリックのも固くなってる。今度は僕がエリックを気持ちよくさせてあげたい」
「しかし」
「ねぇ、駄目? お願い」
 なんという事だろう。まさかこんな事が起ころうとは。ユージーンに性的に触れられただけでなく、ユージーンがエリックに性的に触れてくれるなんて。自分は都合のいい夢を見てるんじゃないだろうな? エリックは半ば本気でそんな疑いを持った程、目の前の幸運がにわかには信じられなかった。しかし、実際ユージーンの手は優しくエリックのペニスを撫でていて、何かお強請りする時いつもそうするように上目遣いでエリックを見上げている。夢ではない。全て現実なのだ。確かに、ユージーンはエリックを求めてくれている。この事実はエリックを有頂天にさせた。痺れるような喜びが腹の底から湧いてきて、背筋を駆け上がり全身を満たす。
「……分かりました。でも、奴隷の俺が一方的にユージーン様から施しを受けるわけにはいきません。ですので、一緒に楽しみましょう」
 ね? と微笑みかければ初心なユージーンはそれだけで顔を真っ赤にして、言葉もなく頷く。ユージーンから了承を取れて、エリックはもうその場で踊り出したいくらいに嬉しかった。エリックの胴体に背中を預けているユージーンの体を、向き合う形になるよう座り直させる。背中をそれまで凭れていたエリックの体ではなく枕に預けさせられたユージーンは少し不安そうだったが、文句は言わない。それをいい事にエリックはユージーンの脚を開いてその間に己の体を割り込ませ、自分の腿の上にユージーンの足を乗せて勝手に閉じないように引っ掛けるようにして固定した。お互いの股間が擦れあって、相手の持つ確かな熱と固さがそれぞれに伝わる。
「エリック……。これ、恥ずかしい……」
「ご安心ください。直に気持ちよくなって、恥ずかしさなんて吹き飛びますよ」
 ユージーンが恥じらって頬染めるのを心底愛らしく思いながら、エリックはユージーンの下履を緩め、下着を下ろさせた。これでユージーンの可愛らしい性器が丸見えだ。扇情的なその光景に、エリックは自らの胸の内で心臓が小鳥みたいに暴れまわるのを感じた。エリックは自らも下着を下ろしてこれ以上ないくらいガチガチになって窮屈な思いをしている己のペニスを解放する。乏しい明かりの中で濃い陰影を纏うエリックのペニスに、ユージーンの目は釘付けだ。
 ユージーンのものと比べてあまりにもグロテスクな己のペニスに、エリックは一瞬だけユージーンが怖気付いてしまったらどうしようかと心配したが、その心配は杞憂に終わった。というのもエリックのペニスを見詰めるユージーンが動かないので、不安を覚えたエリックはユージーンの様子を見ようとソッと頬に触れたのだが……。ユージーンはその刺激に大きく肩を跳ねさせた。反射で下からエリックの事を見上げたユージーンの顔は興奮で上気し、目には明らかな期待の光が宿っている。予想外の好感触に驚いて固まるエリックに、ユージーンは切なげに眉を寄せ遠慮がちに手を伸ばし、エリックの服をキュッと軽く掴むと切なげな声でこう言った。
「エリック。これで、二人共気持ちよくなれる?」
「っ、え、ええ、勿論ですとも」
 そのユージーンの様子に、エリックは一瞬で全てを察し理解したのだ。ユージーンはエリックのペニスを見て自分の物とはあまりに違うその見た目に恐怖したのではない。生まれて初めて目の当たりにする成熟した雄の象徴に、ユージーンは幼いながらもとして、興奮したのだと。勿論、この時のユージーンには男同士でのセックスの知識だとか、受け入れる側がどうとか以前に、固くなったペニスを擦る以外の性的接触の知識は全くない。それでも、ユージーンは本能的に理解したのだ。で、なのだと。そして、ユージーンが本能でそう感じたように、エリックもユージーンの心中を本能で察し、今目の前に居るこの少年が爪先から頭のてっぺんに至るまで、全て自分のものなのだと理解した。
 強烈な支配欲に突き動かされ、エリックはユージーンのペニスと自らのペニスを纏めて大きな手で包み、一度に擦り上げ刺激をし始める。突如始まったこの行為にユージーンは腰を揺らして甘く悶えた。片手でシーツを掴み、反対の手ははしたない声が出ないよう必死になって口元を抑える。しかし、それで逆に抑えた喘ぎ声が漏れる事になりエリックを興奮させたのをユージーンは知らない。
