師匠、俺は永久就職希望です!

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13 師弟はそうしていつまでも(終)

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 荷物のように肩に担がれて来た割に、師匠の部屋のベッドに置かれる時は壊れ物を扱うみたいに丁寧だった。
 ローブを脱がされたかと思えばすぐに師匠が俺の身体の上に乗り上げてくる。腰の上に乗られるとやはり長身の師匠はずしりと重たく、後退りしようにも出来ない。
 俺が後ろに肘をついて上半身を起こそうとする上でゆっくりとローブとシャツを脱いだ師匠は、それを床へ放ってから唇を噛むように舐めて湿らせた。

「あー……やべ。乗っかるだけで興奮する」

 師匠の裸を見るのは数年ぶりで、まだ上半身だけだというのに俺はどこを見ていいのか分からなくなって視線を逸らす。
 心臓の音がうるさく鳴り出して、普段はそこが動いてる事すら意識しないのに、今はやたらと耳障りだ。背中を丸めて屈んできた師匠に頬を撫でながらちゅっちゅと額にキスされて更に心音が速くなった。

「……っん」

 頬を撫でる手と逆の手が、俺の腰から這い上ってくる。
 さっきは直接触ってくれたのに、今度はシャツの上から掌で大きく撫でられた。尖った突起が特に刺激を受けて腰が跳ねる。さす、さす、と雑に胸を撫でられて、もどかしさに太腿を擦り合わせた。
 シャツ越しに硬くなったそれを見つけた師匠はそこに掌の窪みを合わせるように撫で、触れて欲しくて息を詰めた俺を見下ろして口角を上げる。
 前髪を避けて額に口付けてきた師匠はそのまま頬に唇を落とし、それから間近で視線を合わせて悪戯っぽく目を細めた。

「順番間違ったな。最初はキスからだよな? 『普通』は」

 俺が胸を弄って欲しくて涙目になっているのを分かっていて、わざと焦らすように師匠は頬を撫でてくる。

「キスしていいか、エシャ」
「……き、聞かなくても」
「して、って言わせてぇんだよ」

 ニヤニヤと頬を弛ませる師匠の表情は今まで見たことのないものだ。
 酒場で俺に声を掛けてくる酔っ払いと同じ表情をした師匠に若干引きつつ、これを五年もひた隠しにしてきたのは確かにすごいかもしれないと思った。

「……師匠、変態オヤジっぽい」
「ぽいっつーか、そのものだからな。……なぁ、していいのか。それとも嫌か?」

 師匠の親指に下唇をふにふにと揉まれて、俺が答える前に顔が寄ってくる。荒い吐息が薄く開いた唇の間から入ってきて、それを飲み込むとぞくりと背筋が震えた。

「あの、師匠」
「なんだ」
「その……、無理やり、されたい」

 俺の妄想が筒抜けなら隠しても仕方ないし、と素直に欲求を口にすると師匠は数秒固まって、それから唇を押し付けてきた。
 下唇を噛まれたかと思えば舌に舐められ、驚いて開いた隙間から侵入される。熱くてぬめる舌が俺の腔内を舐め回し、俺の舌に絡んできてザラついた表面を擦り付けられる。

「んっ、ぁ」

 師匠の舌は分厚く長くて、顎が外れそうなほど大きく口を開けてもまだ奥を目指すみたいに伸びてくる。上顎の奥を舌先でくすぐられるとこそばゆさとえづくような感覚が同時にきて、逃げようと顔を振ったら両手でがっちりと掴まれた。

「う……っ、け、ほ」
「『して欲しい』時点で『無理やり』じゃねぇだろ。煽って誤魔化そうとすんな。ちゃんと言え」

 言わねぇともっと乱暴にすんぞ、と囁きながら師匠は咳き込む俺の口の横を舐めてきて、皮膚が唾液で濡らされる初めての感覚にぞくぞくする。
 そんなところが美味しい筈もないのに、師匠の舌はべろりべろりと遠慮なく俺の頬を舐めて、耳の付け根までくると耳朶を甘噛みした。ちゅうっと吸われる音が耳に高く響いて思わず肩を竦めると、ふっと笑った吐息で耳の中が生温かくなった。

