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25.幼馴染
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『あのう……今度、友達がこっちに帰って来た時に、松浦さんに会いたいっていうんですけど……』
真緒が、お伺いを立ててきた。
「うん、いいよ」
森野圭太と柴村要。
真緒の幼なじみで親友の二人だという。
名前だけでは、どちらも男性かと思っていたが、要は女性だった。
(無用の心配だったか……?)
圭太と要は、幼稚園の頃からずっと一緒らしい。
高校は要も一緒だったが、圭太は別の高校に通ったと教えてくれた。
真緒が行きたい高校には、心配した要が同じ学校に入学した。
圭太はサッカー部で、強豪校に進学し、バスケ部だった要は、二人の通った高校でプレーをしたという。
「あっ、でも仕方なく同じ高校にしたとかではなく、真緒のことが心配なのはもちろんなんですけど、バスケの強い高校だったんですよ」
要が言うと、真緒も頷いた。
「母校の二学年上に車椅子バスケの選手もいて、ハンデのある生徒にも理解があったんです。それで真緒と同じ高校にしたんです」
「そう、なんだ……」
今は二人とも大学四年生で、それぞれ別の大学に通い、就職も決まっているとのことだった。
──洋食屋で、その二人を紹介された創平は、眩しさに目を背けそうになった。
夏休みを利用して、帰省してきた二人と会っている。
(真緒ちゃんの友達、イケメンと美女……俺、なんか恥ずかしい)
だが、感じのいい二人で、創平も安心した。
(真緒ちゃんの小さい頃からの親友だもんな)
二人とも背が高く、圭太のほうは創平よりも背丈があるようだ。要のほうも、創平を下回るものの、女性にしては背が高く、おそらく日本人男性の平均身長くらいに見える。
理解を持って接してくれている二人だと、真緒が先日話してくれた。
(もしかして……初恋の……男の子、とか……)
以前山岡が言っていたことをふと思い出した、
「初恋の人のことを思ってたらしいし」
いつだったか、そんな話をしていた記憶があった。
(圭太君って子が、初恋の人……?)
睨んでいると思われないように、創平は圭太を見やった。
『松浦さん、二人は、恋人なんです』
「えっと……、恋人? こちらの二人?」
『はい』
圭太と要が恋人同士だという。
(そうなんだ)
真緒は、二人が相思相愛であることに気づいていて、特に恋愛ごとに敏感になる中学生の辺りで確信を持ったらしい。
高校もきっと同じ高校に進学したかったはずなのに、と真緒が言ったようで、
「真緒が、自分が邪魔をしてるんじゃないか、って言い出して……」
要は悲しそうな表情を見せた。
創平は、なんとなく想像がついてしまった。
「自分がいなかったらよかったのに、なんて言い出して」
圭太も困った顔をしながら、二人の女性を見やった。
「真緒の後押しもあって、付き合うことになったんですけど」
圭太と要が顔を見合わせて笑い、真緒はそれを見て嬉しそうだった。
(まぶしっ……)
真緒が圭太を好きだったのではないのだろうか、と思った。
(初恋の相手を思ってる……って)
山岡が言っていたことを思い出す。
(けど、今は俺の……恋人……だしな)
焦りはあるものの、考えないでおくことにした。きっと、そんなことは杞憂だ。
「あの時の王子様なんだっけ?」
圭太の言葉に、
『しっ……』
真緒は首を振った。
創平は何のことだろうときょとんとした。
(いや、待て。やっぱ真緒ちゃん、三角関係だったとか……。あぶれて俺になったとか……?)
二人が相思相愛で自分が邪魔をしていた、と先程は言っていたが、やはり気になってしまていた。
(考えるな、考えるな)
せっかくの場を盛り下げてはいけない、と創平は自分の考えは置いておくことにした。
「自分はCODAなんです」
圭太は言った。
「こーだ?」
何なのかがわからず、創平は鸚鵡返しに言う。
「自分の両親は聾唖なんです。両親とも、耳が聞こえなくて話せない。目は見えます。そんな二人の親から生まれた、聞こえる子供のことを《CODA》って言うんです」
圭太はそう説明した。
「自分は気がついたら手話を使っていましたし、真緒と出会った時にも使えてたんです」
「わたしはコーダではないですけど、母が支援学校の教師だったので、手話は教わっていました。子供の頃は見よう見まねでしたけども」
要も同じように手話を使いながら言った。
そういえば真緒の父親が言っていた。
「私達は運がよかったんですよ」
と。
真緒の幼馴染二人にはたくさん助けてもらった、その親御さんにもたくさん助けてもらった、と話していたことを思い出す。きっと、この圭太と要、そして彼らの両親のことなのだろうと思われた。
真緒が純真無垢なのは、彼らのような人たちに囲まれていたからなのだ。真緒の両親も愛に溢れた人たちだと思ったが、圭太たちも同様だ。
(真緒ちゃんも周りの人たちも……立派だな)
つくづく自分の性格を恨み、家族が恨めしかった。
四人での食事を終え、真緒と創平はアパートへ戻った。
『二人は松浦さんに会いたがっていたので、今日は嬉しかったです』
「俺は、たいした人間じゃないけど……」
『そんなこと……! 圭ちゃんも要ちゃんも、わたしに恋人が出来たってきいて、すごく喜んでくれてたんですよ』
「真緒ちゃんいい子だから、友達もいい子たちだな。真緒ちゃんのまわりって、いい人ばっかりだよ」
『はい、わたしは幸せ者です』
真緒は嬉しそうに笑った。
素直だ。
(可愛い……)
「おいで」
創平はベッドに座り、真緒を手招きした。
ぎゅうっと抱き締め、キスをする。
「俺も、幸せ者だよなあ……」
二人で昼寝をした。
真緒が、お伺いを立ててきた。
「うん、いいよ」
森野圭太と柴村要。
真緒の幼なじみで親友の二人だという。
名前だけでは、どちらも男性かと思っていたが、要は女性だった。
(無用の心配だったか……?)
