愛などもう求めない

一寸光陰

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誕生日

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「お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう、ガルディエーヌ。」
「申し訳ありませんが、すぐに朝食を召し上がって、お着替えください。その後はバルコニーでスピーチです。」
「うん。」
そそくさと朝食を食べ、何人もの人に手伝ってもらいながら衣装を着る。
フリフリの細かなレースのシャツの上に、豪華な刺繍の入った淡い黄色のジャケットを羽織る。
「この刺繍、綺麗…。」
いつか、自分もこんなに美しい刺繍が施せるような職人になれるだろうか。

「手を。」
父にエスコートされ、バルコニーに出る。
観衆たちの声が一際大きくなる。

処刑台に立った時のことを思い出し、足がすくむ。これほど多くの人たちが今、自分に注目している。上手にスピーチできなくては、嫌われる。税金泥棒だと思われる。偽物だと思われる。石を投げつけられ、殺される…!

そのとき、ぎゅっと強く手を握り締められた。横を見ると、父がかすかに微笑んだような気がした。

大丈夫。今はシュペルブ帝国皇子だ。自信を持って。

頭の中がすっきりとし、すらすらとスピーチの言葉が出てくる。
スピーチを終えると民衆から大きな歓声と拍手が起こった。

「「ヴェリテ様、ばんざーい!」」
「「ヴェリテ様、ばんざーい!」」

ほっとし、安堵の笑みを浮かべる。

「素晴らしかったぞ。」

ヴェリテは目を見張る。父親に褒められたのはいつぶりだろう。もしかしたら初めてかもしれない。

「ありがとうございます。」

ヴェリテは微笑んだ。
まるで本当の親子のようだ、ヴェリテは俯いた。

夕方からは生誕パーティーだ。全ての貴族、各国の使者たちが集まり、ヴェリテの誕生を祝う。

「おめでとうございます。」
「お誕生日おめでとうございます。」
「先ほどは素晴らしいスピーチでした。」

次から次へと現れる客人たちを相手して、ヴェリテはヘトヘトだった。

「お誕生日おめでとうございます。私、レベス王国王太子、ロジエ・プルミエム・レベスです。」
「ありがとうございます。実は最近レベス王国に興味があって…。レベス王国についてお話をたくさん聞きたいです。」
「本当ですか?興味を持っていただいて嬉しいですね。」
2人はバルコニーへと移動する。
「レベスは食事がとても美味しいのですよ。大きな鮭が取れて、バターで焼くと本当に美味しいのです。」
「そうなんですか!お腹が空いてきました。」
「レベスには“鮭を食わずして何を食う”っていう言葉があるくらいなのですよ。私の父は鮭を食べすぎて、アレルギーになってしまったんです。」
ヴェリテはクスクス笑う。
ロジエは王太子であるにも関わらず、とても明るく接しやすい。
「ぜひ、レベス王国に来てください。貴方のような可愛らしい人はレベスにはいないので大歓迎ですよ。」
お世辞だと分かっていても褒められると嬉しい。
「ありがとうございます。ぜひ訪問させていただきますね。」
ヴェリテは頬を赤く染めた。

「ヴェリテ様、こちらにいらしたのですか。」
そこにジュスティスが現れた。
「ロジエ王太子殿下、お話の邪魔をしてしまい申し訳ありませんが、ヴェリテ様をお借りしてもよろしいですか?」
「どうしたのですか?」
ヴェリテは尋ねる。
「僕とダンスを踊って欲しいのです。」
そういえばダンスを踊っていなかったなと思い出す。
「あぁ、義務ですもんね。行きましょう。」
「ヴェリテ様、お話とても楽しかったです。またお会いしましょう。」
去り際、ロジエが話しかける。
「はい。」
ヴェリテは微笑み返す。
ジュスティスはロジエを睨んだ。

華麗な音楽に合わせて、2人はステップを踏む。
「あっ!ごめんなさい。」
何度もジュスティスの足を踏んでしまう。ヴェリテはダンスが苦手だった。
「とても軽いのですね。足をお踏みになったことに気づきませんでした。」
ジュスティスは微笑む。
ヴェリテは恥ずかしくなって俯いた。
「ダンスは苦手なんです。」
「上手に踊ろうと考えなくてもいいんですよ。ただ音楽を聴いて楽しめばいいんです。」
「楽しむ…。」
「今流れている曲素敵だと思いませんか?」
「はい、優雅で気品があって…とても好きです。」
「その調子です。音楽を聴いて楽しみましょう。」
「ありがとうございます。」
ヴェリテは満面の笑みを浮かべる。
音楽に身を任せ、ジュスティスのリードに乗る。先程までカチコチだった体は軽やかに動く。

音楽が終了し、ダンスが終わった。
「こんなに楽しく踊れたのは初めてです。」
「僕も、今までで1番楽しかったです。」
ジュスティスがまた笑みをこぼし、ヴェリテは胸が高鳴った。

ダメだ、ダメだ。この人はファクティスのことを好きになるのだから。僕はこの国から出ていくのだから。こんな思い消してしまわなくては。

それでも頬の赤みは消えてくれなかった。

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