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第二十四話 災厄と呼ばれた彼女②
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至上主義衰退事件。
当時どこの派閥にも所属していない学び舎を卒業したばかりの新人であるアピロ・ウンエントリヒ及びその周辺人物と至上主義者達の実力行使を伴った魔法を使った本格的な武力衝突。
アピロ側は少数とはいえ有望株として期待されていた同じ卒業生数名と在学中に知り合ったとみられる一部教員で構成されていたが、対する至上主義者達は甘く見積もってもおおよそ90名以上、さらにその中には名高い有名貴族が複数、さらには優秀な実力を持つ魔法使い達。
幾ら少数精鋭とはいえ圧倒的な人数差。アピロ側には勝ち目などなく持って数時間、その間に拠点とされている屋敷に到達、その後制圧され全員が晒し物にされるだろうと当時を知る魔法使い達はその時思っていたそうだ。
だが至上主義者達の最終降伏勧告からおおよそ10分後、戦いの火蓋が切って落とされたその後、その考えは覆されることになる。
至上主義者側は戦いが始まってから暫くして、徐々に謎の幻覚に苛まれる。
謎の化け物が襲ってくるとその場にいた数々の魔法使いが叫びはじめたのだ。
それはアピロ陣営による広範囲の精神干渉魔法であり、数の多い敵陣営を混乱に陥れ戦力を消耗させるための手であった。当時としてはまだ精神干渉系の魔法は近年ほど研究・対策が行われておらず、何らかの方法でその効果範囲を拡張したその魔法は非常に大きな効果をもたらしたがそれでも無勢に多勢、拠点まであとわずかといったところである。だがその時最前線を魔獣に乗って飛ぶ魔法士が最初に見たものは屋敷ではなかった。そう最初に見たもの、それは月明りに照らされ宙に浮く人影、赤と黒で彩られた奇妙なドレス、そして不敵に笑う一人の女の笑みであったのだ。
そしてそのことを最後にこの件について語る者はいない。
結果として残ったのは、その後アピロ陣営が至上主義派閥を打ち破り勝利した事、この事を境に派閥が大きく縮小し現在ではもはや当時の勢いは見る影もない事。
そしてあの事件、あの戦いが起こった場所に草木も残らぬほどえぐられ表面が焦げたような大きな穴であった。
「ねぇキャト、結局この本だと肝心な部分が乗ってないんだけど……」
「その本だとじゃないっす、その本以外も全部そうっすよ」
そう言って向かい側で本を読んでいるキャトは上の空に返事をする。
現在、私は応接室を離れキャトの家の本を読んでる。
アルバートさんから説明を受けている途中、街で例の魔装具を使った問題が起こったとの事で話は中断、本日中に行う予定だった私の検査等々いろいろ明日以降へと後回しになったのだ。
宿についてはアルバートさんが代金を出すとの事で好きなところに泊ってもいいとの事だったが、いろいろ分け合って現在キャトの家へとお邪魔している。
「これじゃあアピロさんが何やったか結局わからないじゃない。
とりあえず何か凄い魔法使ってやっつけたってい感じなんだろうけど」
「そうっすね、そこらへんはなぜか当時その場にいた双方の陣営が中々語ってくれないらしいんすよね。一応ある程度の予想はついているらしいっすけど」
「ある程度予想がついってる事はキャトは知ってるの?」
「一応知ってはいるっすけど、噂みたいなもので信憑性はないっすよ。
ただまあそれくらいしか可能性がないかなっていうくらいで……」
「ねぇそれってなんなの?そろそろはぐらかさないで教えてほしいんだけど」
「うーん、そうっすねぇ……。アルバートさんも説明する気だったみたいだし言ってもいいんだろうけど、エーナさんってまだ魔法使いじゃないじゃないっすか?
