大人の恋愛の始め方

文字の大きさ
上 下
24 / 222
【第1部】5.誕生日

しおりを挟む
***

 聡子は化粧を落とし、着替えて、トモの待つ場所へ急いだ。
「トモさん」
「おう」
「お待たせしました」
「……」
 トモは聡子を無言で見つめている。
「どうかされましたか?」
「いや、さっきまでと全然違うなと思って」
「すみません……」
「どうして謝る」
「着飾ってるほうがお好きそうですよね」
「そんなことはねえけど」
 そういえばこの人は、化けても自分だと気付いた。どうして「気が強い」という理由で気付いたのだろう、不思議だった。
 聡子は早速ネックレスをつけていた。トモにもらったネックレスだ。自分はアクセサリーを一つも持っていないので、似合っているのかいないのかわからない。似合うと思って贈ってくれたのだろうと思い、自信を持つことにした。
 コートで隠れて見えなくなっているが、きっと「似合う」と言ってもらえるはずだ。聡子の中で、言ってもらえたらいいな、という願望が先走っていた。
 行くぞ、とトモに促され、歩き出した。
「さっき、来るときに見つけたんだよ、よさげなカフェ」
 トモは、カフェに連れていってくれるらしい。うきうきしながら彼に付いていく。
 ──カフェはもうしまっていた。
「さっきまで開いてたのにな……くそっ」
 午後十一時を過ぎていれば、閉まっているだろう、カフェなら。
 トモは落胆した顔を見せた。
「あ、あのっ、じゃあ、そこのファミレスはどうですか? スイーツ、結構おいしいですよ?」
 ファミレス頼みか、とトモは声まで落胆いている。
「せっかくの誕生日祝いだったのに」
「いえいえ、お気持ちが嬉しいので」
 結局は二人はファミレスに行くことになった。
「二十歳なら、もう酒が飲めるな」
「法律的には! ……でも、お酒はどうも口に合わないみたいです」
「そうか……。じゃ酒飲みに連れてくのも無理か?」
「んー……お酒、飲めるようになります! 見習いとはいえホステスなのにお酒飲めないなんて……ちょっと格好がつかないですからね」
 ハハハ、とトモは笑った。
 聡子は胸がドキドキした。
 異性と二人で並んで歩くのは初めてだった。
「ほら来いよ」
 トモが振り返り、足の遅い聡子を振り返る。
「す、すみません」

 ──ファミレスで、チーズケーキセットをご馳走になり、聡子はしっかり礼を言った。何度も言いすぎだと言われたが、都度伝えるのが当然だと思ったのだ。
「上手そうに食うんだな」
「美味しいので」
「食うところ初めて見たな。女はこんな時間に食ったら太るとか言うけどな」
「今日だけ特別です。普段は食べませんよ」
「トモさんは召し上がらないんですか?」
 主役はおまえだろ、とトモは笑う。
 なんだか悪い気がしたが、見抜かれたのか、
「じゃあ一口」
 聡子が口に運ぼうとした一切れを、手を掴んで自分の口に運んだ。
「ひゃっ」
「ごちそうさん」
「あ……」
 なかなかいい味だな、と言った。
「なんだよ」
「……フォークが……」
「あ? ああ、悪い。潔癖か? 気にするのか?」
「……べ、別に気にしてはないですけど」
 気にしてんじゃん、と彼は聡子の口元についてケーキのかけらを拭った。
「なっ……」
(距離感どうなってんのよ……)
「潔癖じゃなくて、間接キスが気になるか」
「べ、別に!」
 勝手にどぎまぎして馬鹿みたいだ、と残りを平らげた。
 トモは涼しげな目で聡子を見ている。気恥ずかしくて見返すことが出来ない。
 どうしたのだろう、いつもなら軽口叩いて言い返せるのに。
 心臓の音がうるさくなっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

とりあえず、後ろから

ZigZag
恋愛
ほぼ、アレの描写しかないアダルト小説です。お察しください。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

うちの娘と(Rー18)

量産型774
恋愛
完全に冷え切った夫婦関係。 だが、そんな関係とは反比例するように娘との関係が・・・ ・・・そして蠢くあのお方。 R18 近親相姦有 ファンタジー要素有

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される

Lynx🐈‍⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。 律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。 ✱♡はHシーンです。 ✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。 ✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。

処理中です...