伝えたい、伝えられない。

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24.プレゼント

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 真緒の誕生日は平日だ。
 帰りに会おうと思ったが、現場が長引き、二人で会うことはできなかった。会社で渡してもいいのだろうが、出来れば二人でいるときに渡したい物だったのだ。
 翌朝会った時に、
「プレゼントがあるんだ。今度の休み、会った時に渡すのでもいい? 本当は今日渡したかったけど……」
『ありがとうございます』
 真緒は、楽しみにしていますね、と笑う。
(真緒ちゃん、喜んでくれるかな……)
 昨日は自宅で祝ってもらったようだ。

 日曜日。
 創平の部屋に来る真緒が来てくれた。
「今日は真緒ちゃんの行きたい所、行こう」
 祝いの食事をしに行こう、と彼女を誘う。
「その前に」
 プレゼントを渡すことにした。
『開けてもいいですか』
「もちろん」
 固い紙袋を手渡すと、彼女は頬を紅潮させてその中に手を入れる。
 ラッピングされた小さな箱を取り出し、丁寧に開封した。
『わあ……』
 ジュエリーケースを手に取り、そっと開けた。
『指輪、ですね』
 それを見て真緒は驚いた。
 シンプルなシルバーリングだ。
 正直高すぎず安すぎず、の普通の指輪だった。
「本当の……ちゃんとした指輪はまだ先で、今はこれが俺の精一杯なんだけど……」
『嬉しいです……』
 ありがとうございます、と真緒はとても嬉しそうだった。
 真緒の右手の薬指にはめてやると、ぴったりだった。
(よかった……)
 山岡と、山岡の妻の里佳子の協力を得て、指輪のサイズを調べたのだ。里佳子に会うために真緒が来訪した際、あの手この手で調べてくれたらしい。
 指輪を贈ったらどうかという提案も、山岡の意見だ。
 二人には頭が上がらない創平だった。
「で、普段はつけられないだろうから、ネックレスにできるようにチェーンも用意してるから」
 創平は袋の中にチェーンが入っていることを教えた。暗に、普段から着けてほしいということを伝えたのだった。
 真緒は本当に嬉しそうだ。
『ありがとうございます』
 彼女は右手を見て、口元を緩めている。
「気に入ってもらえそう?」
『はい!』
 何もいらないとは言っていたが、贈ってよかったと感じた。
「真緒ちゃん」
『はい』
 不意打ちで真緒の唇にキスをする。
『!』
「これからもよろしくな」
 笑うと、真緒の瞳が潤み、彼女は頷いてくれた。
 可愛らしくて、また唇に触れたくなる。
 そう思うと我慢が出来ず、また触れてしまった。
 彼女の頬を挟んで貪る。
 背伸びをして真緒が、創平のキスを受け止めた。
 部屋にはリップ音だけが卑猥に響く。
 真緒は創平の身体に腕を回し、乱暴なキスに耐えるよう抱きしめてきた。
「その顔エロいな」
『!?』
 真緒を抱き上げ、ベッドに落とし、身体を倒した。
「そんな顔したら、止められなくなるだろ」
 貪ることを止めず、激しく真緒の唇を求め続けた。
「……ぁ……は……」
 真緒の口から、声が洩れた。
 自然な声のようだ。創平が一緒に過ごしてきた女とは違う声の洩れ方だ。真緒の声帯は、未発達で上手く声が出ないということだが、何か耐えきれないことがあると発声できるのかもしれないと感じた。
(セックスの時は……どうなんだろう……)
 声を聞いてみたい、と不埒なことを思ってしまった。
「可愛い……」
 潤んだ瞳で見られると、欲望にかられ、抑えきれなくなってしまいそうだ。
 真緒の両腕を押さえつけて覆い被さり、首筋に顔を埋める。真緒の肌の柔らかさや髪の香りが鼻孔を擽り、今にも爆発してしまいそうになる。
 押さえつけていた右手を、そっと真緒の胸へと移動させた。膨らみをゆっくりと押さえると、その弾力に、大きさを想像してしまっていた。
(結構あるな……)
 そのまま右手を、やわやわと動かし続ける。
 己の身体の欲が一番よく現れた場所は、次第に膨らみ、真緒の腹に当たっていた。
(やべ……)
 ちゅっ、と軽くキスをして身体を起こし、真緒の上体も起こしてやった。
「今日はここまでにしとかないとな。真緒ちゃんの誕生日祝いしたいし」
(我慢できずに襲いそうになるわ……)
 よくここで我慢したなと我ながら思ってしまう。
 山岡は一線を越えてしまえと発破をかけてきたが、やはりそれは出来なかった。
「飯、食いに行くか」
 真緒の髪の乱れを直してやり、手を引いて立たせた。
「あ、それと……これ」
 創平はポケットから、クマのキーホルダーのついた鍵を出した。真緒の好きなキャラクターのクマだ。
「この部屋の鍵」
『え……』
「渡してなかったなと思って」
 両掌で受け取った真緒は、創平を見上げた。
「だいだい俺が出迎えることが多いとは思うけど、俺が留守にしてる時は、これで入って待っててくれたらいいよ」
『ありがとうございます』
「……やましいもんはない、はずだし」
(いやDVDまだあったかも……片付けとこ)
 真緒はくすっと笑った。
『ありがとうございます』
 真緒がとても喜んでくれたことに、創平も大きく安堵したのだった。

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