「ご、誤魔化そうとなんて、してない」
「なら、どうされたい」
「だから、無理やり……」
「何度も同じ事言わせんな」

 機嫌を損ねたような声色で師匠は強めに耳の上の方を噛んできて、痛みに一瞬呻くがすぐに癒すように舐められてまた震えるような甘い感覚に変わる。
 顎骨を辿るようにじっとり舐めながら舌が顎先へ下りてきて、唇の下を吸われると腰の後ろが浮くほど身震いした。

「っし、しょ」
「言えよ、エシャ」

 甘えるみたいにそこに何度も口付けられて、乱れる息を一度深呼吸で整えてから勇気を出して口を開いた。

「キス、して……。師匠と、キスしたい」

 俺がちゃんと言葉にすると師匠は嬉しそうに顔を綻ばせ、ゆっくりと唇を押し付けてきた。唇同士をくっつけ合うだけのキスを何度か角度を変えて繰り返され、ついさっきもっと激しいキスをされた筈なのにこっちの方がよっぽど心臓がドキドキ鳴る。

「舌、入れていいか」
「……うん」

 恥ずかしいからわざわざ聞かないで欲しいのに、だけど師匠が聞きたいというなら素直に返事するしかない。
 そっと俺の反応を窺うみたいに唇を舐めてきた師匠の舌を、薄く開いて誘う。尖った舌先がゆっくり俺の口の中に入ってきて、俺の舌先に触れるとじわりと微かに甘い唾液を滲ませた。

「……っ、ん、んん」

 少しずつ俺の口に流し込まれる唾液を、こくんと飲み下すと師匠は俺の首の後ろに手を回して口付けを深くしてきた。だけど、さっきみたいに激しくはない。舌を絡め合って、口の中から溢れ出しそうな唾液がどちらのものか分からなくなるほど長い時間そうしてただ没頭する。

「ッ! や、ぁ」

 自分から出たとは思えないほど高い声が出たのは急に師匠が俺の股間を握り込んできたからで、キスだけで下着を濡らして主張していたその先端を掌で撫で回されて思わず口を離した。

「師匠っ、そ、そっちは……まだ……っ」
「まだ? 焦らされてぇの?」
「そうじゃなくてっ」

 触られる心の準備が出来てないんだと師匠の手を掴んで止めようとするのだけど、師匠はにやにやと口元を緩ませながら首を押さえていた手を胸の方へ滑らせてくる。

「ああ、こっちが先?」
「そうでもなくて!」

 わざと意地悪く訊かれて睨むのに、硬くなった股間の肉をすりすりと撫でられると擦り合わせた膝が震えた。

「なあ。して欲しいことされんの、気持ち良かったろ? もっと教えろ。なんでもしてやるから」

 次は何がいい、と囁かれながら首筋を舐めたり甘噛みされたりしてぞわぞわする。
 師匠の声も体温も慣れたものの筈なのに、初めて触れるみたいに緊張する。慣れない舌の感触がそう思わせるのか、それともそもそもの意図が違うから初めてに違いないのか。
 震える手で胸まで下りていく師匠の頭を撫でると、視線を上げた彼は見慣れた暖かい目で俺に微笑みかけてきた。それに少しだけホッとして、短くなった師匠の髪を指に巻き付けながらもごもごと言葉を探す。

「……分かってると思うけど……、俺、初めてだから……、その、正直、キスと触るのより先のこと、よく知らない」

 男には女と違って性行為専用の穴が無いから、選択肢として一箇所しか入れる場所が無いのは想像がつく。だけれど、どうやってそこに入れるのか、というか入れて大丈夫なのか、そもそも本当にソコなのか、それすらよく分かっていない有様だ。
 なんとなく今までの妄想では『師匠とするなら幸せで気持ちのいい行為なんだろう』というぼんやり加減でやり過ごしてきたのだけど、いざ実際に、となると怖気づきそうになる。
 呆れられるだろうか、と師匠の反応を窺うと、彼はぐっと唇を噛んで視線を逸らしてから、何故だか何度か小さく頷いた。

