大人の恋愛の始め方

文字の大きさ
上 下
65 / 222
【第1部】13.リセット

しおりを挟む
***

 電話がかかって来た。
(レイナさんだ)
 レイナからの電話に、自宅でのんびりしていた聡子はすぐに出た。
「こんばんは。お疲れ様です」
『ミヅキ、今いい?』
 勤務中のようで、後ろがガヤガヤしている。が、すぐに静かになった。少し人の声がうるが、外に出た様子だ。
「はい、いいですよ」
『さっきね、店に川村さんとあの人が今日時間差で来たの』
 あの人──トモのことだと察した。
 川村は聡子が辞めたことを知っても、時折店を尋ねて来ていたようだ。辞めたと知って、ショックを受けたようだが、聡子の情報がないかと聞き出そうとしているらしかった。聡子に本気だと言っていたくらいだ、諦めきれないのかもしれない。
『まあ、そんな感じ。適当に遇っとくね』
「すみません」
『でも、もう一人のほうもね……』
 トモのことだ。
『最近顔出して、ミヅキが辞めたこと知ってみんなに連絡先知らないかってきいてまわってるの』
 トモのほうも、先月に聡子が店を辞めたことを知って、あれこれ探っているらしかった。
 が、今日は裕美ママがトモを呼び止めたという。
「ママが?」
『うん』


「影山さん、あなたミヅキと連絡取ってないんですか?」
「ああ……取っていない。少し前電話をかけたがつながらなかった。メッセージのIDも、電話番号も変えたみたいだ。……ミヅキは、あの会社役員とどうにかなったのか?」
「そんなこと教える義理はありません。元従業員とはいえ個人情報ですから」
「そうか……やっぱりつきあってんのか」
 前一緒にいるところ見たんだよな、とトモは呟いた。
「交際してるならあの方が店に来るわけないでしょう」
 とママが言う。
「あの方はミヅキに会いたい気持ちでこうして通い続けてるんです。そういうあなたはどうなんですか?」
「俺?」
「どうしてミヅキを訪ねてきたの? ……というより、ミヅキに何したの。以前、ミヅキは酔いつぶれたの」
「え、あいつ……酒飲めないんじゃ……」
「そう、あの子はお酒が飲めない。そんな子が、飲んで酔いつぶれて醜態さらして……。それからはあなたは店に来なくった。きっとあなたに関係してると思ったけど、何も言わなかった。あの子は一生懸命働いてくれたから。ミヅキが店を辞めるって言ったのも、あなたが関係してるんでしょう。あの子は家庭の事情に目処がついたと言っていたけど」
「違う……」
 トモは首を振った。
 今にも胸ぐらを掴んできそうなママを見下ろし、
「違うと、思います。店を辞めたことと自分とは関係がないと……」
 力なく言った。
「ちょっと来なさい」
 ママはトモを部屋に連れて行った。
「何があったのかはもう訊きませんけど。でも、ミヅキを傷つけたのなら許しません」
 ママはトモに詰め寄った。
「神崎会長のお身内の方だからと思ってましたけど、場合に寄ってはタダじゃすみませんからね」
「……ミヅキは、あいつと付き合ってないんだな」
「はあ!?」
 ママは手元のグラスの水をトモの頭からぶっかけた。
「あんたは出禁だよ! 佳祐、塩持っといで!」
「…………」
 雫が滴り落ちていくが、トモは立ち尽くすだけだ。
「ミヅキにはあんたなんて相応しくない。ミヅキにはもっといい男がいるよ。ミヅキは真面目で賢い子なの、あんたみたいなバカにはもったいないわ!」



『──ってことがあったの』
「そう、なん、ですか……」
 もう関係ないですから、と聡子は言う。
『ねえ、あの人のほうは、ついさっきお店出たみたい。今なら引き留められるよ?』
「ほんとに、もうわたしには関係ありません」
『ミヅキ、まだ影山さんのこと好きでしょ? ミヅキのこと探してるよ』
(どうせセックスの相手しろって言いたいんだわ)
 その時、おいこらちょっと電話貸せ、という声が聞こえた。
『ちょっ、なっ、いきなり何ですかっ!?』
「レイナさん?」
 レイナからの電話にガタガタという雑音が混じった。
 誰かと揉み合いになっているようだ。
「レイナさん!? 大丈夫ですか!?」
『おい、ミヅキか? 今どこだ』
「えっ!?」
『俺だ。わかるか?」
 ミヅキ、という名前を聞きつけたトモが、レイナの電話を奪い取ったのだ。まだ近くにいたらしい。
『ミヅキ、おまえに、会いたい』
「え……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

契約妻ですが極甘御曹司の執愛に溺れそうです

冬野まゆ
恋愛
経営難に陥った実家の酒造を救うため、最悪の縁談を受けてしまったOLの千春。そんな彼女を助けてくれたのは、密かに思いを寄せていた大企業の御曹司・涼弥だった。結婚に関する面倒事を避けたい彼から、援助と引き換えの契約結婚を提案された千春は、藁にも縋る思いでそれを了承する。しかし旧知の仲とはいえ、本来なら結ばれるはずのない雲の上の人。たとえ愛されなくても彼の良き妻になろうと決意する千春だったが……「可愛い千春。もっと俺のことだけ考えて」いざ始まった新婚生活は至れり尽くせりの溺愛の日々で!? 拗らせ両片思い夫婦の、じれじれすれ違いラブ!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...