つよくてもろい君たちへ

そうな

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第一部

先生のこと

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 目を開けると、寮の部屋にいた。回らない頭で辺りを見渡すと、違和感を覚える。

「あれ、僕の部屋ってこんなんじゃ…」


 そこまで思ったところでハッと意識が戻る。そうだ、僕は放課後、あの倉庫に行って先生に見つかったんだ。
 歩いた記憶はないけれど、ここは先生の部屋なのか?辺りを観察していると、扉が開いて先生が出てくる。
 学校で見たのとは違ってスーツじゃなくて私服だった。僕や友人たちが休みに着るのとは違う、落ち着いた大人の格好。

「お、起きたか」
「あ……すみません、僕寝ちゃったんですよね」
「ん?いや気にすんな、お前寝不足だったんだろ?」
 とはいえ高校生男子は重かったに違いない。申し訳なくてもう一度謝ると、先生はポンポンと頭を撫でた。…先生これ癖なのかな。
「どっちかというとお前細いだろ?そんなに俺だって体力無いわけじゃないしな」
 たしかに、僕は水泳をやってる割には小柄だ。とはいえ、筋肉はそこそこあると思うけれど。……そこそこ。
「何より楽な持ち方なら救急講習で何度も習ってる」
 だから気にするな、とまた言って先生は玄関の方へ向かっていく。戻ってきた先生の手には、見慣れたビニール袋があった。
「これ、お前のだろ?一応持ってきたから」
「う…何から何まですみません…」
 あの雨の中を2往復もさせたということか…そう思うと余計に申し訳なくなる。
 こんなに誰かに迷惑をかけたくはないのに…。
 先生は謝罪はもう聞くつもりはない、というようにキッチンに向かってコーヒーを淹れてくれた。先生の部屋も、生徒とそこまで構成は変わらないらしい。付けてくれたミルクと砂糖をしっかり入れるのを見て、ブラックコーヒーを飲みながら先生は笑っていた。
「お子様味覚なんだな」
「え……まあ、でも大人でもいるとは思いますけど」
 年上と話す機会はあまり多くないから、なにを話せばいいのかわからなくて素っ気ない答え方になる。
 それでも先生は楽しそうに笑っていた。

「夕飯はなにが食べたい?」
 唐突にそう聞かれて戸惑う。
「えっと…僕は…」
 正直、あまり食欲はない。寝たおかげで体調は回復してる気もするが、まだお腹がすくほどではない。
 答えあぐねる僕を見て、先生はうーんと考え込んだ。
「じゃあ俺が適当に作るからもう少し休んでな」
「え、僕手伝いますよ」
「なに、料理できるの?」
 そう言われて頷く。料理は特別うまいわけではないけどそれなりに作っている。食べ盛りの双子のおやつは、スナック菓子よりもほぼ食事みたいなものなのだ。
「へえ、じゃあ今度食べさせてな。今日は俺が作るからいいよ」
 テレビのリモコンを渡されて、どうしたらいいのかわからない。でもそれ以上食い下がるのもなんか迷惑な気もして渋々頷く。「今度」という言葉に少し引っかかったけれど、突っ込めるほどの勇気はなかった。


 誰かの料理をする音を聞きながらゆっくりするのは、ずいぶん久しぶりだ。自分で料理をするときは、いつも誰かを待たせていたから時間との勝負だった。
 トントンと心地よいリズムで包丁が動く音がして、テレビよりもそちらに耳がいく。

 そのうち、さっきも寝ていたはずなのに意識が沈んでしまった。
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