「……? 師匠?」
「いや。やっぱ過保護にしてて良かったなと思って」
「はぁ?」
「全部俺が教えてやれるだろ」

 最高、と呟いた師匠はぐっと伸び上がるようにまた俺の唇にキスしてきて、それから安心させるように俺の頭を腕の中に抱え込んでよしよしと撫でてきた。

「大丈夫だ。俺が全部やってやる。お前はただ気持ちいいのに任せてりゃいい」
「……え、でも、それはなんだか……」
「変更だ。今日は焦らすのも無しで優しく優しく抱いてやるよ。色々覚えんのは今後ゆっくりな。一回、通しで何するか分かった方が安心するだろ」

 俺の性格を熟知した師匠は詳細を教えないまま行為に及ぶと今後の不安に繋がると思ったのか、そう言うが早いかベッド横の戸棚を漁ると小さな小瓶を取り出して俺に見せてきた。
 薄く琥珀色の付いた、ほぼ透明の液体が入った瓶だ。
 蓋のコルクを引き抜くと俺の鼻先に寄せてきたので、嗅げということかと鼻から吸うと菓子のような甘ったるい匂いがした。

「潤滑油だ。これをお前の尻に塗り込んで、指で慣らして柔らかくしてから入れる」
「……」

 やっぱりそこに入れるんだ。
 小瓶を傾けて粘液を掌に落とした師匠は、俺を見下ろして「恥ずかしいならうつ伏せでもいいぞ」と首を傾げた。

「え、あ、もう入れるの?」
「指だけな。痛くねぇように慣らすのに時間掛けるし、他んとこも弄りてぇから嫌じゃねぇならそのままがいーけど」

 お前の好きにしていいぞ、と言われて、師匠が良い方に、と頷いて膝を立てて開く。そこに触れるなら足を開いた方が良いだろうと単純に考えて反射的にそうしたのだけれど、師匠の視線が開いたソコに向けられたのを見て急に恥ずかしくなって慌てて膝を閉じた。

「おい、閉じんな」
「だって」
「だってじゃねぇ」

 長い指に甘い匂いの粘液を纏わせた師匠は肘で俺の脚の間を割ってきて、渋々開くと反対の手が足から下着を引き抜いていく。
 師匠にも同じ物がついているんだから見られても恥ずかしがる必要は無いと自分に言い聞かせるのだけど、どうにも落ち着かなくて不自然に顔を逸らしてしまう。
 ぬるりとした感触が尻の狭間に触れてきて俺がぐっと拳を握ったのを見て、師匠が「力抜け」と膝頭にキスしてきた。
 排泄の時か風呂の時にしかそこに触れた事はない。そんな所を師匠の指で暴かれるというのに緊張するなという方が無理で、緊張すれば体が固くなるという当然の理も分かっているのにどうにも体が言う事を聞いてくれない。
 唇を噛んでじっとしている俺に、師匠はしばらく窄まりの周りをぬるつく指で撫でていたが、体勢を変えて俺の胸に頭を寄せてきた。
 放っておかれて平らに戻っていた乳首を服の上からはむはむと唇で甘噛みされて驚くと、師匠は布地越しにそこを愛撫し始めた。

「……っ、ふ」

 硬い歯の先に齧られて尖らされたかと思えば、柔らかく濡れた舌に潰される。唇に吸われて引っ張られ、また舌に転がされる。弄られ慣れていない突起は布一枚挟んだぬるい刺激にすら敏感に反応し、身悶えしたくなる甘い感覚に唇を噛んだ。

「んっ! ……や、ぁ」
「もっと声出せ。その方が興奮する」

 片方を舐められているだけでクラクラしてきたのに、反対側の乳首を指に摘まれて大きく身体が跳ねた。両方を同時に弄られるなんてまだ耐えられない、と首を振って嫌がるのに、師匠はまだ柔らかい方を爪の先でカリカリと引っ掻きながら息荒く笑う。

「は……、師匠、ほんと変態っぽい……っ」

 脱がさず服の上から弄ってくるのもだし、それで俺が焦れて身を捩っているのを楽しんでいるのも、潤滑油でぬるついた指を窄まりの上に置いたままなのも。
 今日は焦らさないと言ったばかりなのに、師匠の触れ方は俺の熱をじわじわと上げていくばかりで直接的な強い快感を与えてはくれない。
 弄ぶような軽い刺激を与え続けられて息を荒げる俺を見下ろして、師匠はとても愉しげに目を細めている。