 エリックが手で二人分のペニスを擦るだけでなく、自らの腰も動かして刺激し始めた。ついでに抑えた喘ぎ声も可愛らしいが我慢し過ぎて可愛い唇に傷ができたら嫌なので、エリックは手を伸ばして口元を抑えるユージーンの手を取る。そのまま掌を合わせるようにして重ね、指を絡めてシーツの上に縫い留めた。声が抑えられなくなると自らの喘ぎに煽られて我慢が効かなくなったのか、ユージーンはより一層善がりながら感じ始める。腰をカクカク揺らしながらあられもない声で鳴く愛しい少年の姿に、エリックは愉悦で目を細めた。
 本能に駆り立てられるがまま、エリックはユージーンの唇に己の唇を寄せ、ユージーンもそれに応えて顔を近づける。チュッ、チュッ、と最初は唇の表面を合わせるだけだったキスも、エリックが舌を伸ばして半開きのユージーンの唇から中に潜り込めば、直ぐに粘膜同士を接触させる深いものに掏り変わった。淫らな水音が二人の口元と下半身から聞こえてくる。あぷあぷと慣れないキスに溺れるユージーンを可愛らしく思いながら、拙いながらもエリックの舌を吸う仕草に煽られエリックは互いに限界が近づいている事を悟った。
 より一層二人のペニスを包む手筒の隙間を狭め、腰の動きも大きくする。過ぎた快感で反射的にユージーンの腰が逃げればそれ以上に距離を詰め、脚が閉じそうになれば体格差を活かして益々大股開きさせた。エリックの大きな体に覆い被さられ、ユージーンの体はパッと見、宙に浮いた足しか見えないくらいだ。キュウキュウと苦しいくらいに抱き締められ、それでもユージーンは喜びと快感に胸を高鳴らせていた。感じ切って浮かんだ涙に潤んだ青い瞳は本当に美しく、蕩け切った様子のユージーンにエリックは益々責め立てる手管を激しくさせ、そして。
「っ、~~────!」
「んん……!」
 ユージーンが目を見開いて体を大きく痙攣させると同時に、口から飛び出した嬌声は全てエリックに飲み込まれた。エリックも同時に低く唸って、彼の手を二人分の白濁が汚していく。体がバラバラになってしまいそうな程の衝撃を、ユージーンはエリックに縋り付く事で、エリックはユージーンを抱き締める事でやり過ごした。
 とても満たされた、素晴らしい触れ合いだ。あまりの事に絶頂に慣れていないユージーンは、快感の運ぶままに意識がフワフワと浮かび上がって、結局そのまま意識を飛ばし目を瞑ってしまった。これにエリックは慌てたが、直ぐにユージーンがあまりの気持ちよさに気絶しただけだと理解してホッと息を吐く。意識を飛ばす程よくしてあげられたのかと思うと、エリックの方も満足感がより深まった。
 エリックにとって世界で一番愛しくて、何よりかけがえのない宝物、ユージーン。エリックは最初こそ彼に何も求めないつもりだったが、もう違う。肌を重ねた事で、エリックは貪欲になっていた。スヤスヤと眠るユージーンの頬にソッと優しい口付けを落としてから、エリックは静かに誓った。いつか必ず、この愛しい人の身も心も自分のものにする、自分がこの人の虜となったように、自分もこの人を虜にしてみせる、と。エリックはもう、ユージーンなしの人生なんてとてもじゃないが考えられなかった。こんこんと眠り続けるユージーンと離れがたく思いながらも、彼の身を清める為にエリックはベッドから離れる。その頭の中はもう、どうやってユージーンを名実共に自分のものにするかという考えで一杯だった。
 その後、エリックが可愛いユージーンに我慢ができず最後まで手を出してしまうのも、ユージーンの嫁ぎ先が決まり大いに焦るのも、策略を巡らせ無事ユージーンを手中に収め天にも昇るような気持ちで毎日を過ごすのも……。皆さんご存知の通り。途中多少の擦れ違いもあったが、それも無事、乗り越えてしまえば後からそんな事もあったねと思い返す思い出の一つになる。思えばエリックの人生はユージーンと出会った瞬間に、ユージーンの人生はエリックと出会った瞬間に、始まったのだろう。今日も二人はどこか平和な場所で、幸せ一杯に過ごしている。
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