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X 少女の魔法②
しおりを挟む「く…っ!」
流河が偽神の伸ばしてきた腕を回避する。首だけになった偽神は首の断面から腕を無数に生やし、手と手を互いに張り付けさせ、蛇の胴体のようなものを形作った。よく見てみると、凛泉が棘でつけた頭部の穴は、生やしている腕と同じような物質が詰め込まれていた。
「なるほど…最初から蛇だったのではなく、蛇の形を作っていただけの紛い物…という訳ですか。しかも頭部を完全に破壊しなければならないとは…実に厄介ですね。」
『フェッフェッフェ…!!』
「不快な笑い声をあげないでください、褒めたわけではありません。」
偽神が高笑いをした後に、口を膨らませて上空に向かって黒いヘドロを撒き散らした。それは空中で魔人に姿を変え、周りに大量に降り立つ。
「はぁぁっ!」
壊子が武器を一瞬にして取り出し、襲っていた魔人を縦に引き裂いた。
『ああぁぁぁぁぁぁぁっ!』
他の魔人が雄叫びを上げながら流河に襲いかかる。
「流河さん!」
「…っ。」
流河が一歩後ろに下がり、左手で何かのスイッチを押した。すると、その機械は小さく光を放ち砕け散った。すると、流河は右手を手刀にして振り上げる。
『あっッ』
すると、魔人が流河の腕の軌道のままに縦に裂けた。
「な…っ!」
「切断。シンプルですが便利な魔法です。」
流河が地面に落ちていた警棒を拾う。襲われた警官が持っていたものである。
『シャァァァァァァァァッ!!』
飛びかかってきた魔人に向かって警棒を振り下ろすと、魔人は縦に真っ二つになった。さらに斜めに振り上げると、横の電柱が斜めに斬られ、尖った部分から落ちて魔人に突き刺さった。
「あ、アンタの魔法は『命令』なんじゃ…!?」
「私も数年間、ただ行方をくらましていたわけではありません。」
すると、魔人の数体が銃声と共に倒れていった。
「っ!!」
銃声の方を壊子が見ると、煙で作られた坂を滑って碧射が地面に立つ。
「息吹さんサンキュー!」
「お礼は全部終わってからいいな。」
息吹がタバコの煙を吸い頭上に向かって吐く。煙は固まり、針のような形となり魔人に降り注いだ。
『ぎゃぎゃぁぁぁっ!!』
「ん?壊子…お前なんでここに?それに後ろの人は…。」
流河がチラリと碧射と目を合わせるが、すぐに目を逸らして魔人たちを切り刻みはじめた。
「あの人どこかでみたような気がするんだが…。」
「…流河さんやで。」
碧射が目を見開いて壊子を見る。
「は!?」
「話は後や!」
壊子は碧射の反応を無視して魔人に特攻した。
「んな…何がどうなってんだよ…!」
碧射が偽神を睨みつける。偽神は碧射をみて一瞬首を傾げるが、すぐに廃村であった男であると気付いたのか奇妙な笑い声で笑い始める。
「ちっ、おちょくってんのか…?」
碧射がサブマシンガンを構え放つ。すると魔人は複数の関節のない腕を前に出し、まとめて硬化して盾にすることで攻撃を凌ぐ。
「おらよっ!」
すると、背後から息吹が煙で作ったカッターを蹴り飛ばして首を切り落とした。
『ケ…ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!』
だが、偽神は再び首の断面から無数の腕を生やし立ち上がった。その姿は不気味なクラゲのようにも見えた。
(あの時魔人を消したのは、自分が死んだと信じ込ませるための演技かよ…見た目より頭いいじゃねえかよ。)
「だが頭を潰せば倒せるのは明白。」
流河が警棒を偽神に接近して振り下ろす。だが偽神は寸前で体を捻り、数本の腕を犠牲に攻撃を回避した。
『ふぁっふぁっふぁっ。』
その様子を見て、息吹が耳につけた無線イヤホンにスイッチを入れる。
「司令室のイプちゃん、聞こえる?F-219について。」
〔聞こえていますよヨヨギ・イブキ。現在F-219は自身の他に魔人を産むための「卵」を複数、皆さんの周辺に設置しているようです。〕
「そこまで分かってるならいい。…F-219の呼称を[魔蛇]から[首だけ妖怪]に変更して、ついでに他に応援を寄越してもらえると助かる。」
〔そう言われると計算して、既に数人そちらに応援を呼びました。間に合うかは皆様次第ですが。〕
「…気が効くね!」
息吹が煙を吐くと、煙は巨大なハサミのようなものを形作り、偽神を一刀両断した。しかし偽神は寸前で首を伸ばして頭を避けていた。
「ちぃっ、碧射くん!」
「もう撃ってるッスよ!!」
碧射が拳銃を構え偽神に向かって発砲する。しかし偽神は口から魔人を作る泥を吐き、銃弾を受け止めた。
『ふぁーーーっははははははは!!』
その場にいた偽神が腕を大量に伸ばし全員に攻撃を繰り出す。
「ッ!」
壊子はぎりぎりで拳を回避し、地面を蹴って飛び上がった。そのまま武器の槌の部分を振り下ろし、偽神を叩き落とす。
「だぁっ!!」
『ふぁぎゃっ!?』
偽神が地面に叩き落とされる…が、頭部全体が硬化し、地面にめり込んだだけでダメージはなかった。
『えっへっへぇ~。』