一応魔法使いじゃない人に魔法関係の事をいろいろ教えるのって良くないというかグレーゾーンっていうか……」
「え、そんな決まりあるの?」
「もちろんあるっすよ。魔法使いになる気がない人に勝手に魔法教えたりとか魔術道具を譲ったりとかそういうの基本ダメっす、もちろん例外もあるっすけどね。
まあエーナさんになら話てもいいっすかね、魔法学校に通う予定の将来の超エリート候補っすからね!……でも一応私から教えた事は他の人には内緒にしておいてください?」
小声で耳打ちするようにそう話しかけてくるキャトだったが、その決まりを考えるとアルバートさんは私にいろいろ話しすぎなきがする。
「これは確証もないし予想っすけど、おそらくアピロさんは原初魔法を使ったと推測されるっす」
「原初……魔法?」
「ああそうだった、エーナさんまだ魔法について詳しくないんすよね。えっとっすね魔法ってその規模によって段階分けがあるんすよ。魔法初心者が習うような一般的な術が初級、それより少し上の応用が必要な奴が中級、すんごいむつかしくて使える人を選ぶような魔法が上級、簡単説明するとこんな感じっす」
ちなみに私は初級の一部しかまだ使えないっす……、と若干テンションが下がるキャト。
「まあそういう感じで中級が使えて一流、上級が使えれば超一流って感じなんすよ。
だから魔法使いはみんな上級魔法の取得を目指して日々頑張ってる人がおおいっす」
「じゃあその原初魔法っていうのは上級魔法に分類されるって事?」
「そうじゃないんすよ。原初魔法は上級魔法の上、上どころが比べるのも馬鹿げるほどのその上の上、頂点に位置する魔法なんす。まあ実際は頂点というかその魔法からいろんな魔法が派生してるとか分岐してるとか……、とにかくすんごい魔法なんす」
「ちなみにすんごいっていうのはどうすんごいの?」
「そりゃもうすんごいらしいっすよ。原初魔法は唱えるだけ天変地異を起こせるようなとんでもない魔法らしいっす。発動するだけで街一つを海に沈めるような大量の水を出したり、これまた街一つ覆うようなすんごい大きい炎の玉を出せたり、挙句には地面を大き崩して地震やじわれをおこしたりだとか、ともかくとんでもない規模の魔法って言われてるっす」
「なにそれ、そんなの使えたら敵なしじゃない……」
「まあこれについても悪魔でそう伝えられているていう伝承に近いものなんすよ。
何せ原初魔法を会得できた魔法使いは歴史上でも3人しかいないといわれてるっす。
しかもその会得したっていう魔法をちゃんと確認した人物はほとんどいなくて、実際にその現象を見た者もほぼ残ってないという始末でして……」
「そう聞くとすんごい胡散臭い魔法ね……。本当にそんな魔法あるの?」
「もちろん原初魔法の存在には懐疑的な人も多いっす。けれど存在しないとも言い切れないんすよ。実は原初魔法の存在魔法が普及する要因ともなった最古の魔導書にその存在が記されているんすよ」
「最古の魔導書?そんな本まで存在するんだ……」
「多分エーナさんも学校で歴史の授業をやる事になった時習う事になるっす。
最古の魔導書とそれを著した人物、魔法の祖たる十二英雄の一人ビスカの事を」
当時どこの派閥にも所属していない学び舎を卒業したばかりの新人であるアピロ・ウンエントリヒ及びその周辺人物と至上主義者達の実力行使を伴った魔法を使った本格的な武力衝突。
アピロ側は少数とはいえ有望株として期待されていた同じ卒業生数名と在学中に知り合ったとみられる一部教員で構成されていたが、対する至上主義者達は甘く見積もってもおおよそ90名以上、さらにその中には名高い有名貴族が複数、さらには優秀な実力を持つ魔法使い達。
幾ら少数精鋭とはいえ圧倒的な人数差。アピロ側には勝ち目などなく持って数時間、その間に拠点とされている屋敷に到達、その後制圧され全員が晒し物にされるだろうと当時を知る魔法使い達はその時思っていたそうだ。
だが至上主義者達の最終降伏勧告からおおよそ10分後、戦いの火蓋が切って落とされたその後、その考えは覆されることになる。
至上主義者側は戦いが始まってから暫くして、徐々に謎の幻覚に苛まれる。
謎の化け物が襲ってくるとその場にいた数々の魔法使いが叫びはじめたのだ。
それはアピロ陣営による広範囲の精神干渉魔法であり、数の多い敵陣営を混乱に陥れ戦力を消耗させるための手であった。当時としてはまだ精神干渉系の魔法は近年ほど研究・対策が行われておらず、何らかの方法でその効果範囲を拡張したその魔法は非常に大きな効果をもたらしたがそれでも無勢に多勢、拠点まであとわずかといったところである。だがその時最前線を魔獣に乗って飛ぶ魔法士が最初に見たものは屋敷ではなかった。そう最初に見たもの、それは月明りに照らされ宙に浮く人影、赤と黒で彩られた奇妙なドレス、そして不敵に笑う一人の女の笑みであったのだ。
そしてそのことを最後にこの件について語る者はいない。
結果として残ったのは、その後アピロ陣営が至上主義派閥を打ち破り勝利した事、この事を境に派閥が大きく縮小し現在ではもはや当時の勢いは見る影もない事。
そしてあの事件、あの戦いが起こった場所に草木も残らぬほどえぐられ表面が焦げたような大きな穴であった。
「ねぇキャト、結局この本だと肝心な部分が乗ってないんだけど……」
「その本だとじゃないっす、その本以外も全部そうっすよ」
そう言って向かい側で本を読んでいるキャトは上の空に返事をする。
現在、私は応接室を離れキャトの家の本を読んでる。
アルバートさんから説明を受けている途中、街で例の魔装具を使った問題が起こったとの事で話は中断、本日中に行う予定だった私の検査等々いろいろ明日以降へと後回しになったのだ。
宿についてはアルバートさんが代金を出すとの事で好きなところに泊ってもいいとの事だったが、いろいろ分け合って現在キャトの家へとお邪魔している。
「これじゃあアピロさんが何やったか結局わからないじゃない。
とりあえず何か凄い魔法使ってやっつけたってい感じなんだろうけど」
「そうっすね、そこらへんはなぜか当時その場にいた双方の陣営が中々語ってくれないらしいんすよね。一応ある程度の予想はついているらしいっすけど」
「ある程度予想がついってる事はキャトは知ってるの?」
「一応知ってはいるっすけど、噂みたいなもので信憑性はないっすよ。
ただまあそれくらいしか可能性がないかなっていうくらいで……」
「ねぇそれってなんなの?そろそろはぐらかさないで教えてほしいんだけど」
「うーん、そうっすねぇ……。アルバートさんも説明する気だったみたいだし言ってもいいんだろうけど、エーナさんってまだ魔法使いじゃないじゃないっすか?
