追放されたオレを拾ったやつが超カンジ悪い!

甘糖めぐる

文字の大きさ
22 / 32
本編

22話 一件落着だったのに勃発しそう

しおりを挟む
 呪い竜の消滅から、一ヶ月が経った。王太子の残した古文書の現代語訳含め、諸々の調査が終わって、いくつかの情報が公開された。

 なんでも、あのダンジョンは、マディクシオンを後世に残すためにかつての王族が作ったものらしい。道中に召喚される魔物を倒し、最深部へ到達する力がある場合にのみ託される手はずだったのだろう。

 まあ、悪用されることなく終わってよかった。王太子の計画は、そのやり方に恐怖を覚えて逃げ出した騎士が証言してくれたから、こちらがマディクシオン復活の濡れ衣を着せられることもなかった。
 それどころか、マディクシオンを倒したジュードなんて、国を救った大英雄の扱いを受けている。国王は、現金にも「ジュエルウィードを再び王家に迎え入れる」とか「次期国王はお前だ」とか言っているらしく、あいつは城に呼び出されて、もうずっと帰ってきていない。

 帰ってこないのだ。まだ、好きの一言も伝えていないのに。

 ――まあ、相手は、次期国王だしな。身分が違いすぎて……両想いでも、報われない。

 だから、このまま、王都を離れることにした。

 ◇◇◇

 両親と一緒に見送りに来てくれたエマを、振り返る。

「それじゃあ、ここまででいいから。色々お世話になりました!」
「いえ、こちらこそ。……でも、本当にいいんですか? ジュードに会って行かなくて」
「うん! あいつ全然帰ってこないし、いつまでもお世話になってるわけにはいかないからさ。エマたちは、これから出かけるんでしょ? 楽しんできてね」
「はい――ありがとうございます」

 笑顔で、手を振って、別れる。

 建物や人通りがまばらになる。このまま歩き続けて、どこかの町で乗り合いの馬車にでも乗ろう。

 はじめから馬車に乗らなかったのは、王都で乗るとちょっと運賃が高いから。それだけ。

 ――ジュード……本当に、帰ってこなかったな。

 一ヶ月も、待ってしまった。

 ――こんなことになるなら、もっと早く言っとけばよかった。

 立ち止まりそうになる。

 ――いや、大丈夫、大丈夫……。時間が解決してくれる。

 再び、歩く速度を上げる。

 ――痛い。

 胸が、こんなに痛いのに?

 本当に大丈夫か?
 もしかしたら、一生、ずるずる想いを引きずって、あいつのことを夢に見て、好きだと言えなかったことを悔やみながら生きていかないといけないんだぞ。無理だろ、そんなの。ここで口を閉ざしたままで、一体誰が幸せになるんだ。

「リヒト」

 呼ばれて振り返ると、ジュードが立っていた。

「え、あ――え?」

 普通に似合っている王族の服を着たまんま、走ってきたのか僅かに息を切らしながら、ジュードは険しい表情をこちらへ向けている。

 明らかに怒っている声。

「お前、なに勝手にいなくなろうとして――」

 でも、そんなの知らない。
 今だ。

「なあ! オレ、お前のこと好きなんだけど!」

「――は?」

 言った。言ってやったぞ。

 ジュードが呆気に取られている内に、愚痴を畳みかけておく。

「は? じゃないよ! キスもしたじゃん! なのに、お前は急に触ってこなくなってさあ! やっぱり女の子がいいのかなって思うじゃん! 挙句の果てに一ヶ月放置されたらいなくなるだろ! 今更なんの用ですか次期国王様ぁ!」

 両手で胸ぐらをつかんで引き寄せる。すると、知らない花の香りがふわりと漂ってきた。

「うわ、誰の香水?」

 思わずパッと手を離す。が、すぐにガシッとつかまれた。

「知らない。社交パーティーに、無理やり参加させられてたんだよ。集まってくるやつらと適当に踊ってたから、誰の香水かなんて……」
「踊っ!? ははっ、お前ダンスとかできるの?」
「なにがおかしい」