「可愛いな、エシャ」
「うる、さ……、師匠、も……、早く」

 このままこのもどかしさに慣らされたら頭がおかしくなりそうだ。
 早く次の工程に移ってくれと力なく睨むと、師匠は口元の笑みを深くして俺の中に指を埋め込んできた。

「……!」

 思わず息を詰めるのに、硬く絞ったソコを師匠の指はさほどの抵抗も感じないように奥深くまで入ってくる。
 長く細い指が、ぬるりとしたものを纏って俺の中を割り開いていく。腹の中で何かが動く初めての感触はただただ気色が悪く、唇を引き結んで耐えた。

「痛いか?」
「……く、ない」
「そうか。もう少しだけ我慢な。ちゃんと慣らさねぇと切れちまうから」

 俺はよほど嫌そうな顔をしているのか、師匠が心配そうに眉根を下げてキスしてきた。
 まだ片手が胸を弄ってくれているけれど、それが慰めにもならないくらい、腹の中を蠢く指の感触が気持ち悪い。痛みは無いけれど、拒否感が強い。
 出来るなら今すぐ抜いて欲しいけれど、俺の身体を気遣ってくれているのだからそうもいかない。
 にゅるにゅると出し入れされる指がそのうち二本になり、三本になり。耐えているうちに気持ち悪さにも慣れてきた頃、ふっと息を抜いた瞬間に指が擦った内側に灼けるような強い快感が走った。

「あ……っ」

 悲鳴みたいな小さな声が喉から漏れ、思わず膝を閉じた俺に師匠が首を傾げる。

「痛かったか?」
「ちが、……なんか、今、びっくりして……」

 まるで神経を直接触られたみたいだった。
 さっきから同じ所を何度も擦られていたはずなのに、と困惑する俺の中で、師匠がゆっくりと探るように指を埋めてくる。

「っん、んん、師しょ……っ、そこ、だめ」

 指先がまた強烈な快感を生むところに触れてきて、確かめるように何度もつつかれて膝の間に挟んだ師匠の腕を更に強く絞めた。

「この辺、痛いのか?」
「い、たく、ない……、痛いんじゃ、なくて……、ん、ぁ」
「痛くないなら、どうした。何が嫌だ」
「あ、……や、……やだ……っ、そこ、なんでっ、き、もちい……っ」

 それまで傷付けないように丁寧に抜き挿しされていただけだったのに、急にぐちゃぐちゃと激しく出し入れされて、しかも指先が執拗に気持ちいい所を突いてくる。
 排泄する為の穴の中が気持ち良くなってそれだけでも訳が分からないのに、気持ち悪いだけだった出し入れされる感覚までもが激しくなった途端に背筋が反り返るほどの快感に変わって身悶えた。

「や……っ、師匠、やだ、こわい、やだ、やだっ」
「かわい……」

 腹の中が熱くて真っ赤で、焼け焦げそうだ。
 甘ったるい潤滑油の匂いが立ち上ってきたかと思えばまた師匠が瓶を傾けていて、今度は彼の指ではなく俺の狭間に直接冷たくぬるぬるした粘液が注がれる。

「あ、やぁ、やだぁ……っ、やめ、お願」
「気持ち良くなってきたんだろ? 今やめてどうすんだよ。もっと気持ち良くしてやるからそんな怖がんな」

 やめて欲しくて暴れる俺の両脚に師匠は身体ごと乗っかって押さえ付けてきて、まだ着たままだった下衣を片手でずり下げながら舌舐めずりする。下着の中から現れた師匠の股間はヘソの下に付くほど反り返っていて、赤黒いそこがビクビク震えているのが彼の興奮を示しているようで顔が熱くなった。

「エシャ、……いいよな?」

 下衣を全て脱ぐ手間すら惜しいのか、膝まで下げただけで師匠は俺の脚を掴んで左右に割り開くと付け根に熱い肉を押し当ててきた。俺の中を抉っていた指が抜かれ、どろどろのその指で硬く勃起した陰茎を濡らして窄まりをぐにぐにと押してくる。

