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IX 少女の魔法①

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「……アレは何だったの?」
「えへへ、わかんない。」
少女と凛泉はしばらく、このやり取りを繰り返していた。少女が放った白い光といい光で作られた腕輪といい、不思議な出来事がいっぺんに起こりすぎて凛泉は混乱していた。
「わかんないって…アンタがわかんないんじゃこっちだってわかんねぇっつうの…。」
そういうと同時に、凛泉は大きな目眩を感じた。
「あ、れ…。」
凛泉が前のめりに倒れる。
「わっ!凛泉ちゃ…!」
少女が凛泉を受け止める…寸前に、凛泉の体が空中で静止した。いや、正確にはそこに漂う白い空気の塊のようなものに体が乗ったように見えた。
「え…?」
「まったく、帰ってきたら早速また何かやらかしてるのかアンタは…。」
声のした方を向くと、そこにはスーツを着た女性が立っていた。高身長で、膝あたりまで伸びたロングヘアーを低めの位置でポニーテールにしていた。口にタバコを咥えており、そのタバコが周りにふわふわと充満していた。
「いやいや、今回は私がやらかしたわけじゃないよ…。」
「あ、あなたは…?」
「私のことより今は医療室に向かうことを考えな。碧射くん、肩貸してあげてー。」
息を若干切らせながら、碧射が訓練室に入ってきた。
「そこは自分でやらねえのかよ…まあいいや、オイ大丈夫か?」
少女がにこりと笑い碧射に駆け寄る……というよりは、目の前に来た瞬間碧射の胸に倒れ込んだ。
「おっとっと…。立てないのか?」
「い、いえ…ちょっと、安心しちゃって。」
えへへと笑う少女を、タバコを咥えた女性が横から覗く。
「いつからこんな可愛い子捕まえたのさ碧射くん。お姉さんにも可愛い女の子紹介してくれたらいいのに。」
「そんなんじゃねえッスよ息吹イブキさん…て、そんなことより医療室行くッスよ。」
少女を支えながら碧射が部屋の出口に向かい、息吹と呼ばれた女性と煙で浮かされた凛泉が後に続く。
「…イブキっち、魔法じゃなくて肩貸してよぉ…私こんなタバコ臭い運ばれ方嫌だよ~……。」
「肩貸したら胸触ってくるから嫌なんだよアンタは。着くまでタバコ臭のするベッドで我慢しな。」
「へへ、手厳し~…。」

───────────────────

突然だが場所は変わり、東京都中央区のとある店。
「…………。」
流河るか壊子かこはファミリーレストランに、向かい合って座っていた。流河が話があるといい壊子を廃村から車で連れ出し、東京についたのだが…。
「ふう、ごちそうさん…それで、話ってなんや。」
壊子は数日間まともな食事をとっていなかった為、流河がお金のことは気にせずまずはお食べなさいと言ったのだが…その量は常人の三倍…いや四倍だろうか?ファミレスとは思えない皿の量が机に並び、そのほとんどが綺麗に平らげられていた。
「…飢餓状態とは恐ろしいものですね。」
流河は若干、その食事量に引いていた。遠慮しなくていいとは言ったがここまでとは…と。
「…お腹すいてた、から…なんか、すんません…。」
流河は前が見えているのかわからないほどに長い前髪を少し整え、その髪の内側から壊子を見つめる。
「いえ、構いませんよ。あなたが話を聞いてくれるつもりになっただけでも、驚くほどの量の食事風景を見るハメになったかいはあるというものです。」
「て、丁寧に言ってるけど、それ結局引いとるやんけ…っ!」
流河は表情ひとつ変えず、自分が唯一頼んだコーヒーを一口飲んだ。
「…失礼、私も想像を超えた出来事に多少驚いてしまいまして。」
壊子は頬を赤らめながら流河を睨む。
(表情ひとつ変わっとらん…。この人、財閥にいた時もそうやったけど…なんとなく、苦手やわ…。)
壊子はかつて財閥にいた頃の事をほんの少し思い出す。流河と直接話したことはないが、自身の訓練の後などに研究する姿を遠くから見たことは何度かあった。その頃から彼は、表情ひとつ変わらない人形のような存在だった事を思い出す。
「それはともかく、あなたにお話したいことについてですが…。」
流河がポケットから写真を取り出す。その写真は、あの時村にいた少女の写真だった。背景や写真の解像度からして、あの村にいた時期に撮ったものだろう。
「…この、子……。」
すめらぎ壊子かこ、あなたに声をかけたのは他でもない、彼女についてです。」
「は、はぁ…。」
「あなたは、偽神フェイカーや魔人の討伐をしながらもこの国で上手く生き続けている。」
(それ、何も褒めとらんよな…。)
「私があなたに相談することを選んだのは、あなたが私と同じ……イザード財閥を抜け、自由に動ける無所属フリーの存在であることです。」
流河が再びコーヒーを口に運ぶ。
「あの娘を見張る役目を任せたいのです。あなたに。」
「は、はぁ!?」
壊子が椅子から立ち上がる。その反応に対して、流河は驚くこともなく人差し指で、「静かに」と小さくジェスチャーする。壊子は周りを少し見渡し、バツの悪そうな顔をして座り直した。
「…何でアタシが、そんなことを…?」
流河がコーヒーの最後の一口を飲む。
「これから先…近いうちに、偽神や魔人と人類の戦いは現状より更に激化するでしょう。あなたも経験した、のような大きな戦いが数多く起きることになると考えられます。」
流河はコーヒーカップを机に置き、壊子を見る。
「あの少女は、他の魔法所持者にはない『何か』を感じられます。…おそらくは、この戦いを終わらせられるほどの、何かが。」
「…意味が、わからへんよ。」
壊子は流河の一瞬見えた目に寒気を感じた。その目は感情というものが感じ取れない、冷たい目をしていた。
「ええ、私にも意味はわかりません。」
「……はぁ?」
「あの村で見かけた時から、あの子は特異な何かを持っていると…直感で感じただけでしたから。私は財閥とは別の方法で、偽神や魔人との戦いを根絶する方法を探していました。あの子はそのキーとなる存在かもしれない…。しかし私は財閥からも捕獲対象として追われている…。そこで貴女に頼んだわけです、である皇壊子さん、貴女に。」
[初代魔法少女]という言葉を聞き、壊子が流河を睨みつける。殺気を放つその視線を浴びても、流河は一切顔色を変えなかった。
「…その呼び方は、やめて。」
「…失礼しました。しかし、財閥外からも彼女の監視役が必要であることは確かなのです。そこで…」
そこまで言って、流河の発言は外から響いた爆音によってかき消された。
「…!?」
外を見ると、そこには燃え盛る車と、あの廃村で倒したはずの偽神が首だけの姿になって存在していた。
『ギェーーーーーへへへへへッハハァッ!!』