圭太と要は、幼稚園の頃からずっと一緒らしい。
高校は要も一緒だったが、圭太は別の高校に通ったと教えてくれた。
真緒が行きたい高校には、心配した要が同じ学校に入学した。
圭太はサッカー部で、強豪校に進学し、バスケ部だった要は、二人の通った高校でプレーをしたという。
「あっ、でも仕方なく同じ高校にしたとかではなく、真緒のことが心配なのはもちろんなんですけど、バスケの強い高校だったんですよ」
要が言うと、真緒も頷いた。
「母校の二学年上に車椅子バスケの選手もいて、ハンデのある生徒にも理解があったんです。それで真緒と同じ高校にしたんです」
「そう、なんだ……」
今は二人とも大学四年生で、それぞれ別の大学に通い、就職も決まっているとのことだった。
──洋食屋で、その二人を紹介された創平は、眩しさに目を背けそうになった。
夏休みを利用して、帰省してきた二人と会っている。
(真緒ちゃんの友達、イケメンと美女……俺、なんか恥ずかしい)
だが、感じのいい二人で、創平も安心した。
(真緒ちゃんの小さい頃からの親友だもんな)
二人とも背が高く、圭太のほうは創平よりも背丈があるようだ。要のほうも、創平を下回るものの、女性にしては背が高く、おそらく日本人男性の平均身長くらいに見える。
理解を持って接してくれている二人だと、真緒が先日話してくれた。
(もしかして……初恋の……男の子、とか……)
以前山岡が言っていたことをふと思い出した、
「初恋の人のことを思ってたらしいし」
いつだったか、そんな話をしていた記憶があった。
(圭太君って子が、初恋の人……?)
睨んでいると思われないように、創平は圭太を見やった。
『松浦さん、二人は、恋人なんです』
「えっと……、恋人? こちらの二人?」
『はい』
圭太と要が恋人同士だという。
(そうなんだ)
真緒は、二人が相思相愛であることに気づいていて、特に恋愛ごとに敏感になる中学生の辺りで確信を持ったらしい。
高校もきっと同じ高校に進学したかったはずなのに、と真緒が言ったようで、
「真緒が、自分が邪魔をしてるんじゃないか、って言い出して……」
要は悲しそうな表情を見せた。
創平は、なんとなく想像がついてしまった。
「自分がいなかったらよかったのに、なんて言い出して」
圭太も困った顔をしながら、二人の女性を見やった。
「真緒の後押しもあって、付き合うことになったんですけど」
圭太と要が顔を見合わせて笑い、真緒はそれを見て嬉しそうだった。
(まぶしっ……)
真緒が圭太を好きだったのではないのだろうか、と思った。
(初恋の相手を思ってる……って)
山岡が言っていたことを思い出す。
(けど、今は俺の……恋人……だしな)
焦りはあるものの、考えないでおくことにした。きっと、そんなことは杞憂だ。
「あの時の王子様なんだっけ?」
圭太の言葉に、
『しっ……』
真緒は首を振った。
創平は何のことだろうときょとんとした。
(いや、待て。やっぱ真緒ちゃん、三角関係だったとか……。あぶれて俺になったとか……?)
二人が相思相愛で自分が邪魔をしていた、と先程は言っていたが、やはり気になってしまていた。
(考えるな、考えるな)
せっかくの場を盛り下げてはいけない、と創平は自分の考えは置いておくことにした。
「自分はCODAなんです」
圭太は言った。
「こーだ?」
何なのかがわからず、創平は鸚鵡返しに言う。
「自分の両親は聾唖なんです。両親とも、耳が聞こえなくて話せない。目は見えます。そんな二人の親から生まれた、聞こえる子供のことを《CODA》って言うんです」
圭太はそう説明した。
「自分は気がついたら手話を使っていましたし、真緒と出会った時にも使えてたんです」
「わたしはコーダではないですけど、母が支援学校の教師だったので、手話は教わっていました。子供の頃は見よう見まねでしたけども」
要も同じように手話を使いながら言った。
そういえば真緒の父親が言っていた。
「私達は運がよかったんですよ」
と。
真緒の幼馴染二人にはたくさん助けてもらった、その親御さんにもたくさん助けてもらった、と話していたことを思い出す。きっと、この圭太と要、そして彼らの両親のことなのだろうと思われた。
真緒が純真無垢なのは、彼らのような人たちに囲まれていたからなのだ。真緒の両親も愛に溢れた人たちだと思ったが、圭太たちも同様だ。
(真緒ちゃんも周りの人たちも……立派だな)
つくづく自分の性格を恨み、家族が恨めしかった。
四人での食事を終え、真緒と創平はアパートへ戻った。
『二人は松浦さんに会いたがっていたので、今日は嬉しかったです』
「俺は、たいした人間じゃないけど……」
『そんなこと……! 圭ちゃんも要ちゃんも、わたしに恋人が出来たってきいて、すごく喜んでくれてたんですよ』
「真緒ちゃんいい子だから、友達もいい子たちだな。真緒ちゃんのまわりって、いい人ばっかりだよ」
『はい、わたしは幸せ者です』
真緒は嬉しそうに笑った。
素直だ。
(可愛い……)
「おいで」
創平はベッドに座り、真緒を手招きした。
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「俺も、幸せ者だよなあ……」
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