大人の恋愛の始め方

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【第1部】7.誘惑

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 トモは聡子の手を強く引き、ずんずん歩いていく。
 どこに行くのだと思う間もなく、彼は聡子の手を引いたまま、近くのホテルに入った。
 ぐいぐいと引かれ、しかし聡子は抵抗すること出来ず、ただトモに付いて行った。
 力いっぱい掴まれ逃げることも抵抗することも出来なかったのだ。痛いとも離せとも言えず、一つの部屋に入ると、部屋の大きなベッドに力一杯たたきつけられた。
 初めて見るホテルの内部に感動する間もなく、何が何だかわけがわからないでいた。
 叩きつけられたかと思うと、トモに馬乗りにされ、身体は硬直していた。
「おまえ、ここがどういう場所かわかってんのか」
「えと……わか、わかります……」
 聡子は間抜けな返答をした。
「おまえ、今から俺に何されんのかわかってねえのか」
「えっと……? 何かする? つもりなんでしょうか」
(ここはラブホテルで、男女がいうことをする場所で、トモさんとここに入って、今ベッドの上ということは……トモさんはわたしにそういうことをしようとしているってこと……)
 顎を掴まれ、口がゆがむ。
 うまく応えられないでいると、トモの顔が近づいてきた。
(いやっ……)
 ぎゅっと目を瞑る。
 唇を押しつけられ、貪られ、聡子は息をすることができずもがいた。
「下心なしでおまえの店に通ってると思ってんのか」
 ブラウスの上から両胸をぎゅっと掴まれ、聡子はびくりとした。
「でも、おまえを誘うわけにはいかねえと理性を働かせてたんだぞ。……けどな、これはおまえが誘ったんだからな」
「…………」
(なんだ、下心……あったんだ……)
 いきなりのことに驚いた。
(ガキだってよく言われたし)
 しかし思い返せば二十歳になってからは言われていない。
(いい女だって、褒めてくれてた)
 それが下心だったのかなとぼんやり思った。
 ぼんやり思う一方で、何度も胸を揉まれ、妙な感覚を得て、聡子は再び目を瞑る。
(トモさんは、わたしと「やりたい」だけだったんだ……)
 しかし不思議と嫌悪感はなかった。
 自分を気に入ってくれてたんだ、と前向きな思考が働いている。
「抵抗しねえのか」
 抵抗しようとしたが、思うように身体が動かないのだ。
 ブラウスのボタンをひとつひとつ、しかし乱暴に外され、胸元が露わになった。やっと動かせた両手で隠そうとしたが、おろおろとする両腕を頭の上で強く掴まれ、顔を背けるしかなかった。
(今日の下着……白だった……かな)
 頭上で押さえつけられた両腕が痛んで、聡子は動かない。
 恥ずかしい、と思いながらも、やはり動けずにいた。
「マジで抵抗しねえのかよ」
 下着をずらして胸元に吸い付かれ、また揉みしだかれ、妙な快感が身体を駆け抜けた。
「ふぁっ……」
 首筋にも吸い付かれ、スカートの中に手を入れられ、太股を撫でられる。
 身体が強ばり、されるがままだ。
 しばらくしてピタリ、とトモの動きがとまった。腕も外され、身体が少し楽になった。
「やめだ……会長の店の見習いホステスに手出したら、出禁にされちまうな」
(会長……の? 店?)
 トモは聡子から離れ、背を向けてベッドの縁に座った。
(ああ、そうか……店のオーナーはトモさんの所の会長さんだった)
 聡子はゆっくりと身体を起こす。
「服整えろ。すぐ出るぞ」
 トモは聡子のほうに目を向けずに、立ち上がった。
「あのっ……待って下さい!」
「なんだ」
 トモは振り向かずに言った。
「下心、持って下さってたんですよね? だったら続けてください」
「おまえ、自分でなに言ってっかわかってんのか」
「わかってます!」
 背中に叫ぶ。
「男知らねえんだろ」
「……経験のない女は面倒ですか?」
 二人の間に長い沈黙が流れていく。トモが答えないので、
「すみませんでした」
 聡子はぼそりと言った。
「や、やっぱり以前の彼女さんのほうがいいですよね。すごく上手だって言ってたし」
 と聡子は頭を下げた。
「付き合ってる女なんていねえよ。チンピラ崩れの分際で、まともに付き合える女がいるわけねえだろ」
 遊びの女しかいねえよ、と言う。
 相手もそれをわかっている、とも言った。
「俺は本気にならねえ」
「だったら……最後までしてください」
「バカ、自分を大事にしろ。おまえは二十歳だろ。俺なんかにくれてやるな、それに結婚前はするのはダメだって自分が言ってたろ。好きな男にくれてやれ」
「好きな人ならいいんですか?」
「ああ、いいんじゃないか」
 ぶっきらぼうな言い方だった。
「だったら、わたしは……トモさんのことが……好きだから……好きな人とするってことで、問題ないじゃないですか……」
「…………」
 聡子は言葉をうまく紡げない。
 トモのシャツの裾を掴み、俯く。
「トモさんがいい……」
「やっぱ惚れてんのか」
 後悔しねえのか、とトモは聡子を見下ろす。
「しません!」
 顔を上げて言ったが、恥ずかしさでいっぱいだった。
 トモは動かない。

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