 全てが。
 中身はこんななのに、ジュードは顔が良いから、どこぞの御令嬢がそれはもうたくさん集まってくることだろう。笑っちゃうくらい腹立たしい。

「へ~そっかあ。お前、選び放題なんだ? そうだよなあ、誰か良い人いた?」

 なんで、こんなに突っかかってるんだっけ。
 ちょっと泣きそうになった時、ジュードはやけに神妙な面持ちで口を開いた。

「いない。どれだけ言い寄られても、誰にも触れたいと思わなかった」
「……!」

 たったそれだけで、大人しくなって、ちょっと期待してしまう。

「そ……そう? でも、もう呪いも解呪の力も関係ないんだし、オレじゃなくてもいいじゃん……?」
「そう思ってたら、捜しに来ない」

 手をつかまれたまま、来た道を連れ戻される。

「えっ!? ちょっ、待って! オレ、田舎に帰るんだけど!?」
「それは、終わってから判断しろ」
「なにが!? これから何があるの!?」

 ジュードは何も言わない。どんどん人通りが増え、王族と、なぜか引き回されている一般人を見た通行人がひそひそ話をする。そりゃそうだ。

「おい、離せって! お前、今の自分の立場わかってんの!?」
「うるさいな。それは問題ない。その為に一ヶ月も説得し続けたんだ」
「いやもう、この状況が問題なんだけど!?」

 説得? なにを? 聞いても無駄そうだ。

 とりあえず、

「なあ、帰るならシャワー浴びて。香水、落としてくれない?」

 別に、香水そのものが嫌なわけじゃないけど。

「そのつもりだよ」

 ジュードは、ぶっきらぼうに答えた。

 あれよあれよという間に、カーソン薬屋の二階に連れ戻されてきた。ジュードはシャワーを浴びに行って、オレはいつもの部屋に一人で立ち尽くしているわけだけど。

 ――え……? なに? これからどうなるの? なにかされる? ただ待ってればいいの? と言っても部屋はもう温まってるし……服でも脱いでればいいの……? というか、さっきジュードが一階から取ってきたコレ、なんなの……!?

 ベッドの端に、薬屋の棚にあった何かのボトルが置かれている。

 もう考えてもわからないので、とりあえず、一番下のシャツとズボンだけになっておくことにした。これなら、特に何も起こらなくても、暑いから脱いだと言い訳することができる。

 ベッドに座って、そわそわしていると、ジュードが浴室から戻ってくる。バスローブ姿なところを見ると――すぐに脱ぐつもり? らしい……。

 ――あれ、やっぱりこれ……今から、抱かれる……!?

 顔を直視できない。反対側に視線を落とす。

 隣、見えない方に座ってきた。

 なにも言わないまま、耳を触られる。そこから首を伝って、鎖骨へ。くぼみをなぞられる。

 ――あ……この触り方、やばい……。

 その手を待ちわびていた体が、敏感に反応する。

 でも、どうして一時期、急に触ってくれなくなったんだろう。

「なあ、ジュード……オレでいいわけ? 違うって思ったから、こういうこと、しなくなったんじゃないの?」

 ぴたりと、ジュードの手が止まった。一体なにを言っているんだ、とでも言いたげな声が聞こえる。

「そりゃ、お前、エマが好きだの俺は嫌いだの散々言ってただろうが。遠慮してやってたんだろ」
「えっ、そんなに言ってた……!? 言った気もするけどぉ……! てか、変なところで遠慮するなよ……!」

 悩んで損した。恥ずかしかったのを忘れてジュードの方を振り向くと、熱を帯びた視線に射抜かれて動けなくなる。

「どうするんだ? 逃げるなら今のうちだぞ」

 ずるい。ここまで連れて来ておいて、オレに決めさせるなんて。

 ――そんな、今さら逃げたりなんて……いや、でも、心の準備が……!

 確かにジュードを特別な存在だとは思っているけど、オレにだってまだ男としてのプライドは残ってる。知らない体験をして、めちゃくちゃにされて、取り返しのつかないところまで自分を変えられてしまいそうなのが怖い。

 でも、目の前にジュードがいるのに、何もしないなんて選択肢はなかった。

「その……とりあえず、キスくらいは、しても……いいけど」

 線引きがあまりにも純情だったせいか、少し鼻で笑われて――それから、長い長いキスをされた。

 まるで、こちらの温度や感触を確かめるような。いや、本当にそうしていそうなキスだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったら引くほど執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

処理中です...