「碧射くん!私はこいつの作った「卵」を壊しに行く!その間に応援と一緒にコイツを!」
「わかりました!」
すると、近くの高層ビルの二階と一階の窓を突き破り複数体魔人が現れた。
『あははは!』『ぎぁぁ!』
「なるほど、そこか!」
「避けてください。」
声に反応して息吹が咄嗟に立ち止まりしゃがむ。するとその頭上を流河が横薙ぎに振った警棒が掠め、魔人数体を真っ二つに引き裂いた。
「あっぶな…もっと早く警告しろよアンタ!」
「早めの警告では彼らにも避けられてしまいますので。」
「…一応言っとくけど、こいつら片付いたら次はアンタを拘束する。そういう決まりだからね。」
「肝に免じておきます。」
息吹はため息をついて建物内に入った。
「どちらにしろ、財閥に戻ることはできませんがね。」
流河が一人そうつぶやいていると、魔人が大口を開けて流河に向かって飛び掛かってきた。
「っ!」
流河が咄嗟に回避しながら建物に飛び込む。
「センちゃん!」
すると、流河の真横から鉄の柱のようなものがまっすぐ伸び、魔人を外へ吹っ飛ばした。
「………。」
「はぁ、はぁ……。」
(娘よ、振らないにしても自分が持てない重さの柱を作るのは危険だと思うぞ…む?)
千変万化を元に戻した少女は流河を見つめる。
「あなたは…。」
「……流河、さん?」
少女に名を呼ばれ一瞬反応するが、流河はそんなことは気にせずにチラリと魔人の群れの中を見る。魔人の群れの中で血を飛ばしながら凛泉が戦っているのが見えた。
「凛泉!?お前医務室にいたはずだろ!」
「こんな状況で寝てられっかっての!」
「こんのバカ…!」
碧射は凛泉の身勝手な行動に呆れながらも、冷静に凛泉と壊子の援護を行う。
「…無事、財閥に保護されたようですね。」
「やっぱり流河さん…ですよね!?」
流河が少女を見つめるが、背を向けて歩き出す。
「不思議と、貴方が流河さんだってわかったんです…流河さん!なんでこんなところに…!」
「今すぐここから撤退しなさい。」
流河は少女の言葉を無視して歩き出す。
「そんな…待ってください、まだ私には聞きたいことが…!」
『ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
そこまで言って少女の言葉はかき消された。偽神が周辺に響き渡る大音量で叫び声を上げていた。
「!?」
その場にいた全員の体が一瞬こわばった。偽神は首部分から腕を大量に伸ばして何かを形成し始める。
『ああああああああ…っ!!』
腕と腕が接続を繰り返し、大木のような腕が2本作られた。小さな頭部に巨大な腕を生やし不気味な姿となった偽神は、舌なめずりをしながら碧射達を見下ろしていた。
「あの野郎…私を見下してやがる!」
凛泉がさらにナイフで腕に傷をつける。血が大量に溢れ出し、凛泉の体に凝血外殻としてまとわれる。
「おい凛泉!それ以上の出血は命に関わるぞ!」
「やかましい!指図すんな!」
碧射が凛泉を呼び止めるが凛泉はお構いなしに突進していく。
「…話は後回しとしましょう。」
流河が警棒を構えて偽神に走っていった。
「…分かりました!」
少女が千変万化を剣の形状に変え後ろから追いかける。
「おぉぉぁらぁぁっ!!」
凛泉が両手に鉤爪を形成し、偽神に斬りかかる。しかし大木のように太い腕は斬りつけても表面が削れるだけで切断までには至らなかった。
『んへぇ~。』
「!?」
それどころか、切断面から更に細い腕が大量に生え、凛泉の体を掴んで離そうとしなかった。
「ぐ…っ!放せ、テメエ!」
凛泉が抵抗するが偽神の腕は凛泉を放そうとせず…そのまま、右の前腕部を中心からへし折った。
「!!」
「あ…がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
凛泉が痛みに悶えていると、偽神はニヤリと笑い、巨大な右腕で凛泉を全身掴んだ。
『ふーあっはっはっはっはっはぁぁ!!』
偽神は大きな笑い声を上げながら地面に凛泉を叩きつけ、そのまま腕で押さえ込んだ。少し離れた位置にいる碧射達にも聞こえるような大きさで、凛泉の体の骨が軋む音が響く。
「が…は…っ!」
「凛泉ちゃん!」
少女が走り出そうとするが、流河が少女の肩を掴み止める。
「今接近すれば貴方も彼女と同じ目に遭う。タイミングを見計らって冷静に…。」
「友達が危険な目にあってるのに、そんな悠長なことを…!!」
流河が氷のように冷たい目を一瞬見せた。
「私はあの人たちと友になった覚えはありません。」
「……っ!」
「ああああああああああああっ!!」
さらに凛泉の体からメキメキと音が響くと共に、凛泉の叫び声が周辺に響き渡る。碧射が短機関銃を構え発砲するが、束となり大木のようになった腕には傷ひとつつかなかった。
「クソ…っ!」
「凛泉ちゃん!!」
少女が流河の腕を振り払い走り出す。千変万化を握りしめ、少女は偽神に向かって勢いよく投げつけた。しかし偽神は一瞬出した一本の細い腕だけで千変万化をはたき落とす。
「無駄です、そのようなことをしても…。」
流河がそういった瞬間、少女が走りながら叫んだ。
「センちゃんっ!!」
(了解した!!)
