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おまけ あの時のジュード視点(※本編微ネタバレ有)

7〜9話のこと

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 薬草採取に連れてきたら、リヒトがスライムの群れに飲み込まれた。どん臭すぎる。

 助け出したはいいものの、ぬるぬるのどろどろだし、耳にも入ったとか喚いている。指で掻き出してやろうとしたら、目をぎゅっとつむって、口を固く結んで……

 ――声、我慢してんのか、こいつ。

 そんなにくすぐったいか?
 今さら付けるべき格好もないだろうに、いじらしいやつだ。

 もう指じゃ駄目だから、仕方なく口で吸い出してやる。一度目は耐えたが、二度目はリヒトの口から高い声が漏れてきた。

「んっ……う……」

 ――は……? 笑うとかじゃなくて、か。

 目の前で甘ったるい声を出しやがって。顔を赤らめるな。相手次第じゃ襲われてるぞ。

 リヒトを図書館にやっている間、買い出しに付いてきたエマにあいつの醜態を話してみる。(あわよくば幻滅してほしい)

「そういや、リヒトがスライムに埋もれた時、耳にも入ったとか言ってたんだけどな」
「えっ? うわぁ……」
「吸い出してやったら、あいつ、女みたいに高い声出して――」
「はぁ……!? す……吸い出した? 口で? ジュードが?」
「一番、手っ取り早かったからな」

 エマは、しばらくぽかんとしたままこちらを見上げたあと、おかしそうに肩を揺らす。

「それは、いや、その顔でやられたら理性死ぬでしょ」
「はは、大げさだな」
「ふふっ……ジュードが他人のこと話すの、珍しいね。――あ、被害者が」

 そうつぶやいて、エマは道の向こうからくるリヒトに小さく手を振った。

 ――そんなに珍しいか? まあ、そもそも他人と関わらないしな。

 たしかに、今日はじめて知ったくらいだ。自分の唇が、他人の耳たぶに触れた時の感触だとか。

 ……癖になるもんだな。
 夜、ベッドでリヒトを後ろから抱え込んで、あごを固定して、唇で耳たぶを食む。やわらかくて、なめらかで、少しだけひんやりしている。リヒトはわずかに身をよじっていたが、抵抗しているのではなく、動きを抑えられないといった様子だった。

 喉の奥から、かすれた甘い声が漏れている。
 こんなふうに身を差し出されて、なにも感じないわけではなかった。

「……お前、本当に抵抗しないよな。良いのか、これが」

 解放して尋ねてみると、リヒトが大声をあげてこちらを振り向く。

「は――はあ!? なに言ってんの!?」

 次第にしどろもどろになる。

「こっ、これはぁ! 仕方なく! お前に借りがあるから!」
「その割には、最近甘ったるい声を出すよな」
「っ~~!? それはぁ! 他にそういう相手がいないから! お前だって仕方なくオレを触ってんだろうが! 同じだよ! ちょっと顔が良いからって自惚れんな!」

 本気で言っているのだろうか。まあ、こいつはエマが好きだと言っていたし、やり場のない欲求を募らせているのかもしれない。

 もしも、万が一、いや万に一つもあり得ないが、エマ自身がリヒトを選ぶようなことがあった時のために一線は超えないでいてやろう。

 だなんて考えていたら、こいつはエマと祭りに行くし、俺とエマが恋人同士ではないと知って嬉しそうだし……なんというか、ムカつくな。

 そんな中、リヒトが俺の出自に関係する質問をしてきた。

「リヒト。お前は、これを聞いても、俺を裏切らないと誓うか?」

 この情報を知ったら、こいつが俺から離れて行くんじゃないかと思った。安全性だけの問題ではなかった。

 ――いや、なんで、俺はこいつにこだわってるんだ……。

 本当に、“エマをリヒトにやるわけにはいかない”のか?

 本当は、“リヒトを、他の誰かに渡したくない”んじゃないのか?

 ……いや、全く、馬鹿馬鹿しい。

 その可能性については、少しも考えたくなかった。
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