愛などもう求めない

白兪

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幼き日

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「ひくっ、ひくっ、ひくっ…」

母の葬式が終わっても涙は止まらなかった。

毎日母との思い出の場所である中庭で泣いていた。

「おお、お可哀想に…、王太子殿下。」
声がした方に目を向けると、茶髪の若い騎士が立っていた。

「まだ4歳だと言うのに母君を亡くされて、とてもお辛いことだと思います。」
「ぐすっ…、悲しいよ。どうしてお母様は僕を置いてお空に行っちゃったの?僕が悪い子だから神様がお母様を奪ったのかな…。」
「あぁ、そんなことをおっしゃらないでください。
すべては弟君、ヴェリテ様が悪いのです。」
「そんなことないよ!メイユーラミが言ってた!誰も悪くないんだって…。お母様はもともと体が丈夫ではなかったから…。」
「いいえ、違います。ヴェリテ様が生まれなければ、皇后様はお亡くなりになることはありませんでした。
皆が悲しみに暮れている間も、ヴェリテ様は暖かい部屋でぐっすり眠られておられるのですよ。」
「ヴェリテが悪いの…?」
「そうです。今、こうして幼い殿下が苦しんでおられるのも、陛下の様子が変わられたのも、すべてヴェリテ様のせいなのです。ヴェリテ様さえ生まれなければ、幸せなままだったのに…。」
「ヴェリテが生まれて来なければ…。」
「そうです。生まれて来なければ皇后様がいなくなることはなかった…。」

「4歳の、こんなにも幼い殿下がひとりぼっちになってしまうなんてあんまりです!」


若い騎士は幼いフロワを抱きしめた。
フロワはこのやるせない思いの行き場を見つけたような気がした。
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