───────────────────

時間は遡り、2時間ほど前。

「んで、結局あんたのアレは何だったんだかね?」
医務室のベッドに寝転がりながら凛泉が少女に声をかける。先程まで大怪我して出血多量で危険な状態だったというのに、たった数分でこの余裕である。
「俺たちはさっき映像で見たが、まんま凛泉のやってる『血流操作』とおんなじ事をしてたな。」
碧射がベッドの横に椅子を置き座る。息吹と呼ばれた女性は窓際でタバコを吸っていた。
「それが、私にも何が何だかといった感じで…凛泉ちゃんが危ないから助けないと!と思って走り出してからは、ほとんど勢いで動いてた…みたいなんですよね…。」
〔他者の魔法を使用するといった魔法と仮定すれば、過去に例のない魔法に該当されますね。〕
医務室担当のイプシロンが救急箱を持って会話に参加する。医務室担当と言っても、見た目の変化はナースキャップを頭につけただけなのだが。
「だとしたら魔法の名前は『コピー』とかになるわけ?単体じゃ何もできなくないそれ、直前までなんも起きなかったのが何となく分かった気がするけどさぁ。」
みんなが話していると、突然医務室の扉が開く。
「…多分、完全に模倣コピーの部類なわけではないと思うわよ。」
扉の前に立っていたのはアイだった。疲れ切った顔でヨタヨタと医務室に入ってくる。
「あれ、アイちゃんどしたの?」
「どーしたもこーしたもないわよ…ハッキングされてデータ改竄されたところの修正とハッキング元を見つけ出すために過去のデータ編集元の洗い出しとか、同時進行で色々やってたから頭が疲れて仕方ないのよ……。せっかく修正終わったと思ったらロボットはもう停止させられてたし…。」
アイは説明しながら、帽子を外して空いているベッドに倒れ込む。
「ちょっと疲れたから休ませて…説明は後でするから~…んん……。」
アイはベッドに横になるとすぐさま眠りについた。
「アイちゃん、寝ちゃった…。」
少女が眠るアイの頬をつつく。アイはそれに反応してか寝返りをうった。
「アイちゃんは急ピッチで脳を使ったりすると魔法の酷使しすぎで疲れちゃうから、定期的にここで仮眠とかしてるんだってさ。深夜に起きて作業したりするのも影響してるんだろうけど。」
凛泉がベッドから上半身だけ起き上がり、手を伸ばしてアイの頬をつついた。
「んん~…。」
「それ以上はやめてやれ…。」
碧射が凛泉の手をのける。凛泉は軽く舌打ちをするが、まあいいやとベッドに寝転び直す。
「んで、アイちゃんが言うには君の魔法は模倣してるように見えて模倣じゃない…だっけ?」
タバコを吸い終わった息吹がパイプ椅子に腰をかける。
〔今回はカクタ・リノを運ぶためだったので許しましたが、次回からは医務室での喫煙は控えてくださいね、ヨヨギ・イブキ。〕
「はいは~い、分かってます気をつけますよ。」
息吹と呼ばれている女性が真顔で生返事をする。
「えっと…いぶき、さんでいいんでしょうか?」
少女が息吹を見ながら首を傾げる。
「ああ、私は代々木よよぎ息吹いぶき。まあ見ての通り頼れるお姉さんだから、困ったことがあったら何でも聞いてね、はははっ。」
息吹は真顔で自分に親指を指して笑う。いや声は笑っているのだが顔は真顔だった。
「んで、模倣とかコピーじゃないんなら何だって言うのさ?碧射とかと廃村で一緒にいた時は発動しなかったじゃん。」
「それなんだよな…発動条件があるんだろうけど、それがわからないんじゃ俺たちも呼称をつけようがない。それが分かりそうなアイは今力尽きてるわけだしな。」
