大人の恋愛の始め方

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【第1部】6.恋心

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 次の週になり、久しぶりにトモが来店した。
 聡子は、自覚はなかったが弾む胸を押さえ、接客をした。トモにもらったネックレスを、今日も忘れずにつけている。
 自分のなかで、トモへの好意が大きくなっているのはわかっていた。でもこれを口には出来ないと感じている。
「あのっ、ジャケット、先日はありがとうございました」
 借りたジャケットはクリーニングに出し、袋のまま紙袋に入れて持ってきた。
「おう。風邪ひかなかったか」
「はい、おかげさまで」
「そか、よかった」
「トモさんは?」
「俺は大丈夫だ」
 紙袋を受け取りながら、トモが小さく笑う。
 トモのことを名前で呼ぶことにした。彼が「トモでいい」と言ったからだ。
 名前を呼ぶだけで胸がドキドキする。
 笑いかけてくれるだけで、心臓がうるさくなる。
(……トモさん、好き。会えて、うれしい)
「なあ、このあと何か食いに行かねえか? 遅い時間に食うのが好きじゃないのはわかってるけど、軽く」
 トモに誘われた聡子は一つ返事で頷いた。
 少し前に、別の女と遊びの関係があることを知ってしまったが、それでも聡子の気持ちは止められない。言わなければいいのだ。
 聡子は店の勤めを終え、着替えてトモの元へ急いだ。
「この前は悪かったな」
「いえ、わたしのほうが……上得意様なのにすみません」
「それはいいんだよ。指名客がいたほうがいいんだろ?」
「わたしは見習いなので、そういうのは特に……。いえ、あの、ほんとは指名料の一部をいただけることになってて……。でも、そういうのはいいので、わたしはトモさんに来てもらえたらそれでいいので……」
 トモはそれについては何も言わなかった。
 勤務が終わると、二人はラーメン屋へ向かった。
「ここはうまいぞ」
 一番人気のラーメンを二人前注文し、それぞれの前に運んでもらった。とても食べきれそうにないが、美味しいというのだから食べることにした。
 トモはばくばく食べている。細身だが大食漢のようだ。そういえばいつかのファミレスでもばくばく食べていた。
「残してもいいぞ。俺が食うから」
「えっ」
 箸が遅くなったのに気付いたようで、聡子が食べきれなくなったそれを全部食べ尽くした。
「よく食べるなあ、って目で見てるな」
「はい、まあ……。でも食べることが好きなんでしたよね」
「まあな」
「女もそうなんですよね」
「……よく覚えてるな」
 トモは苦笑している。
「遅い時間にはいつもは食わないけど、今日はおまえと食いたい気分だったからな」
「それはどうして……」
「まあなんとなくな」
 ラーメンごちそうになりました、と聡子は頭を下げた。
「いいよ。これくらい。まあまた付き合ってくれよ」
「は、はい」
(ほかに人も誘ってごはん食べに行ったりするんだよね? わたしだけじゃないよね?)
 複雑な気持ちになりながらも、また誘ってもらえるんだ、という期待に胸が躍った。
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