「なあ、エシャ。いいだろ? 入れていいよな? なぁ、エシャ」

 まるで俺の許しが無ければ挿入れられないみたいに、師匠は切なげな目をして強請るように小刻みに腰を揺らす。ふぅふぅと荒い息の合間に何度も甘えるように名前を呼ばれてたまらない。

「ん……、俺の中、入って、師匠」

 俺を求めてくれるのに焦らすつもりはなく、師匠の背中に腕を回すと彼は嬉しそうに破顔して抱き着いてきた。

「エシャ、好きだ。愛してる。……やっと言える。エシャ、エシャ、俺のエシャ、大好きだ」

 ちゅ、ちゅ、ちゅ、とやっと正直な気持ちを伝えられるようになったのを噛み締めるみたいに何度もキスしながら、師匠は俺の中に挿入してきた。
 指のようにすんなりとはいかず、ぐぐ、と窄まりを開かれる感覚に意識して深く呼吸をする。
 身体を弛めていれば、またさっきみたいに気持ち良くなれる。自分から快楽を貪る準備をするのは恥ずかしいけれど、師匠と繋がれるのにわざわざ気持ちの悪い思いをしたくはない。
 すうはあと息をする俺の唇を師匠が何度も吸っては舐め、俺の吐息を飲み込んで更に肉を膨らます。

「っ、ぁ、あ、あ」

 根本まで埋まる頃にはもう俺は限界で、指でも届かなかった一番奥を突かれて呻きながら陰茎から精を吐いた。びゅくびゅくと白濁を吐いて震える肉を見下ろして師匠が目を細め、濡れた腹を撫でて「かわいい」と囁いてくる。

「エシャ……、なぁ、お前も言ってくれ。俺のこと好きか、エシャ」

 腹の中を貫く陰茎は指よりずっと太く熱く、中にあるだけで泣きそうなほど気持ちいい。呼吸に合わせて微かに揺れるのすら刺激になって、達したばかりなのに俺の肉は萎えもせず透明な先走りを流し始めた。

「好き、師匠……っ、師匠、動いて、ねぇ」
「あぁ? さっきまでやめてやめてって言ってたくせに、随分現金だな」
「だ、って……、気持ち、ぃ……っ、好き、これ、好き、もっとして、いっぱい、なか、擦って」
「……俺の想像よりエロいとかやめろよ。優しくしてやりてぇんだから」

 ごくりと生唾を飲んだ師匠は俺の腰を抱えて抽挿を始め、太い肉が抜かれていく感覚に喉を反らして感じ入った。

「あっ、ん、きもちぃ、師匠……、きもちいい……」

 ぬちゅ、ぬちゅ、と交合部がぶつかって離れる度に音がする。やらしいその音に煽られるように腹の中の師匠を締め付け、呼吸の度に白黒に濁っていく視界に酔って瞼を閉じた。

「あー……、えっろ……。エシャ、お前、自分から腰振ってんの、無意識?」
「ん……、してる……、自分で……っ、動かして、る、けど……? だめ……?」

 抱き締められながらだとさっきと穿たれる角度が変わってしまって、師匠が動くだけだと一番気持ちいい所に当ててくれない。だから腰の角度を変えて調整していたのだけど、不愉快だっただろうか、と目を開けたら間近にあった師匠の目と視線がぶつかった。
 ニヤつく口元に不機嫌にはなっていなそうだと微笑み返すと、唇が落ちてきて舌がべろりと口の中をひと舐めしてきた。

「いや、最高。そこ擦られてぇんだな?」

 師匠が上半身を起こすとちょうど硬い肉の先端が気持ちいい所を押し潰して、小さく喘ぐと彼は嬉しそうに笑う。

「煽ったのはお前だからな」
「……? っあ、ぁ」

 途端、ばちばちと皮膚同士がぶつかる音がするくらい抽挿が乱暴になった。

「あっ、や、やぁっ、あ、ぁ……ッ」

 俺が気持ちいいと言ったところを的確に突き上げられて腰が浮く。腹を突き破られるんじゃないかという勢いで肉に穿たれて奥が痛むのに、それ以上に強烈な快感で意識がブレる。
 ビクビクと身体が震えてまた自分の腹に精液を吐いた心地がして、だけれどまだ天井じゃない。まだまだ一番気持ち良くなれる上限は遠いみたいに身体が期待して師匠の陰茎を絞る。
 擦り切れそうなほど抜き挿しされて目の前がクラクラと瞬いて、みっともないくらい乱れた喘ぎが漏れる。
 息を切らす師匠が一際強く腰を押し当ててきたかと思えば、中の肉が膨らんで、濡れた感触が広がった。

