師匠、俺は永久就職希望です!

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12 無事成人、そして当然

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「おい、トゥリ」
「ん?」

 成人の儀が終わって教会から出ると、早速とばかりにヘリアが寄ってきて俺の方に一枚のカードを寄越してきた。

「……? なんだこれ」
「『ソーシカ』の紋章入りの身分証明だ。一応仮でも加入していたから偽造じゃない。お前のところのギルドは弱小過ぎて他ギルドとの合同仕事の時はまず間違いなく舐められるだろうから、それを見せるといい。うちと交流があると知れば軽んじられないだろう」

 フフン、と偉そうに胸を張ったヘリアは、今日は真っ黒のガーゴイルの皮で作った重そうなローブ姿だ。
 ヘリアだけでなく、卒業式が終わった後は皆、自分用に誂えたローブに身を包んで成人の儀を受けた。
 ピートは隠密系の仕事が多いからかローブではなく布のヒラつきの無い濃紺のオーバーオールを着ている。
 俺は白地に緑の糸で刺繍の入った足首まであるローブだ。朝渡された時に気付いたのだけど、刺繍の模様は師匠が昨日着ていたものと全く一緒だった。刺繍糸の色も言わずもがな、ここまで全力で自分の物だと主張してくるかと呆れたのだけど、まあ悪い気はしない。
 俺の卒業式に揃いのローブで保護者席に座っていた師匠は、けれど式が終わった瞬間に他の保護者──どうやら学園時代の知り合いがそこそこ居たらしい──に囲まれて、面倒くさそうに姿を消してしまった。
 卒業式の後は近くの教会へ場所を移して成人の儀に移行する慣わしで、これで俺も晴れて正式に成人と認められたことになる。
 雲一つない晴天の今日は絶好の儀式日和だ。大気に穏やかな魔力が満ちているからか、生徒の──元・生徒の保護者達が連れてきた使い魔がそこかしこで教会の建物の周囲をぐるりと囲む水場で水浴びをしている。俺も前から猫か梟の使い魔が欲しいのだけど、師匠が「お前が世話するのは俺だけでいい」と言って許してくれなかった。
 働くとなれば魔力を使わずに情報を伝達出来る使い魔は必須になってくるだろう。帰宅したらせめて鴉でいいから欲しいと強請ってみようか。
 迎えに来るだろう師匠を探して辺りを見回しながら、ヘリアから受け取ったカードをローブの内側の隠しポケットに仕舞った。

「使うかどうかは分かんないけど受け取っとく。ありがとな」
「お前にはうちから仕事を卸す機会も多いだろうし、変な噂が立つと不味いんだ。せいぜい今まで以上に頑張ってくれよ。学園で優秀でも仕事になったらてんでダメだなんてなったらソーシカまで見下げられるんだからな」
「分かってるって。仕事の段取りに関しては素人だから、しばらくはユルカ様の下で指導してもらう手筈になってるから心配すんな」
「……それと、お前の師匠をみくびって『悪かった』。ちゃんと魔術師だったんだな」
「ん? ああ、そっか、俺が勝ったら謝れって契約してたんだっけ。『契約完了』」
「……はー、エシャがヘリアの言葉を正しく変換するようになっちゃってつまんない」

 俺とヘリアのやりとりを黙って聞いていたピートが拗ねるように言って、ヘリアの靴の踵辺りを爪先で蹴っている。ヘリアはそれにチラリと視線をやるだけで特に気分を害した様子もなく、促すようにピートの肩を押して俺の前へ出してきた。

「お前は明日からしばらく遠征だろ。何かトゥリに言っておかなくていいのか? 学園みたいに毎日は会えなくなるんだぞ?」
「はあ? 馬鹿じゃないの。子供じゃないんだから、毎日会えなくて寂しいとか無いから」
「そうか。僕は結構寂しいけどな。お前もトゥリも目の保養にしていたから」
「うわ気持ち悪っ」
「おい、勝手に人の見た目を癒しに使うな」
「そうだよ、保養代を出せ利用料十万モルだ」
「日数で割れば結構割安だな」
「ちょ、エシャ聞いた? こいつ本気で俺たちを癒しグッツだと思ってるよ。絶対エシャで抜いてるよ」
「いやピートだろ。俺よりお前の方が仲良かったし」
「どんなに綺麗でも男に興味は無いから安心しろ」

 腕を組んで堂々と言い放つヘリアに、ピートが「じゃあ俺が迫っても平気なんだね?」と揶揄うみたいに手をワキワキと動かして、「迫るというより強姦魔みたいだぞ」と呆れられている。
 馬鹿みたいなやり取りもヘリアの言う通りしばらくは無くなってしまうのかと思うと少し寂しく、しかしヘリアとピートがふざけて拳でやり合い始めたのを見てそっと後退った。

「あ、こらエシャ、逃げんなって」
「そうだぞトゥリ。たまにはお前も混ざれ」
「やだよ、俺は魔術師だぞ。体格差考えろ筋肉達磨共」

 何が楽しくて殴り合わなければならないのかと逃げようとするのに、笑いながら殴りかかってきたヘリアの拳を咄嗟に障壁で阻もうとした。
 が、寸前で俺の体は後ろにぐっと引かれて、気付いた時には師匠の腕の中に居た。