一応魔法使いじゃない人に魔法関係の事をいろいろ教えるのって良くないというかグレーゾーンっていうか……」
「え、そんな決まりあるの?」
「もちろんあるっすよ。魔法使いになる気がない人に勝手に魔法教えたりとか魔術道具を譲ったりとかそういうの基本ダメっす、もちろん例外もあるっすけどね。
まあエーナさんになら話てもいいっすかね、魔法学校に通う予定の将来の超エリート候補っすからね!……でも一応私から教えた事は他の人には内緒にしておいてください?」
小声で耳打ちするようにそう話しかけてくるキャトだったが、その決まりを考えるとアルバートさんは私にいろいろ話しすぎなきがする。
「これは確証もないし予想っすけど、おそらくアピロさんは原初魔法を使ったと推測されるっす」
「原初……魔法?」
「ああそうだった、エーナさんまだ魔法について詳しくないんすよね。えっとっすね魔法ってその規模によって段階分けがあるんすよ。魔法初心者が習うような一般的な術が初級、それより少し上の応用が必要な奴が中級、すんごいむつかしくて使える人を選ぶような魔法が上級、簡単説明するとこんな感じっす」
ちなみに私は初級の一部しかまだ使えないっす……、と若干テンションが下がるキャト。
「まあそういう感じで中級が使えて一流、上級が使えれば超一流って感じなんすよ。
だから魔法使いはみんな上級魔法の取得を目指して日々頑張ってる人がおおいっす」
「じゃあその原初魔法っていうのは上級魔法に分類されるって事?」
「そうじゃないんすよ。原初魔法は上級魔法の上、上どころが比べるのも馬鹿げるほどのその上の上、頂点に位置する魔法なんす。まあ実際は頂点というかその魔法からいろんな魔法が派生してるとか分岐してるとか……、とにかくすんごい魔法なんす」
「ちなみにすんごいっていうのはどうすんごいの?」
「そりゃもうすんごいらしいっすよ。原初魔法は唱えるだけ天変地異を起こせるようなとんでもない魔法らしいっす。発動するだけで街一つを海に沈めるような大量の水を出したり、これまた街一つ覆うようなすんごい大きい炎の玉を出せたり、挙句には地面を大き崩して地震やじわれをおこしたりだとか、ともかくとんでもない規模の魔法って言われてるっす」
「なにそれ、そんなの使えたら敵なしじゃない……」
「まあこれについても悪魔でそう伝えられているていう伝承に近いものなんすよ。
何せ原初魔法を会得できた魔法使いは歴史上でも3人しかいないといわれてるっす。
しかもその会得したっていう魔法をちゃんと確認した人物はほとんどいなくて、実際にその現象を見た者もほぼ残ってないという始末でして……」
「そう聞くとすんごい胡散臭い魔法ね……。本当にそんな魔法あるの?」
「もちろん原初魔法の存在には懐疑的な人も多いっす。けれど存在しないとも言い切れないんすよ。実は原初魔法の存在魔法が普及する要因ともなった最古の魔導書にその存在が記されているんすよ」
「最古の魔導書?そんな本まで存在するんだ……」
「多分エーナさんも学校で歴史の授業をやる事になった時習う事になるっす。
最古の魔導書とそれを著した人物、魔法の祖たる十二英雄の一人ビスカの事を」
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