「あ……っ、あ、あ」
「う……っく」

 師匠のが注がれた、と感じた瞬間、腹の中が痙攣して一瞬目の前が真っ白になった。ビクビク大きく震えたと同時に襲ってきたのは今までで一番強い快感で、師匠の陰茎を強く締め付けた。
 出したばかりの師匠が呻いて、だけれど堪え切れないみたいにまた数度腰を振ったかと思うと、また腹の中に吐き出した。

「やべ……、お前ん中、気持ちー……」

 熱っぽい師匠の吐息が俺の耳に当たって擽ったい。
 一番気持ちいいところまで一気に駆け上った身体は沈むように重くなり、ふわふわした意識がつられるように沈んでいく。
 エシャ、エシャ、と師匠が俺を呼ぶ掠れ声が聞こえる。
 繋がった所はすっかり潤滑油と師匠の精液でとろとろに蕩けて、まだ足りないみたいに師匠がゆっくりと抜き挿ししている。一度萎んだ肉がまた膨らんでくる感覚がある。
 けれど、初めての俺はそこが限界だった。
 温かく気持ちいい波に包まれて、眠りの底へ落ちていった。










 けほ、と咳き込んで目が覚めた。
 薄目を開けると開け放った窓の外からはオレンジ色の夕陽が差し込んできていて、そこで師匠が窓枠に肘を付きながら煙草を吸っていた。
 風の流れで煙が俺の方に流れたのに気付いた師匠がこっちを見て、視線が合ってにこ、と微笑まれて胸がギュッとなる。
 ずるい。そんな反応されたら誰だって師匠を好きになる。

「目ぇ覚めたか。どっか痛いとこ無ぇか? 気持ち悪いとか怠いとかあるんなら飯はシュリんとこで買ってくるぞ」
「……俺のしか食べないんじゃなかったの?」
「俺はな」

 そこを曲げるつもりは無いらしく、師匠は煙草を擦り消すとベッドへ戻ってきて俺の頭を撫でた。
 ぎし、とベッドを軋ませて端へ腰掛けた師匠の太腿に頭を乗せると、寝乱れた俺の髪に手櫛を通すように指で梳かしてくれる。

「師匠」
「うん?」
「好きだよ」
「俺もだ」

 ぎゅう、と師匠の腰に腕を回して抱き付くと、彼もくっと笑ってから俺の頭を抱き締めた。

「……あんな気持ちいいこと、よく五年も我慢したよね」

 俺と違って女性経験もある師匠は、当たり前だけどセックスの経験もあっただろう。
 あれだけ気持ち良くなれる行為を俺が子供だからというだけで我慢していたのは経験した後だからこそ賞賛に値すると実感して、すごいね、と視線を上げると師匠は眉間に皺を寄せて複雑そうな表情をしていた。

「師匠?」
「んー……、うーん……」

 言い淀むように唸る師匠は珍しく、何か的外れな事を言ってしまったかと首を捻りながら体を起こすと、師匠は顎をさすりながら「言っといた方がいいか」と呟いた。

「あのな。あそこまで気持ちいいの、珍しいからな」
「珍しい?」
「いや、普通にヤッても普通に気持ちいいけどな。今日みてーにイきまくった挙げ句に気絶するようなセックスが普通だと思うなよ?」

 俺の頬をつついた師匠はその指でまた俺の頭を撫で、それから顔を寄せて唇に軽く口付けてきた。

「お前と俺が相性良過ぎるだけだからな。他の奴とヤッたらがっかりするぞ、たぶん」
「他の人となんてしないよ」

 唇を尖らせて口を挟むと、師匠はそういう事じゃないとばかりに額にもキスしてくる。

「……次も同じくらい気持ち良くしてやれるか俺が不安になる程度には、予想以上だったんだよ」
「え」

 師匠が? と目を瞬かせる俺に、師匠はバツの悪そうな表情で頬を撫でてくる。うーんと考えて、そして頬を撫でる師匠の指を掴んで笑顔を作った。

「じゃあ、今からもう一回しよ」
「は?」
「さっきより気持ち良くなかったら俺もそれが普通って分かるし、師匠ももう次が怖くならないでしょ? ね、しよ」
「ちょ……っ、コラ」