「なにやってんだ。成人の儀の直後に喧嘩とか、取り消してもらってきた方がいいんじゃねぇか?」

 心底呆れたような目で見られて、三人で顔を見合わせて肩を竦める。

「……ちょっとテンションが上がってしまって」
「……明日から会えないのが寂しくて」
「……俺は嫌だって言った」
「あ、こらトゥリ、お前だけ」
「いや事実だから」
「今障壁出そうとしてたよね、俺見てたからね」
「なら参加の意思はあったって事だな」
「巻き込まれただけだろ」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐと再び師匠にため息を吐かれて、それでまた三人して黙って。数秒の沈黙の後、誰からともなくクスクスと笑い出した。

「ピート、やっぱ寂しいんじゃん」
「うるさいよ。五年も毎日一緒だったら寂しくてもおかしくないでしょ」
「最初からそう言えばいいのに、素直じゃない奴だな」
「ヘリアにだけは言われたくない」
「僕はいつも素直だ」

 写真を撮ろうと言い出したピートが親を呼んできて、それでヘリアの親も来て。師匠が丁寧に挨拶して敬語になるのを初めて見た俺はそれを見て笑い出して、師匠に(後で覚えてろよ)という目をされた。
 みんなで写真を撮って、これから数ヶ月先までの予定を話して、年末のホリデーにはまた会おうと約束して、そして解散になった。

「あー楽しかったー。もっと早くヘリアとちゃんと話しておくんだったなー」
「そうか」
「ピートも、性格悪いけどなんだかんだいい奴だし。やっぱ寂しいよ。明日からもう学園行かないのもなんか不思議な感じ」
「そうだな」

 帰り道、まだ話し足りなくて一人で騒ぐ俺に対して、師匠はなんだか心ここに在らずのように生返事ばかりだ。
 何時間も着慣れないローブ姿だったから疲れたんだろうか、と心配しながら玄関のドアを開けて家の中へ入ると、途端に後ろから抱き締められた。

「っ、わ、何? 師匠、どうしたの? 具合悪い?」
「……アホか。俺は今朝からお前とヤる事しか頭にねーんだよ」

 まだドアも閉めないうちからローブを捲り上げて下着の上からまさぐられて、ひぇっとおののいて逃げようとするのに師匠の腕はまるで蛇のように柔軟に俺の身体を絡め取る。
 下着のシャツの中に潜り込んできた師匠の指が俺の素肌の腹を撫で上げたかと思えば、次の瞬間にはもう俺の胸の突起を摘み取っていた。

「……っ!」
「ココ、弄られたがってたもんなぁ。その割に自分じゃ怖くてあんま触ってねぇんだよな?」

 くりくりと親指と人差し指の腹の間で潰すように捏ねられて腰が跳ねる。前かがみになった俺の尻に師匠の股間が押し付けられて、もう既にそこが硬くなっているのを感じて動揺した。

「や、待っ……、師匠、待って」
「五年待ったろ」
「そうじゃなくてっ、ちょっと心の準備が出来てないっていうかっ」
「準備が必要なのは身体コッチの方だろ」

 俺だって待ち望んでいた筈だ。こうして後ろから抱き竦められて、性急に欲しがられたいと思っていた。
 だけど、いざ実際にとなると頭が追い付かない。
 嬉しいけど怖い。師匠の指は巧みに俺の胸を愛撫してきて、自分でするより何倍も気持ちいい。気持ち良すぎて、もう股間の方が限界だなんて言ったら笑われるかもしれない。
 笑われるならまだいい。まだ始まったばかりなのに極まっているなんてまだまだガキだと呆れられて、またお預けにされてしまうのも怖い。
 頸の後ろに掛かる師匠の吐息がいつもより荒いのも怖いし、初めてなのに玄関先で始められるという想定外なのも怖い。
 怖いことだらけだ。
 師匠とするのはきっと幸せで満ち足りた気持ちになれるんだと思っていたのに、と拳を握って身体を強張らせていると、師匠が掠れる声で「かーわいい」と囁いてきた。

「お前は本当に可愛いな、エシャ。怖がってる割にちんちん硬くして先走りすげーし、乳首弄ると俺にケツ押し付けてくるしよ。もっと乱暴にされてぇか?」
「ち……違……っ」
「可愛い顔して変態だもんなお前。お前の身体ちっこくして強姦プレイはまた今度な? 今日は初めてだから、お前の身体舐めながらぐずぐずにとろけるまで弄り回して「早く入れて」って泣くまでお預け、って決めてっから」

 後ろ手で玄関ドアを閉めた師匠はもう勝手にプランを決めていたかのように言うと、俺の腰骨を掴んでひょいと肩の上まで持ち上げた。

「師匠っ……、俺、普通にセックスがしたい!」
「あ? 普通普通、ごく普通だ」
「玄関で始めるののどこが普通なんだよっ」
「だからちゃんとベッドに向かってんだろうが」

 うるせぇぞ、とバチッと尻を叩かれて、それが何故か前の方に響いて少し漏らしてしまう。じわりと滲んだ先走りは師匠のローブの肩を濡らして、それに気付いたのか師匠がクッと喉を鳴らして笑った。

「ほんとにかわいーなぁ、エシャ。あんま煩いと『お仕置き』も追加しちまうかもなぁ?」
「~~っ」

 軽く叩かれた痛みに悦んだことを悟られて顔から火が出そうに恥ずかしい。

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