少女の声に反応し、偽神がチラリと落ちている千変万化を見る。
『あえ?』
はたき落とした千変万化は地面に転がっていたというよりは、まるで刺さっているようにして直立に立っていた。
『っ!!』
偽神は何かに気づき右腕を上げようとした。しかし腕が凛泉から離れる前に、凛泉を避けるようにして地面を貫通した千変万化から伸びた複数の鉄の刃が偽神の掌を貫いた。
『ああああアぁアあああアァァァッ!!』
偽神が叫び声を上げながら手を浮かせる。その瞬間凛泉は目を開け、転がってその場を脱した。
「…ざけやがって。」
凛泉がまだ消えていない千変万化の刃で手首に深く傷をつける。そこから勢いよく血が飛び出した。
「ブチ殺してやるよクソがぁぁぁぁ!!」
凛泉が血を噴き出しながら腕を大きく振るい、偽神の周りに飛び散らせた。『血流操作』で量が増えた血は周りの地面を真っ赤に染めた。
『ああっ!?』
すると、その地面に撒き散らかされた血から鎖が飛び出し偽神の太い腕をがんじがらめにして固定した。
『ギイイイッ!!』
偽神は激しく歯軋りをした後、魔人を産むヘドロを大量に噴き出した。
「まずい!!」
すると、そのヘドロが空中で静止しそのまま動かなくなった。周りをよくみてみると、白い煙が充満していた。
「息吹さん!」
碧射が声を張り上げて息吹を呼んだ。流河達よりはるか後方で、息を切らせながらタバコを持って立っていた。
「センちゃん!!」
偽神のそばまで走っていた少女が地面に刺さった千変万化を引き抜く。千変万化は鉄の刃を分離した。
「なんだか、力が漲る…っ!」
少女が千変万化を握りしめる。その瞬間、少女の手首から白く光る腕輪が出現した。よくみてみると、それは凛泉の手首にも現れた。
「これ…あの時の…!」
『ウバアァァァァァァッ!!』
偽神は雄叫びを上げ、首の根元からさらに腕を大量に伸ばしてくる。
「い…けぇ!」
凛泉が声を張り上げようとすると、大量出血で意識を失ってその場に倒れた。
「…うん!」
少女の廃村でつけられた傷口が開き、そこから血が噴き出した。その血は空中で「盾」となり、拳の攻撃を受け止めた。
「やぁぁぁぁぁっ!」
少女が盾の一つを足場にして、高く飛び上がった。
『ふぁっはははは!!』
偽神が大きく笑い声を上げると、頭部全体が黒く変色した。
「しまった!あれじゃ攻撃が…!」
『ひゃははははー!!』
偽神が高らかに笑い声を上げる。
「…まだや。」
『は?』
少女以外が声のした場所に目を向ける。大量出血で気を失っていた凛泉を抱き抱えた壊子が、盾に弾かれて偽神が伸ばしたままにしていた腕の一本を掴んでいた。
「外からの攻撃が無駄なら…内側から壊すだけや!」
壊子が強く偽神の腕を握りしめる。
『っ!?』
すると、なんの予兆もなく偽神の大木のように太い左腕の一部が切断された。いや、『欠けた』とも言える状態となった。
『あああああっ!!』
偽神の体に次々と傷が現れ、最終的に頭部の右側に大きく亀裂が生まれた。そのから灰色の体液のようなものを噴き出した偽神は、傷ついた腕でバランスが取れなくなりふらつく。
『ア…っ!!』
偽神が気づいた時には、少女の振り下ろした千変万化の刃は偽神の頭部に入り込んでいた。
「…………あああっ!!」
少女が剣に力を込めて、偽神の頭部を真っ二つにした。
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