 自分から師匠にキスして、そしてそれが自分からする初めてのキスだというのに気付いて照れ笑いが浮かぶ。

「ねー、師匠。俺の記憶読んでたんだったらさ、俺がどれだけ師匠のこと好きだか知ってるでしょ? 我慢してたのは師匠だけじゃないんだよ。俺だってずっと、こうやって師匠とキスしたかったんだよ?」

 だからもっとしよう、と迫ると師匠は顔を真っ赤にして、俺から視線を逸らしてオロオロしだした。かわいい。
 太腿の上にまたがって唇を合わせて、さっき師匠にされたみたいに首の後ろに手を回して逃げられないようにしてから舌を入れる。戸惑うような目をしていた師匠は、けれどキスが始まると堪え切れないように舌を絡めてきた。
 たっぷり唾液を交換して心の方は準備万端とばかりに熱が上がっているのに、肝心の股間は俺も師匠も柔らかいままだ。いつの間にか着せられていた下着越しに擦り合わせてみると、気持ちはいいけれど勃起するまで血が集まってこない。

「さすがに、無理だろ。何回出したと思ってんだ」
「……魔術でどうにか」
「そりゃ出来なくはねぇけど」

 完璧に変化前に戻すの面倒だからあんま生身は弄りたくねーんだよな、と独言ちる師匠に、そういえば、と疑問が浮かんだ。

「師匠って、結局どうやって魔術使ってるの?」

 自分の魔力は未来永劫そっくりそのまま水精霊に明け渡してしまったというのなら、どうやって魔術を使っているのか。
 当然の疑問に、師匠は数秒黙ってから急に表情を引き締めた。真剣な顔に身構える俺とじっと目を合わせて、師匠はゆっくりと口を開いた。

「いいか。方法を教えるが、お前は絶対にやるな」
「え……」
「真似したら、俺は……、そうだな。きっと、悲しい。お前が俺との約束を破ったことにガッカリして、幻滅する」

 悲しげな表情で俺を見る師匠を瞬時に想像して、ブンブンと顔を横に振った。

「やだ。しない」

 そんなの絶対に嫌だ。師匠を悲しませる事なんてしたくない。

「契約する?」

 呪文を使って縛ればまかり間違っても一方的に破棄は出来ない。
 そこまで師匠が嫌がるのなら契約しておこうかと提案したのだけど、師匠は「いや」と緩く首を振った。

「お前にも、万が一があるかもしれねぇ。お前の命に関わるような危険な時だとか、そういう手段を選んでらんねぇ時に、『知ってたのに出来なかった』ってなったら魔術師失格だからな」

 師匠は俺の身を案じた上で契約で縛ることはしないと言い、それで逆に俺は絶対に使わないと心に決めた。
 続きの言葉を待つ俺に、師匠はまた煙草を一本取り出して火を点けた。
 風で揺れた髪の一本が消えるのを見て、契約している精霊がいるんだっけ、と思い出しながら煙草の吸い過ぎで禿げを作る師匠を想像してしまって、慌ててそのイメージを散らす。

「俺は、この世界そのものに溢れる魔力を使ってる」
「……は?」
「具体的に言うなら、まぁ手近なのは大地だな。森なら樹木。そこに蓄えられた魔力は『俺の物だ』。だから、俺自身に魔力が無くてもそっちから使えばいい」

 他人の魔力を借りて使うように、世界に自然に蔓延している魔力を使う。
 ただそれだけの事だ、と平然と言い放った師匠に、もしかしていつもクラスメイトはこんな気持ちだったのかと頭が痛くなってくる。