(娘が戦える力を持っているのは良いことなのかもしれんが、私としては娘がこれからも危険な場所に向かうのは心配であるな…。)
「センちゃん…。」
ベッド横のテーブルに置いた千変万化の声を聞き、少女が小さく名を呼んだ。
(まあ、娘が戦ってくれるのであれば私もこれから娘とお話できるし共に戦えるからその点は嬉しいのだがな!)
「セ、センちゃん……。」
少女は小さく項垂れる。
「…さっきから誰と喋ってるんだいアンタ?」
息吹がタバコを灰皿で消し、少女を見つめる。
「え、あーいやその…ナンデモナイデス。」
「嘘がとんでもなく下手だねぇ、あんた…。」
息吹が千変万化をチラリを見て手で掴む。
「これがアンタの封魔武具?」
「え、あっはい!」
(ぬううイっちゃんよ!イキナリ鷲掴みはやめてくれびっくりしたぞ!)
(も、もうあだ名つけてる…)
すると、医務室…というよりは日本支部全体に警報が鳴り響いた。
「!?」
警報と共に、女性の声でアナウンスが響く。
『東京都中央区にて偽神の出現を確認!日本支部にいる魔法戦士の方々は直ちに出撃準備を整えてください!』
「ちっ!今日は多いな…!息吹さん!」
「仕方ないねぇ、行くよ!」
二人が医務室から走り去っていく。
「あ…わ、私も…!」
少女が立ちあがろうとすると、イプシロンが少女の肩を掴みベッドに戻す。
「わわっ!」
〔いけませんよ。怪我人はここで安静にしていてください。あなたもですよカクタ・リノ…。〕
イプシロンが凛泉の方を振り向くと、そこにはもぬけの殻となったベッドだけが残っていた。
〔……………。〕
イプシロンが顔をしかめる(ような形に目の映像が動いた)。
「あ、あのう…。」
すると、イプシロンの少女を掴む腕のモニターに、[error]の文字が現れ、少女の肩を離した。
「あ…っ!」
少女は少しふらつきながら、千変万化を掴んで医務室を飛び出した。
〔あっ。〕
イプシロンが腕の動作が戻ったのを確認し呼び止めようとするが、少女は既に走り去っていた。
〔何のつもりなんでしょうか、。〕
イプシロンが誰もいない医務室の中央に語りかける。すると、地面を4速歩行で歩く機械が天井から落ちてきて、背中にある画面のようなものから3Dモデルのようなものがイプシロンの目の前に映し出された。そのモデルは可愛らしい少女だった。
〔うふふ、だってあの子、面白そうじゃないですか。それにあの子の魔法について調べるなら戦闘訓練なんかでチマチマやるより、実戦に送り込んで直接調べたほうが早いでしょう?〕
その映し出された少女の胸元には、「シエル」と書かれたネームプレートのようなものがついていた。すると彼女は先ほどのアナウンスから聞こえた声と同じ声で喋り出した。イプシロンが再び顔をしかめる。(映像)
〔あなたの場合はそれを口実にあの人について調べたいだけでしょう?わざわざ一時的に私の腕をハッキングしてまで…。〕
〔いいじゃないですかー、あの子の魔法が判明すふことは財閥にとって優先的で大切なことだと思いますよ?〕
少女がエヘッという文字を、漫画の擬音のように空中に映像で映し出した。
〔念のためお聞きしますが、あの戦闘訓練室のロボットのハッキングもあなたが行ったのですか?〕
〔え、それは知りませんよ。私そんな悪い子じゃないですもん。〕
〔そうでしたか。〕
イプシロンはそっけない返事を返し(メカだから当然と言えば当然だが)医務室のベッドなどを片付け始めた。シエルと呼ばれた少女はニコリと笑い、映像を切ってその場から消えた。
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