「そ……、そんな勝手な……、大地が、自分の物? 本気で師匠はそう思ってるの?」
「そうじゃなけりゃ使えねぇだろ」

 ふんぞり返るように胸を張った師匠の目に迷いは見えない。本気だ。本気で世界の魔力は自分の物だと思っているのだ。

「……怖い」
「だろ。これに気付いたらユルカが何するか」

 師匠の思い込みの強さにこそ恐怖を感じているのだけど、彼は俺の言葉を受けてそんな心配を漏らした。
 そうか、昨日師匠が過去の事を話してくれた時にもそれを心配していた。
 ユルカが師匠と同じ方法で魔力を使えるようになった時、それでも師匠が彼を止めるくさびになる為にと──。

「ん? もしかして、師匠、さっき俺にも楔を打った?」

 前後の会話を思い出して俺が訊くと、師匠はニヤッと笑って頷いた。

「そ。俺を悲しませたくねーし、幻滅されたくもねぇだろ? けど、知っちまったお前は忘れられねぇ。だから滅多な事では使えねーけど、万が一ユルカが暴走した時はこの方法で奴を止める楔役にもなれる」

 そん時は一緒に頑張ろうぜ、と言われて頭を抱えた。
 聞かなきゃ良かった。たぶん、師匠の言葉は俺の無意識をもう縛ってしまった。『万が一の時に使えなきゃ困るだろ』という言葉は、翻って『万が一になら使える』と埋め込まれた。
 ただ方法を教えられただけなら荒唐無稽だと俺には使えなかった筈の方法が、師匠の言葉によって『俺にも出来る』ことにされてしまった。

「まさか……、これから研修って理由で俺がユルカ様の部下になるのって……」
「おう、楔は多いに越した事はねぇからな。ドルジ先輩もお前なら成れるだろうって、昨日の試合見て納得して許可してくれたぞ」

 キスの合間に「『ソーシカ』のギルドリーダーお墨付きだぞ」と褒められるが嬉しくない。
 俺まで怪獣大戦争に巻き込まないでほしかった。恨みがましく睨むけれど師匠はくっくと喉を鳴らして笑うばかりで、全然申し訳ないとは思ってくれないようだ。

「せいぜい強くなれ、エシャ。ユルカの興味がお前に向いてる限り、俺はしばらく楽出来る」

 昨日の試合で勝ったことでまた楔として強固にはなっただろうが、たった一人で楔役をやり続けるのは心許なかったんだ、と。師匠は珍しく愚痴を溢し、俺の耳朶を撫でた。

「そんなぁ」
「センセイごっこはいたくお気に召したらしいからな。お前が自分を越したと感じれば、俺以上の楔になれるだろうよ」

 荷が重い。
 俺は天才じゃなく努力の凡夫なんだ、と長くため息を吐くと、師匠はぎゅっと俺の背中に腕を回してきた。

「そんな重く考えんな。……そうだな、一緒に楔に成れってのは俺の我儘だし、なんかお前の我儘も叶えてやるよ」

 どうよ、とばかりに顔を覗き込まれて、綺麗な緑色の瞳に俺を映すのを見て降参するしかない。
 師匠が望んだことだ。師匠が大好きで大好きで仕方のない俺が拒否出来る筈がない。

「俺の我儘なんて、一個しか無いよ」
「なんだ。言ってみろ。王立図書館の禁書庫にでも入りてぇのか?」

 王宮にも何人か学園時代の知り合いが居るから頼めばなんとかなるぞ、と的外れな事を言う師匠に、ぐっと顔を寄せてその唇に噛みついた。

「俺はね、師匠。ずっと、ずーーーーっと、このギルドにいるからね」
「は? それの何が我儘だって……」
「ここに永久就職させて、師匠。俺を、俺だけを、死ぬまで師匠の弟子にして」

 それが俺の我儘。
 師匠の口の中に欲まみれの言葉を吐き出すと、師匠は顔をくしゃくしゃにして笑い出した。そして、お返しとばかりに俺の唇に噛み付いてくる。

「ばっかお前、そんなの我儘になんねーよ。可愛すぎか。天使だろお前」
「そうだよ。師匠の天使」
「そー。俺の天使。可愛い可愛い、天使みたいに可愛い俺のエシャ」

 噛み付いて、噛み付き返して、舐めて、吸って、撫で回して。
 そういう意味で触れられなかった時間を取り返すみたいにお互い隅々まで触れ合って、夜は更けていく。
 朝日が何回登っても、何回夜がこようとも、俺はもう師匠から離れない。








END.

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